短編
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狐の恩返し! 前編
(王騎軍・目指せオールキャラ 王騎・隆国・同金編)
沙月が洗濯をしようと城の裏手にある小川へ行くと、川上から白いものがどんぶらこ~と流れてきた。
何だろう?とじっと見ていると、大きな耳が見える。
「えっ、動物?!」
川へ入り抱き上げてみると、傷だらけの恐らく――狐のようである。
弱弱しくキュウ、と鳴き、抵抗するようにもがく。
「生きてる…よかったぁ。大人しくしててね、助けてあげるから」
沙月は慌てて自分の部屋へと運ぶと、傷の手当をした。
「それにしても白い毛色なんて珍しいなぁ…ほら飲みな、温かい山羊のお乳だよ」
器に指を浸して狐の口元へ持って行くと、最初はぺろぺろと指を舐めていたが、そのうち勢い良く器から飲み始めた。
「…いい子。ケガが治るまでここに居ていいからね」
乾いてふわふわになった狐の毛を優しく撫でると、狐は嬉しそうにキャンと鳴いた。
*
それから数日。
狐はみるみる元気を取り戻していき…そして今日、沙月が仕事を終えて部屋へ戻ると、狐の姿は忽然と消えていた。
「…あーあ、行っちゃったかぁ…。」
もうモフモフとした毛を撫でられないのは残念だが、元気になって良かった!と気を取り直して眠りについた。
*
目の前に、高貴な雰囲気を纏う白髪の美青年が優雅に微笑んでいる。
「沙月よ、この度は助けてもらって感謝する。お陰で元の姿に戻る事ができた」
「…は…?えっ…と…?きゃーーーー!不審者ーーーっ!」
思いきり大声を出すが、ふと周りを見ると部屋ではない、何もない真っ白な空間に立っているではないか。
「ここどこ?!あなた誰?!」
「こら大声を出すでない!耳がきーんとなる!…私は数日前にお前に助けられた狐だ」
よく見ると美青年には見覚えのある大きな耳があり、そしてしっぽがふわふわと揺れている。
恐る恐る手を伸ばししっぽを触ると…確かに、あの狐と同じ感触がした。
「…夢ね、うん、これは夢だ。」
「まぁ夢という事にしてもよい。とにかくだ、お前に恩返しをしようと思う」
「おんがえし」
「とはいえ、私もまだ完全に回復したわけではないからな…何でもという訳にはいかないが」
「いやいや、狐さんが元気になってくれたらそれで充分だよ。気にしないで」
「遠慮深いのだな…沙月は見た所、まだつがいがいないようだが?」
「つがい?結婚相手のこと?まだいないけど…」
「ふむ…よし、この群れの雄が皆お前に惚れるようにしてやろう!その中からお前の好きな雄を選べばよいではないか。ふん、さすが私」
「いやいや、群れって…雄って…狐さんは考え方がケモノなんだよなぁ…」
頭を抱える沙月を横目に至極ご満悦そうな美青年はニィっと笑うと、楽しみにしておるがよい。と沙月に向って手を伸ばした。
*
「――結構ですので!!!」
沙月は自分の叫び声で目が覚めた。
周りを見回すと、自分の部屋の寝台の上。
(やっぱり夢だったんだ…変な夢見ちゃったな…)
今日は仕事が休みなのでゆっくり寝ていようかと思っていたが、夢のせいで結局いつもの早朝に目が覚めてしまった。
(…はぁ。気分転換にお風呂に行こう。この時間なら誰もいないでしょ)
使用人用の寮から湯殿へ向かっていると…
「おはよう」
「騰様!おはようございます」
少し眠そうな騰が木刀を携えて歩いていた。
「これから鍛錬ですか?」
「あぁ。…そういえば今日は休みなのに早いな」
「えぇ、ちょっと変な夢を見てしまって…」
毎朝1人で鍛錬を行う騰と、使用人の仕事の為朝早く起きる沙月。
なんとなく毎朝道で会う。
そしてこうして二人で並んで歩きながらとりとめのない話をするのが、ここ最近の日課になっている。
「怖い夢か?」
「うーん、怖いというか…。あ!昨日、この間言ってた狐が元気になって出ていったんですよ。その狐が夢の中に出てきて、恩返ししてくれるって…ふふふっ」
「そうか、恩返しとはなんとも義理堅い狐だな。沙月も毎日良く看病したな。偉いぞ」
