短編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
狐の恩返し! 後編(王騎軍・目指せオールキャラ 騰落ち!)
~前編・中編のざっくりとしたあらすじ~
狐を助けたら恩返しとして、皆が私の事を好きになっちゃう術をかけられちゃった☆
一日皆と順番にデートをして、一番最後の録嗚未に押し倒されて絶体絶命!
その時思わず騰様の名前が口から出てしまい…?
以上です。
*
――遠くで馬の蹄の音が聞こえるが、まさかここへは来ないだろう。
録嗚未は気を取り直して沙月の髪を撫でる。
「…こんな所に騰が来るわけないだろうが」
「…ぐすっ」
「泣くなって…」
「嘘泣きでーす」
「おいっ!!この酔っ払いめ」
録嗚未は深くため息をつくと身を起こし、酒をあおった。
「…ちっ。やめだやめだ!嫌がってるのを無理矢理ってのは俺の流儀に反するからな!」
「ふふっ、そういうとこがやっぱり録嗚未だよね」
「あぁ?!生意気な事言ってるとやっちまうぞ」
「褒めてるのにな~」
(ほんと、いいヤツだよ…。なんやかんや言って結局優しいんだもん)
不貞腐れて酒を飲んでいる彼の頭をよしよしと撫でてやると、だからそういうの止めろって!と怒られた。
「…やっぱりこっちに向かって来てんな」
録嗚未は小屋の中にあった剣を握ると、沙月を背にかばう。
先程の馬の蹄の音がだんだん近づいて来る。
その音が、小屋の前で止まった。
何者かが馬から降りて、こちらへ近づいて来る。
「…誰だ!」
録嗚未が叫ぶと、威勢よく扉が開いた。
「――私だ」
そこには騰が立っていた。
*
「なぁんで騰がこんな所にいんだよ」
「食後の散歩をしていたら、どこからともなく私を呼ぶ声が聞こえたものでな」
「はぁ?ったく相変わらず訳分かんねぇヤツ…」
(ほんとに騰様が来てくれた…夢じゃないよね?)
ほろ酔いのぼんやりした頭で思い出す。
(そういえば、朝も浴場で助けてくれたっけ…)
騰の横顔を見ながら酒をちびちびと飲んでいると、くるりと振り向いた彼に茶碗を取り上げられる。
「飲みすぎだ」
「…はぁーい」
ふと思い立って、騰の手を両手できゅっと握ってみた。
「…どうした?そんなに酔ったのか」
そのままなでなでしてみる。
「… 沙月?」
顔色ひとつ変わらない。
(やっぱり狐の力は騰様には効いてないみたい…良かったような、残念なような…。…ん、残念?)
「さて。最後は私の番だな」
「えっ?」
騰は沙月を姫抱きにすると、ちらりと録嗚未を見る。
「隆国に聞いたが、今日はお前たち順番に沙月と逢引していたらしいな。なら私もいいだろう」
録嗚未は溜息をつくとひらひらと手を振った。
「もう行けよ。俺はもう少しここで飲んでから帰るわ」
「すまんな録嗚未。私が責任を持って部屋まで送り届ける」
「騰様…私重いですから下ろして下さい」
「問題ない」
がんばれよーという録嗚未の声を背に、沙月は馬に乗せられると騰と共に小屋を後にした。
*
月明かりに照らされながら、行きとは違い、ゆっくりとした速度で馬が進む。
馬に揺られる度に背中が騰の厚い胸板に触れ、いつもより近い距離に少し緊張してしまう。
「そんな体勢だと辛いぞ。寄りかかればいい」
「ひゃっ!」
耳の近くで囁かれ、体がびくりと跳ねる。
「もう~、騰様のいい声は武器なんですから!むやみに使わないで下さいよ…」
「そうか、それはすまなかった」
「ひゃっ!ほらまた!やめてください」
いつもと変わらぬ騰。
それのおかげで少し緊張がほぐれた沙月は、お言葉に甘えて後ろへ寄りかかる。
「…見た事のない着物だな」
