社会人メロンパンズ(荒北 鳴子 )長編 完結
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システム管理部というのは急ぎの案件やトラブルがなければ比較的定時に上がれたりもするが、一度何かあると昼休憩も取れないほど忙しかった。
具体的な日時こそださなかったが、名字を食事に誘い、了承を得たあの日の午後から突然追われるようにトラブルが続き、業務終了後も、社の食堂でも荒北と名字がしばらく顔を合わせることはなかった。
「荒北さーん、差し入れのベプシにオッサンとこのパンと社員旅行のお知らせっす」
ベプシねーな、と空のペットボトルを手にしてから気づいたところ、タイミング良く聞き慣れた声がかかる。
「鳴子ちゃん、営業が何の用かよ。厄介ごと持ち込むんじゃねーヨ。社員旅行とかの企画なんかは総務の仕事だろ」
言葉にしながら荒北はわかっていた、これはこの赤い豆野郎の牽制だと。豆と呼ぶほど現在はかわいくも小さくもないが、鳴子の勤め先が荒北と同じだと判明してからというもの、新開と共に田所パンを訪れる度に田所が赤いのは元気かとか豆ツブはどうだとか聞いてくるので豆のイメージがついてしまった。
豆呼びの元凶の田所パンのクマがついた紙袋を渡される。
「昨日オッサンちのパン買うてきたんで、最近忙しい荒北さんに差し入れと、名字さんがシステム管理部にお知らせあるゆーんでワイが引き受けてきました、名字さん他の部署も全部まわらなあかんし」
渡されデスクに置いたはずの袋からメロンパンを勝手に取り出すと豪快に噛り付く鳴子。
「ハッ、この時代にわざわざ紙にコピーして口頭で伝えるなんて名字ちゃんもよっぽど会いてーヤツでもいたんだろうナ」
鳴子に向き合い、メロンパンを奪い返す。オレのモンに手ェつけんなヨ。このパンも名字も。
睨むだけで何かが伝わったのか鳴子は肩をすくめる。
「両方ワイが持ってきたようなもんやないすか。名字さんはなんでか知らんけど荒北さんのこと最初から気にしてましたけど。
……なんでやと思います」
「あぁ?知らねーよ、オレはそういうハッキリ言わねーのが一番嫌いだ、イライラする」
「知ってますー、だから何も教えませんけどね、あえて」
メロンパンに手を付けて、さらにベプシも半分ほど飲んで行ってしまった。
「チッ、何がしてェんだアイツ」
面白くなくイラついたが、ちょうど昼時であったので貰ったカレーパンを口にした。
その日も忙しく、気がつけば本来の業務終了の時間になっていた。まだまだ帰れる気はしないが、カフェインでも摂取するかと自販機へ向かう。
「荒北さん」
「あー、名字チャン、久しぶりィ。帰り?」
小銭を入れたところで会いたかった相手に声をかけられた。
勝手にベプシを押され、取り出し口に屈んでこちらに渡そうと取ってくれる。
「はい、荒北さんは……まだですよね、最近忙しそうで。
社員旅行のお知らせは読んでくれましたか」
「あー、鳴子が持ってきたやつね、読んだ。あと悪りぃ、コーヒー買いたかったんだけどォ」
「え!すいません、荒北さんベプシかと思って!すいません、お金入れますから」
「いーヨ、やんよ、なかなかメシ行けねーし」
名字が慌ててバッグから財布を探す間にポケットから小銭を取り出した。
荒北がコーヒーを取ろうと少し屈む途中、ちょうど名字の頭の高さ。
「ニオイがする」
「え!!!私臭いですか!すいません、え、嗅がないで下さい」
やだ、とか嘘とか小さく言いながら涙目になる名字の肩を掴み構わず頭や髪のニオイを嗅いだ。
「名字チャン、シャンプーかえた?」
「いえ……、あ、ハイ……」
肩は掴んだまま、顔が見えるまで離れ、正面から見つめた。曖昧な答えに片方だけ眉を釣り上げる。
「そんじゃあ鳴子となんかあったァ」
このニオイは昼間会った鳴子からもわずかに感じた。アイツ整髪料バリバリだからわかり難いが荒北の鼻は実際のニオイも空気も嗅ぎ分ける性能の良さだ。
