王騎軍新米使用人日記
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2
数日後。荷物をまとめた沙月はひとり王騎城へと向かっていた。兄から迎えに行くと言われたが、断った。
自分だってもう大人なのだ。
いつまでも兄に頼っていてはいけない。
それにこれからは全部自分でやろうと思っていた矢先、城での仕事まで紹介してもらってしまったし。
この年で初めて働く身としては、断るにはあまりにも勿体なかったので、迷ったけれど有難くお受けした。
(王騎将軍…遠目でお見掛けした事はあったけど、どんな方なのかなぁ。楽しみ)
村から王騎の住む城までは街道沿いを1日も歩けばつくはず。それに王騎城の近くは治安も良いので女の1人歩きでもきっと大丈夫だろう。
(結構歩いたな…)
薄暗い早朝に村を出て、もうどの位になるだろうか。日は頭の上、そろそろお腹も空いてくる。
少し街道から外れた所にちょうど良い木陰と柔らかな草むらがあったので、休憩することにした。
「やった、野いちごなってる!」
お腹も空いていたので無心で酸っぱい野いちごを食べ続けていると、段々瞼が重くなってきた。慣れない早起き、穏やかな陽気、心地よい疲労、トドメの果物。
「ちょっと…だけ…ー」
そうして、沙月は寝落ちした。
*
「…おや」
王騎から頼まれた用で前日から遠出していた騰は、城へと帰る道すがら死体を見つけた。
草むらに横たわるそれは、若い女のようであった。
実はあれから小一時間ほど熟睡している沙月である。
騰は馬から下りると、死体(仮)を確認する。服の乱れもなく、荷物も荒らされていないので、野盗に襲われたのではなさそうだったが、口元には血の跡。
よく見ると胸がゆっくりと上下している。
「…生きている」
ほっとしながら口元をよく見ると、血ではなく、足元に群生している野いちごの赤だった。しかし若い娘が1人、こんな街道近くで昼間から寝ているなんて…
(不用心にもほどがあるな)
馬が草を美味しそうに食んでいるので、騰も娘の近くに腰を下ろす。
手元の草は柔らかく、丁度よい木陰――なるほど寝転がったら気持ちがよさそうだ。
ぐぐぅううううううう
静寂を破り、娘の腹から豪快な音が響いた。
思わず目をぱちくりする騰。
ふと思いついて、懐から小さな砂糖菓子を出すと、娘の唇に近づけてみた。
うー…ん…?と眠りながらもぱくりと騰の手から菓子を食べる。
もぐもぐもぐ…んふ…ぺろりと食べると、にんまりと幸せそうに笑う。
面白くて、もう一つ、もう一つと口に運ぶ。
(餌付けをしているようだ)
娘の顔をよく見ると、地味だが顔立ちは悪くない。もっと娘らしい服でも着せれば、中々見栄えるだろう…
そんな事を考えながら菓子をまた一つ口へ運ぶと、沙月は騰の指ごと食いついた。
「!!」
飴の様に騰の指を舐める沙月。
その艶めかしい感触に騰は何ともいけない事をしている気になり、そっと、指を口から抜いた。
「うーーーん…?私のお菓子…は…」
沙月がうっすらと目を開けると、目の前にはガタイの良い目鼻立ちのくっきりとした美丈夫が自分を見つめているではないか。
野盗?!ぱっと目覚める。
「?!ごごごごめんなさい?!!私お金少ししか持ってませんから命だけは…」
瞬時に騰から遠ざかる沙月。
「落ち着け」
「カラダ?カラダが目当て?!こんな田舎もののカラダをどうこうしても面白くないですよ!」
「だから落ち着け」
「今日から王騎様のお城で働けるのに…こんなところで死にたくなーーい!」
「話を聞け」
この問答を暫く続け、ようやく沙月はこの男が自分を助けてくれようとしたのだと理解した。
そして騰もこの娘が隆国の妹の沙月だと理解した。
「えーと、騰さんは諸国をさすらう旅芸人で、たまたま通りかかった時に私を行き倒れていると思って助けようとしてくれた、と」
「コココココ、その通りです」
大嘘である。
「親切な方になんて失礼なことを…申し訳ございませんでした!」
「構わん。私も誤解を招くような事をしたからな」
「じゃあそろそろ私行きますね」
沙月が立ち上がると、騰も立ち上がった。
「私もそっち方面へ行くから送ろう」
「え、そんな申し訳な――」
言うそばから騰は沙月をひょいと担いで馬に乗せ、自分も飛び乗る。
「あの城まではお前の足では着くのが明日になってしまうぞ」
「は、いっ!」
馬の揺れに必死に耐えながらも、沙月の意識は全神経が背中に集中していた。
騰に後ろから抱かれるような体勢なので、逞しい筋肉に包まれ、しかもほのかに良い香りなんかして、頭がクラクラと沸騰してしまいそう。
「…」
騰は腕の中の娘の耳が真っ赤なのを見て、そこをかぷっと咥えたい欲を抑えながら馬を走らせるのだった。