「これは今日、同金さんに買ってもらって…」
沙月は今日一日あったことを騰に話した。
優しく相槌を打ちながら聞いてくれるので、つい色々と話してしまう。
「ふむ…それぞれと手を繋いで街を歩き…録嗚未に至っては押し倒した…と」
「ちょ、そこだけ抜き出さないで下さい!」
今日一日を改めて思い出すと、確かに色々な人と密着はした。
ドキドキもした。
普段見られなかった軍長達の顔が見られて、とても楽しかった。
「…しかし…何故皆いきなり沙月と逢引したくなったのか…」
さては昨日何か盛ったのか?と真面目に聞かれて、沙月は思い切って話してみることにした。
「実はですね…これは朝話した、狐の恩返しのせいです!」
「…酔ってるんだな」
「酔ってません!」
「酔っ払いは皆そう言う…確か夢の話だろう?」
「ほんとなのに…」
背中越しに、どよんと落ち込んだ空気を発する沙月。
「…わかった。詳しく話してみろ」
実は…と沙月は狐の夢の詳細を話し始めた。
恩返しの内容が、私の番(つがい)を見つけてくれる事。
この城の男性達を皆私に惚れるようにして、その中から好きな者を選べばいい、と。
「――昨夜そんな夢を見て、それで今日こんな風になっているので…きっとそのせいだと思うんです。でも何故か兄様と騰様には効いていないようなんですが…」
「…」
何も言わないので心配になってぐぐっと後ろを振り返ると、普段表情の変わらない騰が、非常に難しい顔をしていた。
「騰様…?」
「摩訶不思議な話だが…そう考えると殿のおかしな様子も合点がいく」
その言葉に朝の王騎の様子を思い出し、思わず赤面してしまう。
「それで、どうすればいいのだ。お前の番が決まればこの騒動も落ち着くのだろう」
「えっ」
「相手は私が引き受けよう」
「え?!」
(普通に言ってるけど、今とんでもない事を言ったよね?!)
思いもよらぬ申し出に、沙月の頭は真っ白になった。
(…騰様と、私が?)
一番初めに、嬉しい!という気持ちがこみ上げてきた。
沙月が一緒に居て一番心地いいのは、やはり騰なのである。
しかし今までの言動を見ても、恋愛対象というよりは妹扱い。
密着しても顔色一つ変わらないし…。
しかも王騎や軍の事を大切に考えている彼の事だ、風紀を正す為にそのような事を言っているのではないか?
ぐるぐると考えていると、そっと後ろから手を握られる。
「…嫌か?」
「嫌なわけないじゃないですか!」
はっ…と咄嗟に出た言葉に自分自身で驚く。
「よし。なら決まりだ」
ハァッ!という掛け声と共に馬が急加速し、沙月は落ちないようにしっかり馬につかまった。
*
とはいえ。
先程のあれは、いわば告白されたということではないのだろうか?
城へと戻り、沙月の部屋までの道すがらである。
もうすっかり夜も更け、ほとんど人影もない。
(もう私たちは恋人同士になったということなのかしら?それともとりあえずこの騒動の手前、便宜上ってこともあり得そう…うーん、聞いてみるべきだよね…でも…)
また色々考えていると、立ち止まった騰の背中にぶつかった。
「いたた…すみません!前を見てなくて」
「着いたぞ」
もう自分の部屋の前だった。
(どうしよう…聞いてみようか?でも…)
「―― 沙月」
「はい」
顔を上げると、ちゅっと唇の横に柔らかい感触。
「…と」
騰様、と呼ぶ声は唇で封じられた。
ほんの数秒だったが、沙月にはとてつもなく長く感じる。
ゆるりと唇が離れると、目の前には甘く微笑む騰がいた。
「――おやすみ。良い夢を」
「お、やすみなさい…」
(…今までで一番、素敵な顔で笑ってた…。という事は、騰様にも狐の力が効いていたってことだったのかしら?)