同じシャンプーのニオイがした。
内心穏やかではない野獣に捕らえられ名字は涙目のまま口を開いた。
「あの……実は……」
具体的な日時こそださなかったが、名字を食事に誘い、了承を得たあの日の午後から突然追われるようにトラブルが続き、業務終了後も、社の食堂でも荒北と名字がしばらく顔を合わせることはなかった。
「荒北さーん、差し入れのベプシにオッサンとこのパンと社員旅行のお知らせっす」
ベプシねーな、と空のペットボトルを手にしてから気づいたところ、タイミング良く聞き慣れた声がかかる。
「鳴子ちゃん、営業が何の用かよ。厄介ごと持ち込むんじゃねーヨ。社員旅行とかの企画なんかは総務の仕事だろ」
言葉にしながら荒北はわかっていた、これはこの赤い豆野郎の牽制だと。豆と呼ぶほど現在はかわいくも小さくもないが、鳴子の勤め先が荒北と同じだと判明してからというもの、新開と共に田所パンを訪れる度に田所が赤いのは元気かとか豆ツブはどうだとか聞いてくるので豆のイメージがついてしまった。
豆呼びの元凶の田所パンのクマがついた紙袋を渡される。
「昨日オッサンちのパン買うてきたんで、最近忙しい荒北さんに差し入れと、名字さんがシステム管理部にお知らせあるゆーんでワイが引き受けてきました、名字さん他の部署も全部まわらなあかんし」
渡されデスクに置いたはずの袋からメロンパンを勝手に取り出すと豪快に噛り付く鳴子。
「ハッ、この時代にわざわざ紙にコピーして口頭で伝えるなんて名字ちゃんもよっぽど会いてーヤツでもいたんだろうナ」
鳴子に向き合い、メロンパンを奪い返す。オレのモンに手ェつけんなヨ。このパンも名字も。
睨むだけで何かが伝わったのか鳴子は肩をすくめる。
「両方ワイが持ってきたようなもんやないすか。名字さんはなんでか知らんけど荒北さんのこと最初から気にしてましたけど。
……なんでやと思います」
「あぁ?知らねーよ、オレはそういうハッキリ言わねーのが一番嫌いだ、イライラする」
「知ってますー、だから何も教えませんけどね、あえて」
メロンパンに手を付けて、さらにベプシも半分ほど飲んで行ってしまった。
「チッ、何がしてェんだアイツ」
面白くなくイラついたが、ちょうど昼時であったので貰ったカレーパンを口にした。
その日も忙しく、気がつけば本来の業務終了の時間になっていた。まだまだ帰れる気はしないが、カフェインでも摂取するかと自販機へ向かう。
「荒北さん」
「あー、名字チャン、久しぶりィ。帰り?」
小銭を入れたところで会いたかった相手に声をかけられた。
勝手にベプシを押され、取り出し口に屈んでこちらに渡そうと取ってくれる。
「はい、荒北さんは……まだですよね、最近忙しそうで。
社員旅行のお知らせは読んでくれましたか」
「あー、鳴子が持ってきたやつね、読んだ。あと悪りぃ、コーヒー買いたかったんだけどォ」
「え!すいません、荒北さんベプシかと思って!すいません、お金入れますから」
「いーヨ、やんよ、なかなかメシ行けねーし」
名字が慌ててバッグから財布を探す間にポケットから小銭を取り出した。
荒北がコーヒーを取ろうと少し屈む途中、ちょうど名字の頭の高さ。
「ニオイがする」
「え!!!私臭いですか!すいません、え、嗅がないで下さい」
やだ、とか嘘とか小さく言いながら涙目になる名字の肩を掴み構わず頭や髪のニオイを嗅いだ。
「名字チャン、シャンプーかえた?」
「いえ……、あ、ハイ……」
肩は掴んだまま、顔が見えるまで離れ、正面から見つめた。曖昧な答えに片方だけ眉を釣り上げる。
「そんじゃあ鳴子となんかあったァ」
このニオイは昼間会った鳴子からもわずかに感じた。アイツ整髪料バリバリだからわかり難いが荒北の鼻は実際のニオイも空気も嗅ぎ分ける性能の良さだ。
同じシャンプーのニオイがした。
内心穏やかではない野獣に捕らえられ名字は涙目のまま口を開いた。
「あの……実は……」