鳴子章吉
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大晦日は年末ダイヤでいつもより遅くまで電車がある。そのことに安心してすっかり遅くなってしまった。
友達が好きだっていうロックバンドの年越しライブに付き合って、少しだけお酒を飲んだ。はじめてのライブも苦手なお酒も楽しくて。
駅で友達と別れるまで気づかなかった、こんなに酔っ払っていることに。
たしかにお酒は強くない。でも今日だってそんなにのんでいない。久しぶりだったからか体調が良くなかったのかわからないけど、そんな様子で電車に揺られていたら気持ち悪さがピークになってきた。
ホームに停まりドアが開くと、どこの駅かも確認せずすぐに降りた。
横になりたい横になりたい、グラグラする。吐き気はまだこないけど気持ちは悪い。
駅のホームのベンチに寄りかかる。さすがにこれに寝るのは女としてどうだろう。どこかに休むところあるのかな。
それより今の電車が終電だったのにどうしよう。
気持ちの悪さに加えて心細さと不安が湧いてきて、泣きそうになった。実際少し泣いていたかもしれない。
「おねーさんどうしたん、気分わるいんか」
この辺りではあまり聞かない典型的な関西弁。こんな喋り方をする人が高校の同級生にいたけど、卒業してからは会っていないし、彼以来だな、と思いながら声のした方向を見る。
「顔真っ青やん、どないしたん」
心配そうに目線を合わせてくれる。優しい人だ。喋ると八重歯がチラリと覗く。
ん、八重歯?関西弁?それにこの大きくて意志の強いネコ目に、何より目立つ赤い髪。
「なるこ、くん?」
同級生の名を呼ぶと彼は少し怪訝な表情をしたがすぐわかってくれたみたいだった。
「名前ちゃんやん!わからんかったわ。えらい酔っ払ってるからか」
「ごめん、そうだよね、よかった鳴子くんに会えて」
知り合いに会って、今度は安堵の涙が溢れる。ポロポロと泣く私を見て鳴子くんは慌てていた。
「泣き止めや、せやからどないしたん。ワイが泣かせてるみたいやないか」
「そうだよ、鳴子くんのせいだよ」
「ワイなにかしたか」
「安心した。良かった、鳴子くんに会えて」
「あー、あんまり女の子がそんなこと言うもんやないで」
「どうして」
「いや、どうして言うてもなー」
鳴子くんは考えながら目線を泳がせていたが、やがて面倒になったのかまあええかと呟いた。
「名前ちゃんこの駅なん?ワイもやで。なんや危なっかしいし、送っていくわ」
ホームに人影もなくなり、このままでは駅員さんも困るだろう。
鳴子くんと話しているうちに気分も少し良くなってきて立ち上がることができた。
「うん、ありがとう。でも私の家ここじゃないんだ。揺れが気持ち悪くて降りちゃった」
「そうなんか、さっきので終電やで、自分どこまで行くはずやったん」
私が自宅の最寄り駅を告げるとさすがに鳴子くんも困った顔をした。
「こっから一時間以上もあるからさすがに送っていけんなあ、ファミレスかカラオケでも行くか、付き合うで」
「うーん、さすがに鳴子くんに悪いし、今は休みたいかな」
「ならどっかビジネスホテルとかまで送ろうか」
夜の一人歩きは怖いし、それはありがたいと思ったが、私は今現在の所持金が小学生の小遣い程度しかないのを思い出した。
「あー、それもお金が」
「ほんなら」
「なら?」
少しの間。
うーとかあーとかたまに呻きながらあちこち視線をやる鳴子くんを見てるのは面白かった。
「あー」
「?」
「ワイんち……くるか……」
鳴子くんは真剣な表情で、少しだけ頬は赤くて。つり眉は困ったみたいになってて。
どうしてか私は完全に信用したし、とても嬉しいと思って、彼のコートの袖をつかんだ。
ありがとう、と小さな声で告げると、鳴子くんは、そんなに簡単に男の家にあがったらアカンと優しく注意しながら、手を引いてくれた。
手袋もしてないのに暖かいその手に、私の心も熱くなって、気分が悪いのなんか蒸発したみたいだ。
