鳴子章吉
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鳴子章吉は田所迅を慕っていたし、田所パンのパンをとても気に入っていたので、田所が総北高校を卒業してからも度々パンを買いに来た。
それは手嶋と青八木も同様であったので、一緒に来ることもあったし、申し合わせてもないのに店で先輩たちに会うこともある。が、その日は部活帰りに鳴子はひとりで田所パンに寄った。
鳴子がパンを買いに来る夕方は忙しく、また田所は裏方にいる方が多いので、軽く目で挨拶して帰るだけだったり、言葉を交わせてもほんの一言二言だけになることも多い。
でもそれで良かった。田所の姿を見ると気持ちが引き締まるし、一年の時の初心も思い出せる。そしてパンはおいしい。
いつものように顔なじみパートの主婦に会計をしてもらおうと選んだパンをレジカウンターに乗せると、意外な人物がいた。
「鳴子、久しぶり」
「名字さん!なんでここにおるんすか」
そこには今にも吹き出しそうでおかしくてたまらないといった表情の、総北高校自転車競技部の元マネージャーがいた。
「店に入った時からそっち見てたのに、鳴子全然気付かないんだもん」
「いや、いつものおばちゃんよう痩せたな思いましたけど顔は確認せんかったんで」
「ふうん」
「なんすか、その顔」
「いや別に。相変わらずよく食べるね」
「弟たちの分もありますし、まあほとんどワイが食うんすけど」
話しながらレジを打つ手は遅くはない。
「慣れてますね名字さん」
「ん、高校の時もバイトしてたし。三年になってから辞めたから鳴子は知らないだろうけど」
鳴子は少し驚いたようだ。大きな目を更に丸くしている。
「可愛いね、鳴子は」
その言葉に今度はムッとしたのもわかる。
「考えてることすぐわかる。見てて飽きないよ」
鳴子は袋にパンを受け取ると少し不機嫌なまま会計をして「ほなまた」と一言残して行ってしまった。
その様子を奥で田所はニヤニヤしながら見守っていたことを鳴子は知らない。
******
「前のパートさんが急に来れなくなってな、地元の短大行ってる名字に頼んだんだよ」
「まあ迅くんに頼まれたら断れないし、バイトも探してたしでお世話になってるんだ」
数日後、鳴子が再度田所パンに寄ると、ちょうど客足の途切れた時間で少し話すことができた。
元マネージャーと田所は仲が良さそうで、家も近く、以前からバイトもしていたらしい。鳴子はそれか少しだけ面白くなかった。
「自転車乗りは食わねーとな」
そう言って田所はパンをおまけしてくれた。鳴子はいつものように振る舞い、足早に店を出た。モヤモヤした気持ちを田所に悟られたくなかったのだ。
恋というよりは淡い憧れだったのだろう。
金城田所巻島世代のマネージャー。
支えて励ましてくれた。
自転車についての知識は鳴子の同学年マネの寒咲に及ばなかったが、人をよく見てくれていた。鳴子はそれが嬉しかったのだ。
二年になり大阪で御堂筋と草レースをしてひとり涙した時も名字がいたら何かカン付かれたかもしれないと思っている。だから卒業していて良かったとも。
憧れは憧れのままで良かったのに。
再開した元マネの先輩は、美しく花開き、鳴子のの心を捕えてしまったようだ。
だけど相手が田所ならいい。
鳴子は何も告げず身を引くつもりだったのだ。
鳴子はその後も何度も田所パンに通い、少しだけ名字に近況を話す。それがささやかな幸せで、それで満足していた。
それは手嶋と青八木も同様であったので、一緒に来ることもあったし、申し合わせてもないのに店で先輩たちに会うこともある。が、その日は部活帰りに鳴子はひとりで田所パンに寄った。
鳴子がパンを買いに来る夕方は忙しく、また田所は裏方にいる方が多いので、軽く目で挨拶して帰るだけだったり、言葉を交わせてもほんの一言二言だけになることも多い。
でもそれで良かった。田所の姿を見ると気持ちが引き締まるし、一年の時の初心も思い出せる。そしてパンはおいしい。
いつものように顔なじみパートの主婦に会計をしてもらおうと選んだパンをレジカウンターに乗せると、意外な人物がいた。
「鳴子、久しぶり」
「名字さん!なんでここにおるんすか」
そこには今にも吹き出しそうでおかしくてたまらないといった表情の、総北高校自転車競技部の元マネージャーがいた。
「店に入った時からそっち見てたのに、鳴子全然気付かないんだもん」
「いや、いつものおばちゃんよう痩せたな思いましたけど顔は確認せんかったんで」
「ふうん」
「なんすか、その顔」
「いや別に。相変わらずよく食べるね」
「弟たちの分もありますし、まあほとんどワイが食うんすけど」
話しながらレジを打つ手は遅くはない。
「慣れてますね名字さん」
「ん、高校の時もバイトしてたし。三年になってから辞めたから鳴子は知らないだろうけど」
鳴子は少し驚いたようだ。大きな目を更に丸くしている。
「可愛いね、鳴子は」
その言葉に今度はムッとしたのもわかる。
「考えてることすぐわかる。見てて飽きないよ」
鳴子は袋にパンを受け取ると少し不機嫌なまま会計をして「ほなまた」と一言残して行ってしまった。
その様子を奥で田所はニヤニヤしながら見守っていたことを鳴子は知らない。
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「前のパートさんが急に来れなくなってな、地元の短大行ってる名字に頼んだんだよ」
「まあ迅くんに頼まれたら断れないし、バイトも探してたしでお世話になってるんだ」
数日後、鳴子が再度田所パンに寄ると、ちょうど客足の途切れた時間で少し話すことができた。
元マネージャーと田所は仲が良さそうで、家も近く、以前からバイトもしていたらしい。鳴子はそれか少しだけ面白くなかった。
「自転車乗りは食わねーとな」
そう言って田所はパンをおまけしてくれた。鳴子はいつものように振る舞い、足早に店を出た。モヤモヤした気持ちを田所に悟られたくなかったのだ。
恋というよりは淡い憧れだったのだろう。
金城田所巻島世代のマネージャー。
支えて励ましてくれた。
自転車についての知識は鳴子の同学年マネの寒咲に及ばなかったが、人をよく見てくれていた。鳴子はそれが嬉しかったのだ。
二年になり大阪で御堂筋と草レースをしてひとり涙した時も名字がいたら何かカン付かれたかもしれないと思っている。だから卒業していて良かったとも。
憧れは憧れのままで良かったのに。
再開した元マネの先輩は、美しく花開き、鳴子のの心を捕えてしまったようだ。
だけど相手が田所ならいい。
鳴子は何も告げず身を引くつもりだったのだ。
鳴子はその後も何度も田所パンに通い、少しだけ名字に近況を話す。それがささやかな幸せで、それで満足していた。