もうどちらでもいいや。
今の自分は顔から湯気が噴き出しているに違いない。
*
真っ白な空間だった。
白髪の美青年の目の前には、ぽーっと惚けている沙月が立っている。
「… 沙月、沙月や」
「…え?あれっ?…あぁっ!狐さん!!」
「如何にも。今日は忙しい一日だったなぁ。ずっと見ておったぞ」
「やっぱり今日のアレは狐さんの力だったのね?…はぁ~…そっかぁ…」
青年は尻尾をぱたぱたと振り、えっへんと胸を張る。
「どうだ!私の力は凄かっただろう?私としては王騎とかいう雄が一番強そうで良いと思ったんだが…」
「きゃぁぁ!思い出させないで~」
何度思い出しても殿の裸体は心臓に悪い。
「その、番(つがい)の件は…」
「無事に決まって良かったなぁ!あの男…騰と言ったか。あやつには私の力は効いていなかったのだが。でもまぁ、結果が良ければ関係ないな」
「ん?効いていない?」
ぎゅむっとしっぽを掴むとどういう事だと詰め寄る。
「こらやめんか!…この術は表面化していないお前への好意を少しだけ増幅させるというものなのだ。だから元からお前の事を愛している者には効果がないという…」
「…狐さん、もう一回言って?」
「お前の事をちょっといいな程度に思っている気持ちを、なんだか気になるアイツ位に増幅させる…」
「そのあと!」
「あぁ。お前の事を元から愛している者には効果がない。だからお前の兄や騰には効果がなかったのだよ」
「…!!」
「結局、相思相愛だったという事だったのだな。全く人間というものはまどろっこしい…好きなら好きと言えば良いのに」
あぁ、なんてこと。
騰様はずっと私の事を愛していたなんて…!
「あやつは自分の気持ちを表面に出さない人間だからなぁ。だが内に秘める想いは相当なものだ。お前を探すあやつの形相と言ったらそれはもう鬼気迫るものがあったぞ…って、もう聞いてないか…」
また一人でうっとりと赤面している沙月を見て、狐の青年は「沙月、幸せにな」と言い残してふうっと消えた。
*
「――待って狐さん!!」
沙月は自分の叫び声で目が覚めた。
周りを見回すと、自分の部屋の寝台の上。
(やっぱり夢…?どこまで夢?)
唇に残る柔らかな感触も夢なのだろうか?
その時、同金に買ってもらった鮮やかな色の着物が目に留まる。
(――やっぱり、昨日の事は夢じゃない!!)
沙月は飛び起きると、身支度を素早く済ませて部屋を出た。
息を切らせて走って行くと、見慣れた背中を見つける。
「騰様!」
「おはよう」
「おはようございます。昨日は…」
「――私の可愛い番」
沙月の手を取り、軽く口づけた。
「…っ!!」
騰は一瞬だけ甘く微笑むと、すぐにいつもの顔に戻る。
「あの、昨日狐さんがまた夢に出てきて…無事に決まって良かったなって言ってました」
「認めてくれたのか。良かった」
「はい!」
仲睦まじく歩く二人を、白い狐が遠くから見つめていた。
狐は一声鳴くと、森の中へと駆けて行った。
*
こうして、狐の恩返し騒動は幕を閉じた。
狐の力は消えても、前より沙月と軍長達の距離は縮まったようである。
同金とはたまに一緒に出掛けて、着物や小物を選んでもらったり。
鱗坊からはやたらと泣けると評判の演劇に誘われたり。
干央とは良いお茶飲み友達になり、たまに手作りの甘い物を差入れしたり。
録嗚未とは相変わらず、何でも話せるいい友達だ。
そして。
「んー…騰様、苦しいです」
「…この手を離せば、また沙月は誰かの所へ行くんだろう?」
騰の腕の中で沙月が笑う。
「あら。やきもちですか」
「…違う」
(二人きりの時の騰様が、こんなに甘えたになるとは思わなかった!可愛いなぁ)
「どこにも行きませんよー。だって私は騰様の番(つがい)ですから」
そうして、二人は顔を見合わせて微笑み合う。
「そうだな…そろそろ殿や隆国にも報告しないとな」
「報告ですか?」
「沙月。結婚しよう」
「――!!」
おわり。
終わった…!
