社会人メロンパンズ(荒北 鳴子 )長編 完結
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「実は……私くせ毛で悩んでいて」
「ハァ?!」
大きな声にビクッとするが名字は荒北をきちんと見て話す。
「そんな話をしたら鳴子くんが、パーマ状態のくせ毛の先輩も太鼓判のトリートメント知っとるって、以前もらったらしいのをわけてくれたんですよ」
「あー」
高校時代の鳴子の先輩、大学時代の荒北の後輩でもある一人の男が浮かぶ。ティータイムとか言いやがるくせに麦茶好んで飲んでたヤツ。走り方は対照的なのに確か黒田とわりとウマが合ってたと記憶している。
「んで、ちょっと遠い知り合いのパン屋に連れて行かれたり?」
「あ、はい。クマさんの」
「チャリで」
「まさか!車で」
「ふーん」
こっちが仕事に追われてる隙にドライブとはやってくれるじゃナァイ。危惧した最悪の事態ではなかったけれど、荒北にとってあまり面白い展開ではない。
掴んでいた名字の肩を解放する。
「社員旅行、オメーは行くのかよ」
「はい、企画から任されているので。自由参加で強制ではありませんが是非荒北さんも」
誰もが嫌がる社員旅行の企画も、こいつは一生懸命に取り組んでいるのだろう。
ぽんと頭を撫でてやる。名字は一瞬驚いた表情を見せたが、嬉しそうに目を細めた。
「バスとか、班とか、名字チャンと一緒なら参加してやんよ」
「はい!わかりました!部屋割りも鳴子くんと同室にしますね」
「ハァ?なんで鳴子がでてくんだよ」
「同じ自転車競技やってたし、仲良いですよね」
にこりと答える名字。他意は全くないようだ。この鈍さに頭を抱える。荒北はもどかしい気持ちを言葉にできず、己の頭をがしがしと掻いた。
「荒北さんはサラサラで羨ましい」
単純に髪の事を言っているのだろうが、慈しむような視線に耐えられず荒北は目をそらす。
「あ、そうだ。行き先は我らが箱根ですよ」
ぽんと手を打つ名字。
「ハッ、旅行が里帰りたあ世話ねーな、いや、我らがってこたあ……」
「そうです、ハコガク出身ですよ、私も!自転車競技部は有名だったので、友達とインターハイ応援に行きました、うちわ持って」
いたずらっ子みたいにウインクして笑う彼女は楽しそうで。
最初から荒北と鳴子のことを知っていたのもなんだその所為かと納得したし、うちわの件で東堂のファンだったのかよと面白くない気持ちにもなった。
「ああ、友達が東堂さんのファンで、私も誘われて一年程ファンクラブにいました」
「ハッ、東堂のね」
名字はようやく荒北に同郷の出身だと話せて嬉しそうにしていたが、荒北は自分でも驚くほどに気持ちが引くのを感じていた。
その後は仕事に戻ると早々に切り上げてデスクに戻り集中した。
終電に揺られ、疲れたナリの自分が窓に映る。
学生時代の恋愛とも呼べない一連の行為を思い出していた。ずっとそうだ、荒北に寄ってくる女は東堂や新開、金城に興味のある女ばかりで、目の前の荒北ではなく、その向こうの男たちを見てるのだ。
彼らはなにも悪くないし、荒北自身も口にこそださないが信頼を置き、仲間だと認めている男たちだ。荒北はそんなことで恨みを持つような器ではもちろんない。ただ女性不信というか、女とまともな、いわゆるお付き合いはできないだろうなと感じていた。名字は初めて興味が湧いた女ではあったが、過去を思い出しああこいつも一緒かと冷めていくのを感じていた。
「久しぶりに自転車乗りてェな」
電車の音で周囲には聞こえないくらいの声で呟いた。ひどく疲れた夜だった。
「ハァ?!」
大きな声にビクッとするが名字は荒北をきちんと見て話す。
「そんな話をしたら鳴子くんが、パーマ状態のくせ毛の先輩も太鼓判のトリートメント知っとるって、以前もらったらしいのをわけてくれたんですよ」
「あー」
高校時代の鳴子の先輩、大学時代の荒北の後輩でもある一人の男が浮かぶ。ティータイムとか言いやがるくせに麦茶好んで飲んでたヤツ。走り方は対照的なのに確か黒田とわりとウマが合ってたと記憶している。
「んで、ちょっと遠い知り合いのパン屋に連れて行かれたり?」
「あ、はい。クマさんの」
「チャリで」
「まさか!車で」
「ふーん」
こっちが仕事に追われてる隙にドライブとはやってくれるじゃナァイ。危惧した最悪の事態ではなかったけれど、荒北にとってあまり面白い展開ではない。
掴んでいた名字の肩を解放する。
「社員旅行、オメーは行くのかよ」
「はい、企画から任されているので。自由参加で強制ではありませんが是非荒北さんも」
誰もが嫌がる社員旅行の企画も、こいつは一生懸命に取り組んでいるのだろう。
ぽんと頭を撫でてやる。名字は一瞬驚いた表情を見せたが、嬉しそうに目を細めた。
「バスとか、班とか、名字チャンと一緒なら参加してやんよ」
「はい!わかりました!部屋割りも鳴子くんと同室にしますね」
「ハァ?なんで鳴子がでてくんだよ」
「同じ自転車競技やってたし、仲良いですよね」
にこりと答える名字。他意は全くないようだ。この鈍さに頭を抱える。荒北はもどかしい気持ちを言葉にできず、己の頭をがしがしと掻いた。
「荒北さんはサラサラで羨ましい」
単純に髪の事を言っているのだろうが、慈しむような視線に耐えられず荒北は目をそらす。
「あ、そうだ。行き先は我らが箱根ですよ」
ぽんと手を打つ名字。
「ハッ、旅行が里帰りたあ世話ねーな、いや、我らがってこたあ……」
「そうです、ハコガク出身ですよ、私も!自転車競技部は有名だったので、友達とインターハイ応援に行きました、うちわ持って」
いたずらっ子みたいにウインクして笑う彼女は楽しそうで。
最初から荒北と鳴子のことを知っていたのもなんだその所為かと納得したし、うちわの件で東堂のファンだったのかよと面白くない気持ちにもなった。
「ああ、友達が東堂さんのファンで、私も誘われて一年程ファンクラブにいました」
「ハッ、東堂のね」
名字はようやく荒北に同郷の出身だと話せて嬉しそうにしていたが、荒北は自分でも驚くほどに気持ちが引くのを感じていた。
その後は仕事に戻ると早々に切り上げてデスクに戻り集中した。
終電に揺られ、疲れたナリの自分が窓に映る。
学生時代の恋愛とも呼べない一連の行為を思い出していた。ずっとそうだ、荒北に寄ってくる女は東堂や新開、金城に興味のある女ばかりで、目の前の荒北ではなく、その向こうの男たちを見てるのだ。
彼らはなにも悪くないし、荒北自身も口にこそださないが信頼を置き、仲間だと認めている男たちだ。荒北はそんなことで恨みを持つような器ではもちろんない。ただ女性不信というか、女とまともな、いわゆるお付き合いはできないだろうなと感じていた。名字は初めて興味が湧いた女ではあったが、過去を思い出しああこいつも一緒かと冷めていくのを感じていた。
「久しぶりに自転車乗りてェな」
電車の音で周囲には聞こえないくらいの声で呟いた。ひどく疲れた夜だった。