「…はい」
こうして話していると、いつも変わらない騰の表情が、ほんの少しだけ柔らかくなる。
沙月はその表情を見るのがとても好きだった。ちょっと得した気分になる。
(…それにしても騰様はいつもと全然態度も変わらないし、やっぱりあれは夢だったんだ。
まぁ当たり前だよね)
――しかし、異変は騰と別れた後から始まったのだった。
*
ふんふんと鼻歌混じりで湯殿の扉を開けると…
「――おやぁ?早いですねェ」
「と、殿!失礼しましたっ」
王騎が優雅に一人、湯船に浸かっていた。
「まぁまぁ沙月。せっかく来たのですから、一緒に朝風呂といきましょう。ほら、私は後ろを向いていますから入ってきなさい」
「…じゃあ、お言葉に甘えて…」
嫌とは言えず、言葉通り後ろを向いている王騎の背中を見ながらそっと湯船に入る。
自分も王騎に背を向け、ゆっくりと肩まで浸かった。
ジャボジャボと湯が落ちる音だけが響く。
なんとなく気恥ずかしいが、相手は王騎だ。変な事は起きないだろう。
「ふぅ…気持ちいい…」
「えぇ本当に」
「えっ」
すぐ背後から王騎の声がした。
振り向くと逞しい胸板が目の前にあり、上を向くと妖艶に微笑む王騎の顔。
(いつの間にこんな近くへ…一体どういう事?)
「あの、近い、です…」
どきどきしてお湯の中で一歩後ろへ下がると、王騎もまた一歩進む。
「あぁ…あなたは本当に可愛らしいですねぇ…」
するりと大きな手で頬や肩を撫でられると、なんだか体が熱をもったように熱くなる。
「殿、来ないで下さい!ダメですっ」
「逃げられると、追いたくなるのが男のサガというものですよォ?」
「追われると逃げたくなっちゃいますよ!」
「そんな所もますます可愛らしいですよ、沙月」
ついに風呂のふちに背が当たった。もうこれ以上下がれない。
「殿、あのっ…質問なんですが…何をするつもりですか?」
二人の距離はもうほとんどなく、既に素肌同士が密着している。
顔も近づいてきて、今にも唇が触れ合ってしまいそう。
(王騎様は尊敬しているし、素敵だけど、こんな急に、こんな所で…初めてはいや!)
「ンフゥ。私だって男なんですよ…?何だかあなたを見ていると高まってきて――」
「殿!いらっしゃいますか!!大至急お話が!!」
――突然大きな声が湯殿に響いた。
(ありがとう救世主~!!!)
「殿!います!ここにいますっ!」
沙月は大声で叫ぶと、「それじゃ私は失礼しますね!」と風呂のふちに置いてあった布を体に巻き付けて、そそくさと逃げだした。
そして入れ代わりに湯殿に入ってきたのは、先ほど別れた騰だった。
「あっ…騰様」
「――早く行け」
騰はそう小さく沙月の耳元で囁くと、自身の着物をばさりと被せ、王騎の方へと歩いて行った。
「…騰…」
「ハ。すみません、お邪魔してしまったようですね」
「全くその通りですよォ。…本当に大至急なんでしょうねェ?」
「ハ。いえ…。無理やりは良くないと思います。殿らしくありません」
「…確かに。私としたことが、焦ってしまったようです…」
「……。」
「…騰、怒っているのですか?」
「怒っておりません、コココココ」
「怒ってますねぇ…」
*
まだ心臓がバクバクいっている。
身支度できぬまま湯殿から出てきてしまったので、髪の毛もばさばさ、身体もびしょ濡れの状態である。とりあえず自分の部屋へと向かう。
(うう、こんな状態誰かに見られたらどうしよう…)
「おい、どうしたそんな恰好で歩き回って…って…沙月か?」
「…!隆国兄様かぁ~…」
へなへなと力が抜けてしまった。
「全く!身支度くらいちゃんとせんか」
「だって、お風呂に入っていたら急に人が来たんだもん!」
「だってじゃない!見つけたのが俺じゃなかったらどうするんだ」
「別にいいでしょ!」
「良くない!あんなあられもない姿を見られたら…ここは男が多いんだ、変な気を起こすかもしれんだろうが!」
「変な気…」
先ほどの王騎の様子がチラリと頭をよぎった。そして、狐の恩返しの夢。
(…いやいやいやいや、まさかねぇ?)
