東堂庵と饅頭屋 中編
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私の家は老舗の饅頭屋さんだ。箱根に温泉饅頭は数あれど、うちの饅頭がなんたって美味しくて有名だ。
小さな頃はなんだかそれが恥ずかしかったり、手伝いをさせられることが嫌だったりしたけど、今は誇りに思っている。
朝早くから餡をたいて、小麦の皮の蒸ける匂い。その日の出来立てをお土産やさんや旅館の売店に卸すのだ。
遠くの店へはお父さんが車で届けるが、繁忙期などは近くへはお母さんと台車で届けることもあった。
その日も二人でお饅頭の入ったケースを積んで運んでいた。
箱根は坂が多い。なかなか台車を使うのも一苦労だ。転がり落ちないよう前後で支えて坂を下りる。
ふと遠くから自転車に乗った人の影が見えたかと思うと、あっという間に眼前に現れ、風のような速さで駆け抜けて行った。あれは、自転車?自転車にしてはなんだか……
「かっこいい」
それに速い。速すぎる。
「かっこいいでしょう、東堂庵の息子さんよ」
「あ、かっこいいって、今の自転車のこと」
知らない間に声にでていたらしく、慌てて弁解するもお母さんには隠せなかったらしく、ニヤニヤしている。
「尽八くんて言うんだけどね、カッコよくて人気あるみたいよ、この春から箱根学園の生徒さんだって。あんたも志望校悩んでたし、箱学受けてみなさいよ」
「えー、受かるかなあ。てか東堂庵て」
「そう、これからお饅頭届けに行くところよ、名前も顔くらい見たことあるんじゃない?」
ある。東堂庵の息子。
男の子だけど一言で言えば美形。美形すぎて頼りなさそうな印象もあったけど、あんなふうに自転車を乗るんだ。なんて……
「かっこいい」
また口に出してしまってお母さんに笑われた。
それからも度々坂で見かけたり、時には東堂庵でお饅頭を並べている時声をかけらたり、少しだけ顔見知りになった。
そのころにはすっかり東堂尽八という人物の魅力の虜になっていて、中学二年の私は箱根学園に入学するべく猛勉強を始めたのだった。
無事に箱根学園に入学を果たした私は自転車競技部のマネージャーになるって決めていた。一番のファンとして応援したい。応援するだけじゃなくて、少しだけでいいから力になりたい。
「おお名字名前さんではないか!」
会うと私をフルネームで呼ぶ東堂さん。だって名字さんはお饅頭屋さんのことだからだ。名前さんとは呼びにくいのかもしれない。
とにかく入学してマネ希望で部室を訪れた私に、そう声をかけてくれたことが、飛び上がるほど嬉しかった。
私は今日も、あなたを見ています。
小さな頃はなんだかそれが恥ずかしかったり、手伝いをさせられることが嫌だったりしたけど、今は誇りに思っている。
朝早くから餡をたいて、小麦の皮の蒸ける匂い。その日の出来立てをお土産やさんや旅館の売店に卸すのだ。
遠くの店へはお父さんが車で届けるが、繁忙期などは近くへはお母さんと台車で届けることもあった。
その日も二人でお饅頭の入ったケースを積んで運んでいた。
箱根は坂が多い。なかなか台車を使うのも一苦労だ。転がり落ちないよう前後で支えて坂を下りる。
ふと遠くから自転車に乗った人の影が見えたかと思うと、あっという間に眼前に現れ、風のような速さで駆け抜けて行った。あれは、自転車?自転車にしてはなんだか……
「かっこいい」
それに速い。速すぎる。
「かっこいいでしょう、東堂庵の息子さんよ」
「あ、かっこいいって、今の自転車のこと」
知らない間に声にでていたらしく、慌てて弁解するもお母さんには隠せなかったらしく、ニヤニヤしている。
「尽八くんて言うんだけどね、カッコよくて人気あるみたいよ、この春から箱根学園の生徒さんだって。あんたも志望校悩んでたし、箱学受けてみなさいよ」
「えー、受かるかなあ。てか東堂庵て」
「そう、これからお饅頭届けに行くところよ、名前も顔くらい見たことあるんじゃない?」
ある。東堂庵の息子。
男の子だけど一言で言えば美形。美形すぎて頼りなさそうな印象もあったけど、あんなふうに自転車を乗るんだ。なんて……
「かっこいい」
また口に出してしまってお母さんに笑われた。
それからも度々坂で見かけたり、時には東堂庵でお饅頭を並べている時声をかけらたり、少しだけ顔見知りになった。
そのころにはすっかり東堂尽八という人物の魅力の虜になっていて、中学二年の私は箱根学園に入学するべく猛勉強を始めたのだった。
無事に箱根学園に入学を果たした私は自転車競技部のマネージャーになるって決めていた。一番のファンとして応援したい。応援するだけじゃなくて、少しだけでいいから力になりたい。
「おお名字名前さんではないか!」
会うと私をフルネームで呼ぶ東堂さん。だって名字さんはお饅頭屋さんのことだからだ。名前さんとは呼びにくいのかもしれない。
とにかく入学してマネ希望で部室を訪れた私に、そう声をかけてくれたことが、飛び上がるほど嬉しかった。
私は今日も、あなたを見ています。