(まぁ…いずれな)
数日後。荷物をまとめた沙月はひとり王騎城へと向かっていた。兄から迎えに行くと言われたが、断った。
自分だってもう大人なのだ。
いつまでも兄に頼っていてはいけない。
それにこれからは全部自分でやろうと思っていた矢先、城での仕事まで紹介してもらってしまったし。
この年で初めて働く身としては、断るにはあまりにも勿体なかったので、迷ったけれど有難くお受けした。
(王騎将軍…遠目でお見掛けした事はあったけど、どんな方なのかなぁ。楽しみ)
村から王騎の住む城までは街道沿いを1日も歩けばつくはず。それに王騎城の近くは治安も良いので女の1人歩きでもきっと大丈夫だろう。
(結構歩いたな…)
薄暗い早朝に村を出て、もうどの位になるだろうか。日は頭の上、そろそろお腹も空いてくる。
少し街道から外れた所にちょうど良い木陰と柔らかな草むらがあったので、休憩することにした。
「やった、野いちごなってる!」
お腹も空いていたので無心で酸っぱい野いちごを食べ続けていると、段々瞼が重くなってきた。慣れない早起き、穏やかな陽気、心地よい疲労、トドメの果物。
「ちょっと…だけ…ー」
そうして、沙月は寝落ちした。
*
「…おや」
王騎から頼まれた用で前日から遠出していた騰は、城へと帰る道すがら死体を見つけた。
草むらに横たわるそれは、若い女のようであった。
実はあれから小一時間ほど熟睡している沙月である。
騰は馬から下りると、死体(仮)を確認する。服の乱れもなく、荷物も荒らされていないので、野盗に襲われたのではなさそうだったが、口元には血の跡。
よく見ると胸がゆっくりと上下している。
「…生きている」
ほっとしながら口元をよく見ると、血ではなく、足元に群生している野いちごの赤だった。しかし若い娘が1人、こんな街道近くで昼間から寝ているなんて…
(不用心にもほどがあるな)
馬が草を美味しそうに食んでいるので、騰も娘の近くに腰を下ろす。
手元の草は柔らかく、丁度よい木陰――なるほど寝転がったら気持ちがよさそうだ。
ぐぐぅううううううう
静寂を破り、娘の腹から豪快な音が響いた。
思わず目をぱちくりする騰。
ふと思いついて、懐から小さな砂糖菓子を出すと、娘の唇に近づけてみた。
うー…ん…?と眠りながらもぱくりと騰の手から菓子を食べる。
もぐもぐもぐ…んふ…ぺろりと食べると、にんまりと幸せそうに笑う。
面白くて、もう一つ、もう一つと口に運ぶ。
(餌付けをしているようだ)
娘の顔をよく見ると、地味だが顔立ちは悪くない。もっと娘らしい服でも着せれば、中々見栄えるだろう…
そんな事を考えながら菓子をまた一つ口へ運ぶと、沙月は騰の指ごと食いついた。
「!!」
飴の様に騰の指を舐める沙月。
その艶めかしい感触に騰は何ともいけない事をしている気になり、そっと、指を口から抜いた。
「うーーーん…?私のお菓子…は…」
沙月がうっすらと目を開けると、目の前にはガタイの良い目鼻立ちのくっきりとした美丈夫が自分を見つめているではないか。
野盗?!ぱっと目覚める。
「?!ごごごごめんなさい?!!私お金少ししか持ってませんから命だけは…」
瞬時に騰から遠ざかる沙月。
「落ち着け」
「カラダ?カラダが目当て?!こんな田舎もののカラダをどうこうしても面白くないですよ!」
「だから落ち着け」
「今日から王騎様のお城で働けるのに…こんなところで死にたくなーーい!」
「話を聞け」
この問答を暫く続け、ようやく沙月はこの男が自分を助けてくれようとしたのだと理解した。
そして騰もこの娘が隆国の妹の沙月だと理解した。
「えーと、騰さんは諸国をさすらう旅芸人で、たまたま通りかかった時に私を行き倒れていると思って助けようとしてくれた、と」
「コココココ、その通りです」
大嘘である。
「親切な方になんて失礼なことを…申し訳ございませんでした!」
「構わん。私も誤解を招くような事をしたからな」
「じゃあそろそろ私行きますね」
沙月が立ち上がると、騰も立ち上がった。
「私もそっち方面へ行くから送ろう」
「え、そんな申し訳な――」
言うそばから騰は沙月をひょいと担いで馬に乗せ、自分も飛び乗る。
「あの城まではお前の足では着くのが明日になってしまうぞ」
「は、いっ!」
馬の揺れに必死に耐えながらも、沙月の意識は全神経が背中に集中していた。
騰に後ろから抱かれるような体勢なので、逞しい筋肉に包まれ、しかもほのかに良い香りなんかして、頭がクラクラと沸騰してしまいそう。
「…」
騰は腕の中の娘の耳が真っ赤なのを見て、そこをかぷっと咥えたい欲を抑えながら馬を走らせるのだった。
(まぁ…いずれな)