「おい聞いてるのか?」
「うん」
小言を言いながらも沙月の髪を梳く隆国の手は優しかった。
「お前の髪は少し癖があるな…父さんに似ている」
「そうだね、兄様や母さんみたいな真っ直ぐな髪が羨ましいよ」
気持ち良さそうに目をつむる妹の髪を、続けて器用に結っていく。
「――ほらできたぞ。あとは唇に少し紅でも付ければいいだろう」
「ありがとう!兄様って器用だよねぇ」
「まぁな。小さいころは忙しい母さんに代ってお前の髪の毛を結ってやったものだ」
「懐かしいね…」
しばし昔の思い出に浸る兄妹だった。
「――そうだ。お前今日は休みだろう?たまには外へ飯でも食べに行くか」
「ご馳走してくれるの?」
「当たり前だろう」
「やった!じゃあ行きましょう」
沙月がガラリと部屋の扉を開けると…
「…おう」
「おはよう沙月」
「早くからすまないな」
「ちょっといいか?」
録嗚未・鱗坊・干央・同金の4人が立っていた。
*
「なんでお前らまで一緒についてくるんだ…」
隆国はため息をつきながら男達を見渡した。
「いーじゃねえか。俺は沙月を誘いに来たんだ。なぁ沙月、飯食ったら俺と遊びに行こうぜ」
「ちょっと待て録嗚未。俺だって沙月を誘いに来たんだ。それで多分…」
鱗坊は隣の干央と同金を見る。
「あぁ、俺たちもだ」
「…一体お前たちどうした?確かにうちの妹は可愛いが、お前らがいつも遊んでいる女子とは全く種類が違うじゃないか…どういう風の吹き回しだ?」
おい!沙月の前でそういうことを言うな!とぶーぶー言う男達を横目に、沙月は無心で目の前のご飯を食べていた。
(…何これ何これナニコレ!?絶対おかしいよね?)
ちらりと男達の方を見ると、たまたま目が合った干央は頬をぽっと赤らめるではないか。
(ええっ、干央様可愛い…じゃなくて、やっぱりこれは狐のせいなの…?こうなったらもう、この状況を楽しむしかない!)
「――はぁ…お前らと話していても埒が明かないな。沙月、どうするんだ」
げんなりした兄に問われ、腹をくくった沙月は。
「じゃあ、今日は皆で遊びにいきましょう!」
と、宣言した。
*
とはいえ。それぞれが沙月と2人きりになりたい男達である。
話し合いの結果、とりあえず自分が連れて行きたい場所ではその者が優先的に沙月と共にいる、という事になった。
隆国は「くれぐれも節度をもって妹をもてなすように!」と言い残して帰って行った。
「さて、じゃあ俺からだな」
一番手は同金だった。
「同金さん、よろしくお願い致します!」
「…うむ」
同金は彼女の手を取るとじゃあ行こうか、と歩き出した。
「おいっ!手を繋ぐのはいいのかよ?!」
「…恥ずかしいけど、…いいよ」
頬を染めてそんな事を言う沙月に、男達は一斉に胸がきゅんとしてしまう。
そして。
――絶対こいつらを出し抜いて、沙月といい雰囲気になってやる!――
それぞれが決意を固めた。
「わ…素敵…!」
同金が連れてきたのは、城下街にある女性ものを取り扱う商店だった。
そして少し狭い店だったので、沙月と同金以外は外で待ちぼうけである。
「ここは最近出来た店でな。都で流行っている最新のものや、他国のものなどが置いてあるのだ」
所狭しと並べられた服や装飾品、小物に沙月の目はくぎ付けだ。
「同金さんお洒落ですものね。小物の使い方とか、他の方と何か違うなぁって思ってたんです。そうか、いつもこういう所でお買い物していたんですねぇ」
興奮した沙月に褒められて、心の中で勝どきを上げる同金である。
「今日は、お前の着物を共に選びたいと思ってな。いつも淡い色のものを着ているだろう。…ほら、こういうのはどうだ?」
そう言って同金が選んだのは鮮やかな青に、淡い桃色で小花が刺繍されたもの。
「お客様お目が高い!こちら入荷したばかりのものなんですよ。例えばこちらの髪飾りを合わせても素敵ですよ」
