荒北靖友
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「オメーなにしてンだよ」
部室裏。建物と木の陰で死角になるここで膝を抱えてうずくまっている箱根学園の制服姿の少女。
マネがいないので用意が滞り、一年生が慌しく動いているのを聞いていた。
「休むならきちんと休めヨ、構ってちゃんな中途半端なことしてんじゃねー」
部の先輩でレギュラー。そして名字の彼氏でもある荒北靖友に腕を掴まれ立たされる。
「立てヨ。女子寮まで送ってく」
「う……。靖友……」
「あ?アァ?何泣いてンだよ名前」
心配そうに覗き込む。肩に置いた手も先程より優しいものになっていた。
せっかく立った名字であったが、再度同じ場所に座る。違うのは隣に荒北もいること。
しゃくり上げながらも口を開く。
「私だって自転車好きで……女子部はないから高校ではマネやるって決めてて」
「ああ」
「自分なりに部のみんなを支えたいと思ってたんだけど……」
「おー」
「無理かも」
ポロポロと涙が溢れる。強くなりたいと思う、こんなことで好きなことを投げ出したくなんかないのに。
「話せよ」
荒北は普段とは違う穏やかな表情で名字を見ていた。
「オメーが良くやってんのも自転車が好きなのも知ってる。理由もなしに辞めるとか言わねーこともな」
少なくともこの人は自分をわかってくれているんだと、名字は胸がじんわり暖かくなるのを感じていた。
「うん……。でも場所が悪いかな」
「場所?どこだっていーだろォ、話するくらい」
「ここがいい」
名字は荒北の前、座る荒北の広げられた脚の間を指した。
すっぽりと大好きな人に包まれるような安心感からか、落ちついて全てを話せた。
あまり荒北に良い影響はないだろうから隠しておきたかったが、まだ年端もいかない少女にはそれは難しい。
名字が自転車部のマネージャーをしているのは男目当てだと噂されていること。用事があり話かけたにも関わらず、それだけで翌日は「私の東堂さま取らないで、新開くんと口聞かないで」などと知らない女子から文句を言われ続けていることどを伝えた。
今日になりついに言葉だけでなく、掃除のゴミをわざと掛けられるといったことがあり、耐えられなくなり部室に入れなかったのだと。
「オメーそれいつからだ、どこのどいつだよ」
「わりと最初から……同学年の子はしなくて、先輩の、みんなのファンの人たち」
荒北は勢いよく立ち上がる。膝の間に収まっていた名字は驚いて彼を見上げると、纏っている空気が違う、ピリピリしているのがわかる。
「絶対許さねー」
「待って、相手は女の子だし、私がマネ辞めればいいんだよ」
「ハッ、マネいなきゃ困るだろーが、オメーの為じゃねー、オレが気に入らねェからオレのために潰しに行くンだよ」
「やめてよ靖友、インターハイでれなくなる」
「…………チッ」
インターハイの言葉は効果抜群で、野獣を飼い犬にするには十分だったようだ。
しばらくイラついたように地面や木を蹴っていたが、やがてまた名字の隣に腰を下ろした。
「名前チャンが公表すればいいんじゃないのォ」
「何を」
「オレと付き合ってること」
「うん」
「そーすりゃ東堂や新開取るなとかワケわかんねーこと言われねーヨ」
「マネージャーとして部のみんなに公平に接したいから靖友が引退するまで黙ってたかったんだけど」
「それもわかっけど名前が辞めたら意味ねーだろ、とにかくとりあえず福チャンとかあいつらには話す」
「うん」
「行こうぜ」
「靖友」
部室に体を向けていた荒北に両手を伸ばす。抱っこして、のポーズだ。
「アァ?外じゃしねーって言ってンだろぉ」
「靖友が!付き合う時に護ってくれるって言ってたのに私のこと泣かすから!」
「チッ……」
舌打ちとともにではあるが抱きしめてくれた。
靖友の体温、匂い、鼓動、息遣い。そういったものが全て好きだ。力になる。
ああ生きていける。
嘘や誇張でなく名字は心底そう思った。荒北と出会う前の自分を思い出せないほどにはなくてはならない存在だ。
「キスも」
抱き合ったままそう告げると、文字通り噛み付いてきた。噛みつくようなキスではない、唇も鼻も顎にも歯を立てられた。
抗議の声を上げようと口を開けば舌が浸入してくる。
舌を絡ませ、送られてくる唾液を飲み込んだ。吸われて引き出された舌すら噛まれそう。
口内をいいように犯されて、あちこち噛まれて、それがたまらなく幸せなんだから全くどうかしている。
「行くぞ、ちゃんと歩けヨ」
「うん、靖友」
「ア?」
「大好き」
「嫌いじゃねーよ、オレも」
髪の毛をくしゃくしゃと混ぜられて、キスで蕩けてしまった名字は荒北に縋るように歩いた。部室は目の前。
ちなみに報告するも何もなく、部室裏で言い合っていたので、部室内にいた人、さらには周囲にも丸聞こえで、二人が付き合っているのは周知の事実となった。
後に、裏で何があったかは知らないが、嫌がらせをした先輩の女子たちからも誤解した謝罪をもらい、今は名字に対するそういったことは一切なくなった。
自転車競技部マネとして、彼氏の最初で最後のインターハイを全力でサポートしたいと、名字は今日も忙しく働くのであった。