うるさい心臓と熱い頬を夜風が冷やすのを感じながら、誰かが突く金の音を聞いた。
今年はよろしくできますように。
END
友達が好きだっていうロックバンドの年越しライブに付き合って、少しだけお酒を飲んだ。はじめてのライブも苦手なお酒も楽しくて。
駅で友達と別れるまで気づかなかった、こんなに酔っ払っていることに。
たしかにお酒は強くない。でも今日だってそんなにのんでいない。久しぶりだったからか体調が良くなかったのかわからないけど、そんな様子で電車に揺られていたら気持ち悪さがピークになってきた。
ホームに停まりドアが開くと、どこの駅かも確認せずすぐに降りた。
横になりたい横になりたい、グラグラする。吐き気はまだこないけど気持ちは悪い。
駅のホームのベンチに寄りかかる。さすがにこれに寝るのは女としてどうだろう。どこかに休むところあるのかな。
それより今の電車が終電だったのにどうしよう。
気持ちの悪さに加えて心細さと不安が湧いてきて、泣きそうになった。実際少し泣いていたかもしれない。
「おねーさんどうしたん、気分わるいんか」
この辺りではあまり聞かない典型的な関西弁。こんな喋り方をする人が高校の同級生にいたけど、卒業してからは会っていないし、彼以来だな、と思いながら声のした方向を見る。
「顔真っ青やん、どないしたん」
心配そうに目線を合わせてくれる。優しい人だ。喋ると八重歯がチラリと覗く。
ん、八重歯?関西弁?それにこの大きくて意志の強いネコ目に、何より目立つ赤い髪。
「なるこ、くん?」
同級生の名を呼ぶと彼は少し怪訝な表情をしたがすぐわかってくれたみたいだった。
「名前ちゃんやん!わからんかったわ。えらい酔っ払ってるからか」
「ごめん、そうだよね、よかった鳴子くんに会えて」
知り合いに会って、今度は安堵の涙が溢れる。ポロポロと泣く私を見て鳴子くんは慌てていた。
「泣き止めや、せやからどないしたん。ワイが泣かせてるみたいやないか」
「そうだよ、鳴子くんのせいだよ」
「ワイなにかしたか」
「安心した。良かった、鳴子くんに会えて」
「あー、あんまり女の子がそんなこと言うもんやないで」
「どうして」
「いや、どうして言うてもなー」
鳴子くんは考えながら目線を泳がせていたが、やがて面倒になったのかまあええかと呟いた。
「名前ちゃんこの駅なん?ワイもやで。なんや危なっかしいし、送っていくわ」
ホームに人影もなくなり、このままでは駅員さんも困るだろう。
鳴子くんと話しているうちに気分も少し良くなってきて立ち上がることができた。
「うん、ありがとう。でも私の家ここじゃないんだ。揺れが気持ち悪くて降りちゃった」
「そうなんか、さっきので終電やで、自分どこまで行くはずやったん」
私が自宅の最寄り駅を告げるとさすがに鳴子くんも困った顔をした。
「こっから一時間以上もあるからさすがに送っていけんなあ、ファミレスかカラオケでも行くか、付き合うで」
「うーん、さすがに鳴子くんに悪いし、今は休みたいかな」
「ならどっかビジネスホテルとかまで送ろうか」
夜の一人歩きは怖いし、それはありがたいと思ったが、私は今現在の所持金が小学生の小遣い程度しかないのを思い出した。
「あー、それもお金が」
「ほんなら」
「なら?」
少しの間。
うーとかあーとかたまに呻きながらあちこち視線をやる鳴子くんを見てるのは面白かった。
「あー」
「?」
「ワイんち……くるか……」
鳴子くんは真剣な表情で、少しだけ頬は赤くて。つり眉は困ったみたいになってて。
どうしてか私は完全に信用したし、とても嬉しいと思って、彼のコートの袖をつかんだ。
ありがとう、と小さな声で告げると、鳴子くんは、そんなに簡単に男の家にあがったらアカンと優しく注意しながら、手を引いてくれた。
手袋もしてないのに暖かいその手に、私の心も熱くなって、気分が悪いのなんか蒸発したみたいだ。
うるさい心臓と熱い頬を夜風が冷やすのを感じながら、誰かが突く金の音を聞いた。
今年はよろしくできますように。
END