艶やかな衣装を身に着けた店員がいくつかきらびやかな髪飾りを持ってくる。
「わぁぁ…きれい…」
「ほう、これは中々いいな。沙月着替えてみろ」
「えっ、でも…」
「あとは…これとこれも着てみろ」
「えええええ」
あれよあれよという間に店員に衝立のある奥へと連れていかれ、手早く着替えさせられた。
「旦那様、奥様のお着替え終わりましたよ。いかがでしょうか?」
「!!」
店員の言葉に思わず衝立越しに目が合い、お互い赤面してしまう。
何となく違うとも言えず、気恥ずかしいままに沙月はそっと衝立の後ろから出てきた。
「…どうですか」
「…思った通り、お前は鮮やかな色が映えるな。…綺麗だ」
少しずれた髪飾りの位置を直しながら同金は嬉しそうに微笑んだ。
「同金さん…」
(顔が怖いから少し苦手だったけど、同金さん優しいし、笑うと素敵だなぁ…)
ぼんやりとそんな事を思っていると。
「さぁ、次いきましょう。どんどん着替えますよ!」
「よろしく頼む」
「ええっ!もういいです!」
「こちらでーす」
その後3回も着替え、店員と同金の話し合いで最初の青色の着物が一番良いということになったのだが…。
ちょっとこちらへ!と沙月は同金をひっぱって店の片隅へ移動した。
「あの、私そんなに手持ちがありませんよ」
「何を言うか。俺からの贈り物だ」
「いやいやこんな高価なもの頂けないですよ…」
多分、この服は沙月がひと月働いて稼げる金額くらいなのである。
「この位なんてことない。それにお前によく似合っている」
「同金さんからしたらそうかもしれないですけど…でも…」
「そうだな…そうしたらまたこの服を着て俺と出かけてくれるか?」
頭をぽんぽんしながら、言い聞かせるように沙月の目を見つめる。
「…はい。ありがとうございます。私でよければいつでもお供します!」
「よし、良い子だ」
(そう言われちゃうと…甘えるしかないよね…)
同金がお金を払っている間店の中を見ていると、沙月の目にあるものが留まった。
(――そうだ、これなら!)
店を出ようとした同金の手を掴む。
「ん?どうした?」
「そのまま後ろを向いていて下さいね」
大人しくそのままにしていると、何やらごそごそと何かされている気配。
「はい、できました!」
どうぞご覧ください、と笑顔で店員が鏡を持ってくる。
「これは…」
後ろで一本に縛ってある髪に、沙月と同じ青の飾り紐が結んであった。
「私からの贈り物です!色もお揃いなんですよ…」
そう言って照れ笑いをする沙月が愛おしく、思わず抱きしめてしまう。
「ありがとうな、大事にする」
「ど、どうきんさま…」
「――ハイ終了!!!」
「店の入り口でいちゃつくのは感心せんな」
録嗚未と干央にべりっと引き離される二人。
「チッ。空気が読めない奴らだ」
「おお、服を買ってもらったのか!雰囲気が変わったな」
「そうだな、よく似合っている」
「えへへ、これは同金さんに選んでもらったんです」
「流石は同金だなぁ」
先ほどはいい所で邪魔をされ不満な同金だったが、皆に褒められて沙月が嬉しそうに笑っているのを見ると満更でもない気がしてきた。
「同金さん!ありがとうございました」
「おう、好評で良かった」
「――おい?同金お前そんな飾り紐付けてたか?」
目ざとい鱗坊に見つけられて、慌てて誤魔化そうとした同金だったが
「実は私とお揃いなんです!」
という沙月の言葉で全員から冷やかされてしまうのだった。
つづく…
思ったより長くなってしまいましたので、いったん切ります。
本当に全員いけるのか。いや、いくんだ。
同金様は情報が少ないのでかなり捏造です…
(王騎軍・目指せオールキャラ 王騎・隆国・同金編)
沙月が洗濯をしようと城の裏手にある小川へ行くと、川上から白いものがどんぶらこ~と流れてきた。
何だろう?とじっと見ていると、大きな耳が見える。
