東堂庵と饅頭屋 中編
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あれから一週間、なんとなく胸の奥がすっきりしない気持ちのまま過ぎた。もちろん表には出さないよう、仕事も部活も学業もそれなりにこなしたつもりだ。
「配達に行ってきまーす」
「はーい、尽八くんによろしくすんのよ」
「やめてよ!!」
お母さんにはすっかり私の気持ちがバレているのかよくからかわれる。
赤くなった頬は強めの日差しによりごまかせるだろう。
初夏を感じるいい日だ。台車を持ち坂を下る。
風を。風を感じる。
なにかが、くる。
「巻ちゃん!どうだ我が箱根の山は最高だろう!」
「別にお前のものじゃねぇショ、だが山は最高だ」
遠目からでもわかる、凛とした完璧なフォームの東堂さんと。
対照的に身体を大きく揺すりながら緑色の髪をなびかせている手足の長いひと、あれは。
「巻ちゃん!!」
東堂さんの嬉しそうに呼ぶ声。
あの人が、マキちゃん。
何やら話ながらも風を起こして切り裂き、まさに一陣の風と共に消えてしまった。
いつもの最高にカッコいい東堂さんと、マキちゃんはとても「綺麗……」
「名字名前さん!」
お饅頭を納品して東堂庵を出てすぐのことだった。
休憩中なのだろうか、タオルで拭いてはいたけど汗で髪が張り付いていてそれがまた似合っていた。
「カッコいい……」
「そんなに見惚れるでないぞ名字名前さん!今は巻ちゃんもおるのだ!」
東堂さんの近くに先ほどの彼がいた。泣きぼくろに艶ぼくろのある美しい人だ。
傍らにはタイムが寄り添っている。
「彼が我が生涯にして最大のライバルの巻ちゃんだ!名字名前さんには先週話したし紹介しておこうと思ってな!」
彼は巻島さんと言うらしい。最高のライバルであること、たまに休日には山を登り合うことや、今度のインターハイで勝負をつけるのだと教えてくれた。
皆や私が思っていた彼女ではなかったのだ。
楽しそうに喋る東堂さんの横で、巻島さんはよそを向いたまま黙っていた。
私はお邪魔かもしれない。お暇しようと声をかけるが、巻島さんの登る姿は美しく、一言伝えたかった。
「巻島さんのフォームはとても、綺麗ですね」
急に声を掛けられて驚いたように私を見たが、やがて困ったように小声で「キモいでいいっショ」と言った。
その後の東堂さんはなんだか不機嫌で、すっきりしない別れ方になってしまった。
「東堂に死刑にされちまう」
そう巻島さんが呟いたのはどういう意味だったのだろう。
「配達に行ってきまーす」
「はーい、尽八くんによろしくすんのよ」
「やめてよ!!」
お母さんにはすっかり私の気持ちがバレているのかよくからかわれる。
赤くなった頬は強めの日差しによりごまかせるだろう。
初夏を感じるいい日だ。台車を持ち坂を下る。
風を。風を感じる。
なにかが、くる。
「巻ちゃん!どうだ我が箱根の山は最高だろう!」
「別にお前のものじゃねぇショ、だが山は最高だ」
遠目からでもわかる、凛とした完璧なフォームの東堂さんと。
対照的に身体を大きく揺すりながら緑色の髪をなびかせている手足の長いひと、あれは。
「巻ちゃん!!」
東堂さんの嬉しそうに呼ぶ声。
あの人が、マキちゃん。
何やら話ながらも風を起こして切り裂き、まさに一陣の風と共に消えてしまった。
いつもの最高にカッコいい東堂さんと、マキちゃんはとても「綺麗……」
「名字名前さん!」
お饅頭を納品して東堂庵を出てすぐのことだった。
休憩中なのだろうか、タオルで拭いてはいたけど汗で髪が張り付いていてそれがまた似合っていた。
「カッコいい……」
「そんなに見惚れるでないぞ名字名前さん!今は巻ちゃんもおるのだ!」
東堂さんの近くに先ほどの彼がいた。泣きぼくろに艶ぼくろのある美しい人だ。
傍らにはタイムが寄り添っている。
「彼が我が生涯にして最大のライバルの巻ちゃんだ!名字名前さんには先週話したし紹介しておこうと思ってな!」
彼は巻島さんと言うらしい。最高のライバルであること、たまに休日には山を登り合うことや、今度のインターハイで勝負をつけるのだと教えてくれた。
皆や私が思っていた彼女ではなかったのだ。
楽しそうに喋る東堂さんの横で、巻島さんはよそを向いたまま黙っていた。
私はお邪魔かもしれない。お暇しようと声をかけるが、巻島さんの登る姿は美しく、一言伝えたかった。
「巻島さんのフォームはとても、綺麗ですね」
急に声を掛けられて驚いたように私を見たが、やがて困ったように小声で「キモいでいいっショ」と言った。
その後の東堂さんはなんだか不機嫌で、すっきりしない別れ方になってしまった。
「東堂に死刑にされちまう」
そう巻島さんが呟いたのはどういう意味だったのだろう。
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