かなり長々でしたね。読んでいただきありがとうございます。騰様好きなもので、騰様落ちです。
~前編・中編のざっくりとしたあらすじ~
狐を助けたら恩返しとして、皆が私の事を好きになっちゃう術をかけられちゃった☆
一日皆と順番にデートをして、一番最後の録嗚未に押し倒されて絶体絶命!
その時思わず騰様の名前が口から出てしまい…?
以上です。
*
――遠くで馬の蹄の音が聞こえるが、まさかここへは来ないだろう。
録嗚未は気を取り直して沙月の髪を撫でる。
「…こんな所に騰が来るわけないだろうが」
「…ぐすっ」
「泣くなって…」
「嘘泣きでーす」
「おいっ!!この酔っ払いめ」
録嗚未は深くため息をつくと身を起こし、酒をあおった。
「…ちっ。やめだやめだ!嫌がってるのを無理矢理ってのは俺の流儀に反するからな!」
「ふふっ、そういうとこがやっぱり録嗚未だよね」
「あぁ?!生意気な事言ってるとやっちまうぞ」
「褒めてるのにな~」
(ほんと、いいヤツだよ…。なんやかんや言って結局優しいんだもん)
不貞腐れて酒を飲んでいる彼の頭をよしよしと撫でてやると、だからそういうの止めろって!と怒られた。
「…やっぱりこっちに向かって来てんな」
録嗚未は小屋の中にあった剣を握ると、沙月を背にかばう。
先程の馬の蹄の音がだんだん近づいて来る。
その音が、小屋の前で止まった。
何者かが馬から降りて、こちらへ近づいて来る。
「…誰だ!」
録嗚未が叫ぶと、威勢よく扉が開いた。
「――私だ」
そこには騰が立っていた。
*
「なぁんで騰がこんな所にいんだよ」
「食後の散歩をしていたら、どこからともなく私を呼ぶ声が聞こえたものでな」
「はぁ?ったく相変わらず訳分かんねぇヤツ…」
(ほんとに騰様が来てくれた…夢じゃないよね?)
ほろ酔いのぼんやりした頭で思い出す。
(そういえば、朝も浴場で助けてくれたっけ…)
騰の横顔を見ながら酒をちびちびと飲んでいると、くるりと振り向いた彼に茶碗を取り上げられる。
「飲みすぎだ」
「…はぁーい」
ふと思い立って、騰の手を両手できゅっと握ってみた。
「…どうした?そんなに酔ったのか」
そのままなでなでしてみる。
「… 沙月?」
顔色ひとつ変わらない。
(やっぱり狐の力は騰様には効いてないみたい…良かったような、残念なような…。…ん、残念?)
「さて。最後は私の番だな」
「えっ?」
騰は沙月を姫抱きにすると、ちらりと録嗚未を見る。
「隆国に聞いたが、今日はお前たち順番に沙月と逢引していたらしいな。なら私もいいだろう」
録嗚未は溜息をつくとひらひらと手を振った。
「もう行けよ。俺はもう少しここで飲んでから帰るわ」
「すまんな録嗚未。私が責任を持って部屋まで送り届ける」
「騰様…私重いですから下ろして下さい」
「問題ない」
がんばれよーという録嗚未の声を背に、沙月は馬に乗せられると騰と共に小屋を後にした。
*
月明かりに照らされながら、行きとは違い、ゆっくりとした速度で馬が進む。
馬に揺られる度に背中が騰の厚い胸板に触れ、いつもより近い距離に少し緊張してしまう。
「そんな体勢だと辛いぞ。寄りかかればいい」
「ひゃっ!」
耳の近くで囁かれ、体がびくりと跳ねる。
「もう~、騰様のいい声は武器なんですから!むやみに使わないで下さいよ…」
「そうか、それはすまなかった」
「ひゃっ!ほらまた!やめてください」
いつもと変わらぬ騰。
それのおかげで少し緊張がほぐれた沙月は、お言葉に甘えて後ろへ寄りかかる。
「…見た事のない着物だな」
「これは今日、同金さんに買ってもらって…」