「えっ、動物?!」
川へ入り抱き上げてみると、傷だらけの恐らく――狐のようである。
弱弱しくキュウ、と鳴き、抵抗するようにもがく。
「生きてる…よかったぁ。大人しくしててね、助けてあげるから」
沙月は慌てて自分の部屋へと運ぶと、傷の手当をした。
「それにしても白い毛色なんて珍しいなぁ…ほら飲みな、温かい山羊のお乳だよ」
器に指を浸して狐の口元へ持って行くと、最初はぺろぺろと指を舐めていたが、そのうち勢い良く器から飲み始めた。
「…いい子。ケガが治るまでここに居ていいからね」
乾いてふわふわになった狐の毛を優しく撫でると、狐は嬉しそうにキャンと鳴いた。
*
それから数日。
狐はみるみる元気を取り戻していき…そして今日、沙月が仕事を終えて部屋へ戻ると、狐の姿は忽然と消えていた。
「…あーあ、行っちゃったかぁ…。」
もうモフモフとした毛を撫でられないのは残念だが、元気になって良かった!と気を取り直して眠りについた。
*
目の前に、高貴な雰囲気を纏う白髪の美青年が優雅に微笑んでいる。
「沙月よ、この度は助けてもらって感謝する。お陰で元の姿に戻る事ができた」
「…は…?えっ…と…?きゃーーーー!不審者ーーーっ!」
思いきり大声を出すが、ふと周りを見ると部屋ではない、何もない真っ白な空間に立っているではないか。
「ここどこ?!あなた誰?!」
「こら大声を出すでない!耳がきーんとなる!…私は数日前にお前に助けられた狐だ」
よく見ると美青年には見覚えのある大きな耳があり、そしてしっぽがふわふわと揺れている。
恐る恐る手を伸ばししっぽを触ると…確かに、あの狐と同じ感触がした。
「…夢ね、うん、これは夢だ。」
「まぁ夢という事にしてもよい。とにかくだ、お前に恩返しをしようと思う」
「おんがえし」
「とはいえ、私もまだ完全に回復したわけではないからな…何でもという訳にはいかないが」
「いやいや、狐さんが元気になってくれたらそれで充分だよ。気にしないで」
「遠慮深いのだな…沙月は見た所、まだつがいがいないようだが?」
「つがい?結婚相手のこと?まだいないけど…」
「ふむ…よし、この群れの雄が皆お前に惚れるようにしてやろう!その中からお前の好きな雄を選べばよいではないか。ふん、さすが私」
「いやいや、群れって…雄って…狐さんは考え方がケモノなんだよなぁ…」
頭を抱える沙月を横目に至極ご満悦そうな美青年はニィっと笑うと、楽しみにしておるがよい。と沙月に向って手を伸ばした。
*
「――結構ですので!!!」
沙月は自分の叫び声で目が覚めた。
周りを見回すと、自分の部屋の寝台の上。
(やっぱり夢だったんだ…変な夢見ちゃったな…)
今日は仕事が休みなのでゆっくり寝ていようかと思っていたが、夢のせいで結局いつもの早朝に目が覚めてしまった。
(…はぁ。気分転換にお風呂に行こう。この時間なら誰もいないでしょ)
使用人用の寮から湯殿へ向かっていると…
「おはよう」
「騰様!おはようございます」
少し眠そうな騰が木刀を携えて歩いていた。
「これから鍛錬ですか?」
「あぁ。…そういえば今日は休みなのに早いな」
「えぇ、ちょっと変な夢を見てしまって…」
毎朝1人で鍛錬を行う騰と、使用人の仕事の為朝早く起きる沙月。
なんとなく毎朝道で会う。
そしてこうして二人で並んで歩きながらとりとめのない話をするのが、ここ最近の日課になっている。
「怖い夢か?」
「うーん、怖いというか…。あ!昨日、この間言ってた狐が元気になって出ていったんですよ。その狐が夢の中に出てきて、恩返ししてくれるって…ふふふっ」
「そうか、恩返しとはなんとも義理堅い狐だな。沙月も毎日良く看病したな。偉いぞ」
「…はい」
こうして話していると、いつも変わらない騰の表情が、ほんの少しだけ柔らかくなる。
沙月はその表情を見るのがとても好きだった。ちょっと得した気分になる。
