社会人メロンパンズ(荒北 鳴子 )長編 完結
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バスで箱根を回ったが特に荒北には珍しいものではない。名字は忙しそうにしていたし、隣の鳴子によく喋るなと思いながら適当に気まぐれに返事をしていた。
やがてバスは国道一号線から脇道に入り、本日の宿へ着く。
「よく来てくれたな!名字さん!」
「東堂さん!人気旅館なのに貸切の融通きかせていただいて本当に感謝いたします」
老舗旅館東堂庵。迎えに出た若頭東堂尽八直々に深々と頭を下げる名字。
皆各部屋に案内されている最中であるが幹事の名字と荒北、と何故か付いてきた鳴子も東堂と挨拶をしていた。
「なあにかまわんよ、後輩、しかもファンクラブの女子の頼みとあっては断れるわけがなかろう」
ビシッと指を差す。
「それに名字さんは特別だからな忘れんよ」
「ナァニが特別なんだよ、メールでもやたら名字ちゃんのこと聞いてきたし、なんかあったのかヨ」
東堂の目が面白いといった風に細められる。
「気になるか荒北」
「別にィ」
「ワイ気になりますんで教えて下さい」
「おおトサカくん!ならば特別に教えてやろう!」
「トサカはないっすわ……」
思わずキモ……と続けそうになる紫の方のワカメが浮かぶ。
「前髪よりマシであろうが!実はな……」
「わー!東堂さん!そんなことより、もうすぐ奥様ご出産なんですよね!」
「ん、そうなのだよ名字さん!エコー写真ですでにこのオレに似て美形!しかも女子だぞ!……だが悩みがあってな」
急に沈んだ東堂の声に、一同は真剣に続きを待つ。
「実は我が子の名を、生涯のライバルから頂きたくてな、名をマキちゃんにしたいのだが妻からも巻ちゃんからも猛反対を食らってな……」
「ッたりめーだバァカ!!!!」
「近くで怒鳴るな荒北。唾が飛ぶ」
「ッセ、いちいちオーバーなんだよテメーは!それに名をもらうなら普通、巻ちゃんじゃなくて裕介の方だろォ」
東堂の顔がみるみる輝く。
「そうだな荒北!よく言った!裕か裕子にしよう!早速我が妻と巻ちゃんに了承を得ねば!感謝するぞ荒北!」
「東堂ウゼーな、指差すんじゃねーヨ!」
口も目付きも悪いが空気から荒北が安堵しているのがわかる。いつもの東堂節であり深刻な悩みでなかったことに対してだろう。
「まあ精一杯のもてなしをしようではないか!」
上機嫌の東堂はワッハッハと声をあげた。
部屋までの移動時、名字が懸命に荒北に話しかけているのを気にしつつも、鳴子は先程聞きそびれたことを東堂に尋ねる。
「……で、名字さんの何が特別なんすか」
「知りたいかねトサカくん」
「トサカではないっすけど知りたいっすね」
じっと鳴子を見る東堂はやはり面白そうで。
「実はな、この登れる上にトークも切れるこのオレにファンクラブがあったのは周知の事実であるがな、なんと名字さんも会員であったのだよ」
「知ってますー」
「ある時ファンからの質問に答える時間を設けた時のことだ。女子たちが皆こぞってこのオレのプライベートを知りたがるのに名字さんはな……」
東堂は懐かしそうに目を細めた──────
「荒北さんはどうして野球を辞めたんですか」
「荒北?なんだ、荒北のことが知りたいのか」
東堂も相当に面食らったが、周りのファンクラブの女の子たちもざわついていた。
「あ、いえすいません!東堂さんのチームメイトのことも知りたくて!」
慌てて弁解するも東堂には感づかれた様子であったが、特に気分を害するでもなく、よく知らないと告げられた。フクならまだ何か知っているかもしれんが本人に聞けばよいだろうと続けると、名字は真っ赤になり俯いたのでこれは重症だな、と思ったのをよく覚えていた──────