沙月は今日一日あったことを騰に話した。
優しく相槌を打ちながら聞いてくれるので、つい色々と話してしまう。
「ふむ…それぞれと手を繋いで街を歩き…録嗚未に至っては押し倒した…と」
「ちょ、そこだけ抜き出さないで下さい!」
今日一日を改めて思い出すと、確かに色々な人と密着はした。
ドキドキもした。
普段見られなかった軍長達の顔が見られて、とても楽しかった。
「…しかし…何故皆いきなり沙月と逢引したくなったのか…」
さては昨日何か盛ったのか?と真面目に聞かれて、沙月は思い切って話してみることにした。
「実はですね…これは朝話した、狐の恩返しのせいです!」
「…酔ってるんだな」
「酔ってません!」
「酔っ払いは皆そう言う…確か夢の話だろう?」
「ほんとなのに…」
背中越しに、どよんと落ち込んだ空気を発する沙月。
「…わかった。詳しく話してみろ」
実は…と沙月は狐の夢の詳細を話し始めた。
恩返しの内容が、私の番(つがい)を見つけてくれる事。
この城の男性達を皆私に惚れるようにして、その中から好きな者を選べばいい、と。
「――昨夜そんな夢を見て、それで今日こんな風になっているので…きっとそのせいだと思うんです。でも何故か兄様と騰様には効いていないようなんですが…」
「…」
何も言わないので心配になってぐぐっと後ろを振り返ると、普段表情の変わらない騰が、非常に難しい顔をしていた。
「騰様…?」
「摩訶不思議な話だが…そう考えると殿のおかしな様子も合点がいく」
その言葉に朝の王騎の様子を思い出し、思わず赤面してしまう。
「それで、どうすればいいのだ。お前の番が決まればこの騒動も落ち着くのだろう」
「えっ」
「相手は私が引き受けよう」
「え?!」
(普通に言ってるけど、今とんでもない事を言ったよね?!)
思いもよらぬ申し出に、沙月の頭は真っ白になった。
(…騰様と、私が?)
一番初めに、嬉しい!という気持ちがこみ上げてきた。
沙月が一緒に居て一番心地いいのは、やはり騰なのである。
しかし今までの言動を見ても、恋愛対象というよりは妹扱い。
密着しても顔色一つ変わらないし…。
しかも王騎や軍の事を大切に考えている彼の事だ、風紀を正す為にそのような事を言っているのではないか?
ぐるぐると考えていると、そっと後ろから手を握られる。
「…嫌か?」
「嫌なわけないじゃないですか!」
はっ…と咄嗟に出た言葉に自分自身で驚く。
「よし。なら決まりだ」
ハァッ!という掛け声と共に馬が急加速し、沙月は落ちないようにしっかり馬につかまった。
*
とはいえ。
先程のあれは、いわば告白されたということではないのだろうか?
城へと戻り、沙月の部屋までの道すがらである。
もうすっかり夜も更け、ほとんど人影もない。
(もう私たちは恋人同士になったということなのかしら?それともとりあえずこの騒動の手前、便宜上ってこともあり得そう…うーん、聞いてみるべきだよね…でも…)
また色々考えていると、立ち止まった騰の背中にぶつかった。
「いたた…すみません!前を見てなくて」
「着いたぞ」
もう自分の部屋の前だった。
(どうしよう…聞いてみようか?でも…)
「―― 沙月」
「はい」
顔を上げると、ちゅっと唇の横に柔らかい感触。
「…と」
騰様、と呼ぶ声は唇で封じられた。
ほんの数秒だったが、沙月にはとてつもなく長く感じる。
ゆるりと唇が離れると、目の前には甘く微笑む騰がいた。
「――おやすみ。良い夢を」
「お、やすみなさい…」
(…今までで一番、素敵な顔で笑ってた…。という事は、騰様にも狐の力が効いていたってことだったのかしら?)