(…それにしても騰様はいつもと全然態度も変わらないし、やっぱりあれは夢だったんだ。
まぁ当たり前だよね)
――しかし、異変は騰と別れた後から始まったのだった。
*
ふんふんと鼻歌混じりで湯殿の扉を開けると…
「――おやぁ?早いですねェ」
「と、殿!失礼しましたっ」
王騎が優雅に一人、湯船に浸かっていた。
「まぁまぁ沙月。せっかく来たのですから、一緒に朝風呂といきましょう。ほら、私は後ろを向いていますから入ってきなさい」
「…じゃあ、お言葉に甘えて…」
嫌とは言えず、言葉通り後ろを向いている王騎の背中を見ながらそっと湯船に入る。
自分も王騎に背を向け、ゆっくりと肩まで浸かった。
ジャボジャボと湯が落ちる音だけが響く。
なんとなく気恥ずかしいが、相手は王騎だ。変な事は起きないだろう。
「ふぅ…気持ちいい…」
「えぇ本当に」
「えっ」
すぐ背後から王騎の声がした。
振り向くと逞しい胸板が目の前にあり、上を向くと妖艶に微笑む王騎の顔。
(いつの間にこんな近くへ…一体どういう事?)
「あの、近い、です…」
どきどきしてお湯の中で一歩後ろへ下がると、王騎もまた一歩進む。
「あぁ…あなたは本当に可愛らしいですねぇ…」
するりと大きな手で頬や肩を撫でられると、なんだか体が熱をもったように熱くなる。
「殿、来ないで下さい!ダメですっ」
「逃げられると、追いたくなるのが男のサガというものですよォ?」
「追われると逃げたくなっちゃいますよ!」
「そんな所もますます可愛らしいですよ、沙月」
ついに風呂のふちに背が当たった。もうこれ以上下がれない。
「殿、あのっ…質問なんですが…何をするつもりですか?」
二人の距離はもうほとんどなく、既に素肌同士が密着している。
顔も近づいてきて、今にも唇が触れ合ってしまいそう。
(王騎様は尊敬しているし、素敵だけど、こんな急に、こんな所で…初めてはいや!)
「ンフゥ。私だって男なんですよ…?何だかあなたを見ていると高まってきて――」
「殿!いらっしゃいますか!!大至急お話が!!」
――突然大きな声が湯殿に響いた。
(ありがとう救世主~!!!)
「殿!います!ここにいますっ!」
沙月は大声で叫ぶと、「それじゃ私は失礼しますね!」と風呂のふちに置いてあった布を体に巻き付けて、そそくさと逃げだした。
そして入れ代わりに湯殿に入ってきたのは、先ほど別れた騰だった。
「あっ…騰様」
「――早く行け」
騰はそう小さく沙月の耳元で囁くと、自身の着物をばさりと被せ、王騎の方へと歩いて行った。
「…騰…」
「ハ。すみません、お邪魔してしまったようですね」
「全くその通りですよォ。…本当に大至急なんでしょうねェ?」
「ハ。いえ…。無理やりは良くないと思います。殿らしくありません」
「…確かに。私としたことが、焦ってしまったようです…」
「……。」
「…騰、怒っているのですか?」
「怒っておりません、コココココ」
「怒ってますねぇ…」
*
まだ心臓がバクバクいっている。
身支度できぬまま湯殿から出てきてしまったので、髪の毛もばさばさ、身体もびしょ濡れの状態である。とりあえず自分の部屋へと向かう。
(うう、こんな状態誰かに見られたらどうしよう…)
「おい、どうしたそんな恰好で歩き回って…って…沙月か?」
「…!隆国兄様かぁ~…」
へなへなと力が抜けてしまった。
「全く!身支度くらいちゃんとせんか」
「だって、お風呂に入っていたら急に人が来たんだもん!」
「だってじゃない!見つけたのが俺じゃなかったらどうするんだ」
「別にいいでしょ!」
「良くない!あんなあられもない姿を見られたら…ここは男が多いんだ、変な気を起こすかもしれんだろうが!」
「変な気…」
先ほどの王騎の様子がチラリと頭をよぎった。そして、狐の恩返しの夢。
(…いやいやいやいや、まさかねぇ?)