END
部室裏。建物と木の陰で死角になるここで膝を抱えてうずくまっている箱根学園の制服姿の少女。
マネがいないので用意が滞り、一年生が慌しく動いているのを聞いていた。
「休むならきちんと休めヨ、構ってちゃんな中途半端なことしてんじゃねー」
部の先輩でレギュラー。そして名字の彼氏でもある荒北靖友に腕を掴まれ立たされる。
「立てヨ。女子寮まで送ってく」
「う……。靖友……」
「あ?アァ?何泣いてンだよ名前」
心配そうに覗き込む。肩に置いた手も先程より優しいものになっていた。
せっかく立った名字であったが、再度同じ場所に座る。違うのは隣に荒北もいること。
しゃくり上げながらも口を開く。
「私だって自転車好きで……女子部はないから高校ではマネやるって決めてて」
「ああ」
「自分なりに部のみんなを支えたいと思ってたんだけど……」
「おー」
「無理かも」
ポロポロと涙が溢れる。強くなりたいと思う、こんなことで好きなことを投げ出したくなんかないのに。
「話せよ」
荒北は普段とは違う穏やかな表情で名字を見ていた。
「オメーが良くやってんのも自転車が好きなのも知ってる。理由もなしに辞めるとか言わねーこともな」
少なくともこの人は自分をわかってくれているんだと、名字は胸がじんわり暖かくなるのを感じていた。
「うん……。でも場所が悪いかな」
「場所?どこだっていーだろォ、話するくらい」
「ここがいい」
名字は荒北の前、座る荒北の広げられた脚の間を指した。
すっぽりと大好きな人に包まれるような安心感からか、落ちついて全てを話せた。
あまり荒北に良い影響はないだろうから隠しておきたかったが、まだ年端もいかない少女にはそれは難しい。
名字が自転車部のマネージャーをしているのは男目当てだと噂されていること。用事があり話かけたにも関わらず、それだけで翌日は「私の東堂さま取らないで、新開くんと口聞かないで」などと知らない女子から文句を言われ続けていることどを伝えた。
今日になりついに言葉だけでなく、掃除のゴミをわざと掛けられるといったことがあり、耐えられなくなり部室に入れなかったのだと。
「オメーそれいつからだ、どこのどいつだよ」
「わりと最初から……同学年の子はしなくて、先輩の、みんなのファンの人たち」
荒北は勢いよく立ち上がる。膝の間に収まっていた名字は驚いて彼を見上げると、纏っている空気が違う、ピリピリしているのがわかる。
「絶対許さねー」
「待って、相手は女の子だし、私がマネ辞めればいいんだよ」
「ハッ、マネいなきゃ困るだろーが、オメーの為じゃねー、オレが気に入らねェからオレのために潰しに行くンだよ」
「やめてよ靖友、インターハイでれなくなる」
「…………チッ」
インターハイの言葉は効果抜群で、野獣を飼い犬にするには十分だったようだ。
しばらくイラついたように地面や木を蹴っていたが、やがてまた名字の隣に腰を下ろした。
「名前チャンが公表すればいいんじゃないのォ」
「何を」
「オレと付き合ってること」
「うん」
「そーすりゃ東堂や新開取るなとかワケわかんねーこと言われねーヨ」
「マネージャーとして部のみんなに公平に接したいから靖友が引退するまで黙ってたかったんだけど」
「それもわかっけど名前が辞めたら意味ねーだろ、とにかくとりあえず福チャンとかあいつらには話す」
「うん」
「行こうぜ」
「靖友」
部室に体を向けていた荒北に両手を伸ばす。抱っこして、のポーズだ。
「アァ?外じゃしねーって言ってンだろぉ」
「靖友が!付き合う時に護ってくれるって言ってたのに私のこと泣かすから!」
「チッ……」
舌打ちとともにではあるが抱きしめてくれた。
靖友の体温、匂い、鼓動、息遣い。そういったものが全て好きだ。力になる。
ああ生きていける。
嘘や誇張でなく名字は心底そう思った。荒北と出会う前の自分を思い出せないほどにはなくてはならない存在だ。
「キスも」
抱き合ったままそう告げると、文字通り噛み付いてきた。噛みつくようなキスではない、唇も鼻も顎にも歯を立てられた。
抗議の声を上げようと口を開けば舌が浸入してくる。
舌を絡ませ、送られてくる唾液を飲み込んだ。吸われて引き出された舌すら噛まれそう。
口内をいいように犯されて、あちこち噛まれて、それがたまらなく幸せなんだから全くどうかしている。
「行くぞ、ちゃんと歩けヨ」
「うん、靖友」
「ア?」
「大好き」
「嫌いじゃねーよ、オレも」
髪の毛をくしゃくしゃと混ぜられて、キスで蕩けてしまった名字は荒北に縋るように歩いた。部室は目の前。
ちなみに報告するも何もなく、部室裏で言い合っていたので、部室内にいた人、さらには周囲にも丸聞こえで、二人が付き合っているのは周知の事実となった。
後に、裏で何があったかは知らないが、嫌がらせをした先輩の女子たちからも誤解した謝罪をもらい、今は名字に対するそういったことは一切なくなった。
自転車競技部マネとして、彼氏の最初で最後のインターハイを全力でサポートしたいと、名字は今日も忙しく働くのであった。
END
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