もうどちらでもいいや。
今の自分は顔から湯気が噴き出しているに違いない。
*
真っ白な空間だった。
白髪の美青年の目の前には、ぽーっと惚けている沙月が立っている。
「… 沙月、沙月や」
「…え?あれっ?…あぁっ!狐さん!!」
「如何にも。今日は忙しい一日だったなぁ。ずっと見ておったぞ」
「やっぱり今日のアレは狐さんの力だったのね?…はぁ~…そっかぁ…」
青年は尻尾をぱたぱたと振り、えっへんと胸を張る。
「どうだ!私の力は凄かっただろう?私としては王騎とかいう雄が一番強そうで良いと思ったんだが…」
「きゃぁぁ!思い出させないで~」
何度思い出しても殿の裸体は心臓に悪い。
「その、番(つがい)の件は…」
「無事に決まって良かったなぁ!あの男…騰と言ったか。あやつには私の力は効いていなかったのだが。でもまぁ、結果が良ければ関係ないな」
「ん?効いていない?」
ぎゅむっとしっぽを掴むとどういう事だと詰め寄る。
「こらやめんか!…この術は表面化していないお前への好意を少しだけ増幅させるというものなのだ。だから元からお前の事を愛している者には効果がないという…」
「…狐さん、もう一回言って?」
「お前の事をちょっといいな程度に思っている気持ちを、なんだか気になるアイツ位に増幅させる…」
「そのあと!」
「あぁ。お前の事を元から愛している者には効果がない。だからお前の兄や騰には効果がなかったのだよ」
「…!!」
「結局、相思相愛だったという事だったのだな。全く人間というものはまどろっこしい…好きなら好きと言えば良いのに」
あぁ、なんてこと。
騰様はずっと私の事を愛していたなんて…!
「あやつは自分の気持ちを表面に出さない人間だからなぁ。だが内に秘める想いは相当なものだ。お前を探すあやつの形相と言ったらそれはもう鬼気迫るものがあったぞ…って、もう聞いてないか…」
また一人でうっとりと赤面している沙月を見て、狐の青年は「沙月、幸せにな」と言い残してふうっと消えた。
*
「――待って狐さん!!」
沙月は自分の叫び声で目が覚めた。
周りを見回すと、自分の部屋の寝台の上。
(やっぱり夢…?どこまで夢?)
唇に残る柔らかな感触も夢なのだろうか?
その時、同金に買ってもらった鮮やかな色の着物が目に留まる。
(――やっぱり、昨日の事は夢じゃない!!)
沙月は飛び起きると、身支度を素早く済ませて部屋を出た。
息を切らせて走って行くと、見慣れた背中を見つける。
「騰様!」
「おはよう」
「おはようございます。昨日は…」
「――私の可愛い番」
沙月の手を取り、軽く口づけた。
「…っ!!」
騰は一瞬だけ甘く微笑むと、すぐにいつもの顔に戻る。
「あの、昨日狐さんがまた夢に出てきて…無事に決まって良かったなって言ってました」
「認めてくれたのか。良かった」
「はい!」
仲睦まじく歩く二人を、白い狐が遠くから見つめていた。
狐は一声鳴くと、森の中へと駆けて行った。
*
こうして、狐の恩返し騒動は幕を閉じた。
狐の力は消えても、前より沙月と軍長達の距離は縮まったようである。
同金とはたまに一緒に出掛けて、着物や小物を選んでもらったり。
鱗坊からはやたらと泣けると評判の演劇に誘われたり。
干央とは良いお茶飲み友達になり、たまに手作りの甘い物を差入れしたり。
録嗚未とは相変わらず、何でも話せるいい友達だ。
そして。
「んー…騰様、苦しいです」
「…この手を離せば、また沙月は誰かの所へ行くんだろう?」
騰の腕の中で沙月が笑う。
「あら。やきもちですか」
「…違う」
(二人きりの時の騰様が、こんなに甘えたになるとは思わなかった!可愛いなぁ)
「どこにも行きませんよー。だって私は騰様の番(つがい)ですから」
そうして、二人は顔を見合わせて微笑み合う。
「そうだな…そろそろ殿や隆国にも報告しないとな」
「報告ですか?」
「沙月。結婚しよう」
「――!!」
おわり。
終わった…!
かなり長々でしたね。読んでいただきありがとうございます。騰様好きなもので、騰様落ちです。