知ってはいたが改めて第三者から聞かされると、なかなかにきついものがあったが鳴子は逆境を苦と捉えない男だ。
「まあ頑張りたまえ」
鳴子の背中に気合を入れた東堂は全てわかっていると、また声を出して笑った。
やがてバスは国道一号線から脇道に入り、本日の宿へ着く。
「よく来てくれたな!名字さん!」
「東堂さん!人気旅館なのに貸切の融通きかせていただいて本当に感謝いたします」
老舗旅館東堂庵。迎えに出た若頭東堂尽八直々に深々と頭を下げる名字。
皆各部屋に案内されている最中であるが幹事の名字と荒北、と何故か付いてきた鳴子も東堂と挨拶をしていた。
「なあにかまわんよ、後輩、しかもファンクラブの女子の頼みとあっては断れるわけがなかろう」
ビシッと指を差す。
「それに名字さんは特別だからな忘れんよ」
「ナァニが特別なんだよ、メールでもやたら名字ちゃんのこと聞いてきたし、なんかあったのかヨ」
東堂の目が面白いといった風に細められる。
「気になるか荒北」
「別にィ」
「ワイ気になりますんで教えて下さい」
「おおトサカくん!ならば特別に教えてやろう!」
「トサカはないっすわ……」
思わずキモ……と続けそうになる紫の方のワカメが浮かぶ。
「前髪よりマシであろうが!実はな……」
「わー!東堂さん!そんなことより、もうすぐ奥様ご出産なんですよね!」
「ん、そうなのだよ名字さん!エコー写真ですでにこのオレに似て美形!しかも女子だぞ!……だが悩みがあってな」
急に沈んだ東堂の声に、一同は真剣に続きを待つ。
「実は我が子の名を、生涯のライバルから頂きたくてな、名をマキちゃんにしたいのだが妻からも巻ちゃんからも猛反対を食らってな……」
「ッたりめーだバァカ!!!!」
「近くで怒鳴るな荒北。唾が飛ぶ」
「ッセ、いちいちオーバーなんだよテメーは!それに名をもらうなら普通、巻ちゃんじゃなくて裕介の方だろォ」
東堂の顔がみるみる輝く。
「そうだな荒北!よく言った!裕か裕子にしよう!早速我が妻と巻ちゃんに了承を得ねば!感謝するぞ荒北!」
「東堂ウゼーな、指差すんじゃねーヨ!」
口も目付きも悪いが空気から荒北が安堵しているのがわかる。いつもの東堂節であり深刻な悩みでなかったことに対してだろう。
「まあ精一杯のもてなしをしようではないか!」
上機嫌の東堂はワッハッハと声をあげた。
部屋までの移動時、名字が懸命に荒北に話しかけているのを気にしつつも、鳴子は先程聞きそびれたことを東堂に尋ねる。
「……で、名字さんの何が特別なんすか」
「知りたいかねトサカくん」
「トサカではないっすけど知りたいっすね」
じっと鳴子を見る東堂はやはり面白そうで。
「実はな、この登れる上にトークも切れるこのオレにファンクラブがあったのは周知の事実であるがな、なんと名字さんも会員であったのだよ」
「知ってますー」
「ある時ファンからの質問に答える時間を設けた時のことだ。女子たちが皆こぞってこのオレのプライベートを知りたがるのに名字さんはな……」
東堂は懐かしそうに目を細めた──────
「荒北さんはどうして野球を辞めたんですか」
「荒北?なんだ、荒北のことが知りたいのか」
東堂も相当に面食らったが、周りのファンクラブの女の子たちもざわついていた。
「あ、いえすいません!東堂さんのチームメイトのことも知りたくて!」
慌てて弁解するも東堂には感づかれた様子であったが、特に気分を害するでもなく、よく知らないと告げられた。フクならまだ何か知っているかもしれんが本人に聞けばよいだろうと続けると、名字は真っ赤になり俯いたのでこれは重症だな、と思ったのをよく覚えていた──────
知ってはいたが改めて第三者から聞かされると、なかなかにきついものがあったが鳴子は逆境を苦と捉えない男だ。
「まあ頑張りたまえ」
鳴子の背中に気合を入れた東堂は全てわかっていると、また声を出して笑った。