「おい聞いてるのか?」
「うん」
小言を言いながらも沙月の髪を梳く隆国の手は優しかった。
「お前の髪は少し癖があるな…父さんに似ている」
「そうだね、兄様や母さんみたいな真っ直ぐな髪が羨ましいよ」
気持ち良さそうに目をつむる妹の髪を、続けて器用に結っていく。
「――ほらできたぞ。あとは唇に少し紅でも付ければいいだろう」
「ありがとう!兄様って器用だよねぇ」
「まぁな。小さいころは忙しい母さんに代ってお前の髪の毛を結ってやったものだ」
「懐かしいね…」
しばし昔の思い出に浸る兄妹だった。
「――そうだ。お前今日は休みだろう?たまには外へ飯でも食べに行くか」
「ご馳走してくれるの?」
「当たり前だろう」
「やった!じゃあ行きましょう」
沙月がガラリと部屋の扉を開けると…
「…おう」
「おはよう沙月」
「早くからすまないな」
「ちょっといいか?」
録嗚未・鱗坊・干央・同金の4人が立っていた。
*
「なんでお前らまで一緒についてくるんだ…」
隆国はため息をつきながら男達を見渡した。
「いーじゃねえか。俺は沙月を誘いに来たんだ。なぁ沙月、飯食ったら俺と遊びに行こうぜ」
「ちょっと待て録嗚未。俺だって沙月を誘いに来たんだ。それで多分…」
鱗坊は隣の干央と同金を見る。
「あぁ、俺たちもだ」
「…一体お前たちどうした?確かにうちの妹は可愛いが、お前らがいつも遊んでいる女子とは全く種類が違うじゃないか…どういう風の吹き回しだ?」
おい!沙月の前でそういうことを言うな!とぶーぶー言う男達を横目に、沙月は無心で目の前のご飯を食べていた。
(…何これ何これナニコレ!?絶対おかしいよね?)
ちらりと男達の方を見ると、たまたま目が合った干央は頬をぽっと赤らめるではないか。
(ええっ、干央様可愛い…じゃなくて、やっぱりこれは狐のせいなの…?こうなったらもう、この状況を楽しむしかない!)
「――はぁ…お前らと話していても埒が明かないな。沙月、どうするんだ」
げんなりした兄に問われ、腹をくくった沙月は。
「じゃあ、今日は皆で遊びにいきましょう!」
と、宣言した。
*
とはいえ。それぞれが沙月と2人きりになりたい男達である。
話し合いの結果、とりあえず自分が連れて行きたい場所ではその者が優先的に沙月と共にいる、という事になった。
隆国は「くれぐれも節度をもって妹をもてなすように!」と言い残して帰って行った。
「さて、じゃあ俺からだな」
一番手は同金だった。
「同金さん、よろしくお願い致します!」
「…うむ」
同金は彼女の手を取るとじゃあ行こうか、と歩き出した。
「おいっ!手を繋ぐのはいいのかよ?!」
「…恥ずかしいけど、…いいよ」
頬を染めてそんな事を言う沙月に、男達は一斉に胸がきゅんとしてしまう。
そして。
――絶対こいつらを出し抜いて、沙月といい雰囲気になってやる!――
それぞれが決意を固めた。
「わ…素敵…!」
同金が連れてきたのは、城下街にある女性ものを取り扱う商店だった。
そして少し狭い店だったので、沙月と同金以外は外で待ちぼうけである。
「ここは最近出来た店でな。都で流行っている最新のものや、他国のものなどが置いてあるのだ」
所狭しと並べられた服や装飾品、小物に沙月の目はくぎ付けだ。
「同金さんお洒落ですものね。小物の使い方とか、他の方と何か違うなぁって思ってたんです。そうか、いつもこういう所でお買い物していたんですねぇ」
興奮した沙月に褒められて、心の中で勝どきを上げる同金である。
「今日は、お前の着物を共に選びたいと思ってな。いつも淡い色のものを着ているだろう。…ほら、こういうのはどうだ?」
そう言って同金が選んだのは鮮やかな青に、淡い桃色で小花が刺繍されたもの。
「お客様お目が高い!こちら入荷したばかりのものなんですよ。例えばこちらの髪飾りを合わせても素敵ですよ」
艶やかな衣装を身に着けた店員がいくつかきらびやかな髪飾りを持ってくる。
「わぁぁ…きれい…」
「ほう、これは中々いいな。沙月着替えてみろ」
「えっ、でも…」
「あとは…これとこれも着てみろ」
「えええええ」
あれよあれよという間に店員に衝立のある奥へと連れていかれ、手早く着替えさせられた。
「旦那様、奥様のお着替え終わりましたよ。いかがでしょうか?」
「!!」
店員の言葉に思わず衝立越しに目が合い、お互い赤面してしまう。
何となく違うとも言えず、気恥ずかしいままに沙月はそっと衝立の後ろから出てきた。
「…どうですか」
「…思った通り、お前は鮮やかな色が映えるな。…綺麗だ」
少しずれた髪飾りの位置を直しながら同金は嬉しそうに微笑んだ。
「同金さん…」
(顔が怖いから少し苦手だったけど、同金さん優しいし、笑うと素敵だなぁ…)
ぼんやりとそんな事を思っていると。
「さぁ、次いきましょう。どんどん着替えますよ!」
「よろしく頼む」
「ええっ!もういいです!」
「こちらでーす」
その後3回も着替え、店員と同金の話し合いで最初の青色の着物が一番良いということになったのだが…。
ちょっとこちらへ!と沙月は同金をひっぱって店の片隅へ移動した。
「あの、私そんなに手持ちがありませんよ」
「何を言うか。俺からの贈り物だ」
「いやいやこんな高価なもの頂けないですよ…」
多分、この服は沙月がひと月働いて稼げる金額くらいなのである。
「この位なんてことない。それにお前によく似合っている」
「同金さんからしたらそうかもしれないですけど…でも…」
「そうだな…そうしたらまたこの服を着て俺と出かけてくれるか?」
頭をぽんぽんしながら、言い聞かせるように沙月の目を見つめる。
「…はい。ありがとうございます。私でよければいつでもお供します!」
「よし、良い子だ」
(そう言われちゃうと…甘えるしかないよね…)
同金がお金を払っている間店の中を見ていると、沙月の目にあるものが留まった。
(――そうだ、これなら!)
店を出ようとした同金の手を掴む。
「ん?どうした?」
「そのまま後ろを向いていて下さいね」
大人しくそのままにしていると、何やらごそごそと何かされている気配。
「はい、できました!」
どうぞご覧ください、と笑顔で店員が鏡を持ってくる。
「これは…」
後ろで一本に縛ってある髪に、沙月と同じ青の飾り紐が結んであった。
「私からの贈り物です!色もお揃いなんですよ…」
そう言って照れ笑いをする沙月が愛おしく、思わず抱きしめてしまう。
「ありがとうな、大事にする」
「ど、どうきんさま…」
「――ハイ終了!!!」
「店の入り口でいちゃつくのは感心せんな」
録嗚未と干央にべりっと引き離される二人。
「チッ。空気が読めない奴らだ」
「おお、服を買ってもらったのか!雰囲気が変わったな」
「そうだな、よく似合っている」
「えへへ、これは同金さんに選んでもらったんです」
「流石は同金だなぁ」
先ほどはいい所で邪魔をされ不満な同金だったが、皆に褒められて沙月が嬉しそうに笑っているのを見ると満更でもない気がしてきた。
「同金さん!ありがとうございました」
「おう、好評で良かった」
「――おい?同金お前そんな飾り紐付けてたか?」
目ざとい鱗坊に見つけられて、慌てて誤魔化そうとした同金だったが
「実は私とお揃いなんです!」
という沙月の言葉で全員から冷やかされてしまうのだった。
つづく…
思ったより長くなってしまいましたので、いったん切ります。
本当に全員いけるのか。いや、いくんだ。
同金様は情報が少ないのでかなり捏造です…