短編
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部屋の中の秘事(王騎)
――夜。
誰にも見られないよう、そっと王騎様の部屋へ忍び込んだ。
「…殿…」
その時、後ろから誰かに抱きすくめられた。
*
摎様が亡くなってから、私と王騎様は体を重ねるようになった。
はじまりは摎様のお葬式からしばらく経ち、徐々に日常が戻り始めた頃。
ほとんど食欲もなく、夜になると塞ぎこむ殿を見かねてお部屋を訪ねた。
「殿、沙月です。最近お食事をあまりとっていないように見えましたので…せめて汁物だけでも召し上がれませんか?」
「… 沙月、ですか」
中から微かに聞こえた弱弱しい声に驚き、慌てて部屋の中へと入る。
そこは真っ暗で、暗闇に段々目が慣れてくると寝台に横たわる人影が見えた。
「…王騎様?」
「―― 沙月、何でもいいですから…摎の話を聞かせてもらえませんか」
そこにいたのはいつもの堂々とした将軍の王騎ではなく、愛する者を失った悲しみにくれる一人の男だった。
摎様の側仕えであり、友人であった私も、彼女の突然の死に身が切れるような怒りと悲しみを抱えていた。
私たちはある意味似た二人だった。
ぽつりぽつりと語り合い、泣いて、時に笑って…気が付くと二人で寄り添って眠っていた。
王騎様と摎様の思い出を語り合う事で、お互いの傷を舐めあっていたんだろう。
その時は勿論何もなく、朝起きたら目の前に殿の顔があって、それはもうお互いに驚いた。
「コココココ…二人で朝を迎えてしまいましたねぇ…」
「す、すみません!いつの間にか寝てしまって」
「ありがとうございます、久しぶりにゆっくり眠れましたよォ」
久しぶりに自然な王騎様の笑顔が見られて、酷く安堵したのを覚えている。
殿の部屋の前には常に番の兵がいるのだが、私が呼ばれる時は人払いをされているようだった。だから誰にも見られることはなく殿の部屋へ通った。
とはいえ流石に毎回朝帰りという訳にはいかないので、殿の寝顔を見届けてから朝までには誰にも見つからないよう、自室へと帰るようにしていたが。
もしかしたらその頃から騰様は何か気づいていたのかもしれない。
この頃からふとした時にもの言いたげな視線を送ってくる様になったから。
だが王騎様の様子が落ち着いてくるにつれて、部屋へと呼ばれる回数は徐々に減っていった。それに伴って、胸の奥の特別な感情も厳重に封印した。
*
そして、確か雨の日だった。
久しぶりに王騎様からお呼びがかかったのだ。
失礼しますと部屋へと入ると、殿が盃を傾けながら雨をぼんやりと見つめていた。
その横顔を見ながら、私はずっとひた隠しにしてきた特別な感情――殿への恋心――が、もはや隠し切れないくらい大きくなっているのを感じていた。
ドキン、ドキン、と胸が痛いくらいに高鳴っている。
(ごめんなさい摎様。本当は私もずっと王騎様の事をお慕いしていたんです)
(私――王騎様の事が好きです)
私に気づいた殿が、そんな所立っていないでこちらへ来なさいなと促す。
「今夜は久しぶりに沙月と語らおうと思って呼び出してしまいましたよ……うん?」
いつもと様子が違う私に気づいたようだった。
「王騎様、私…」
「…どうしました?今宵は私に抱かれに来たんですかァ?」
これはいつもの殿の冗談。
何を言ってるんですか、違いますよ!って返すところだけど、今日は――
「そうです…今日は、私を抱いて下さい」
「…そんな顔をして。いけませんよ、女子がそういう冗談を言うのは感心しませんねェ」
ふいと顔を逸らした王騎様の手を取り、早鐘を打つ左胸に押し付けた。
「本気です。私を、摎様の代わりにして下さい…それでもいいから、王騎様が欲しい…です」
「…悪い子ですね…」
気が付くと殿の腕の中に捉えられ、鋭くこちらを見つめる瞳に吸い込まれるように唇を重ねた。
王騎様の香りでいっぱいになり、むせ返りそうになる。
甘い花の香りだ。
あぁ、酔ってしまいそう。
荒々しく舌が掬い取られ、絡み合い、お互いの間にある着物がもどかしく、脱がせ合った。
寝台へと行くのも待ちきれず長椅子に組み敷かれ、どちらからともなく求め合う。
部屋に響くのは浅ましく喘ぐ自分の嬌声と、激しく乱れた呼吸。
(――王騎様の瞳には誰が映っているんだろう?摎様?私?)
(いつかあの世に行ったら、摎様に怒られるだろうな…)
些事な考えは絶え間ない快楽の波に飲まれて、そのうち意識が遠くなっていく。
摎、と小さく殿の声が聞こえたような気がしたが、聞こえないふりをした。
意識が飛ぶ前、ザァァ…と雨の音が、やけに大きく聞こえた。
*
その日からまた王騎様のお部屋へ呼ばれるようになった。
今までと違うのは、おしゃべりをした後に自然と体を重ねるようになったところだ。
私は王騎様を愛していた。
でも絶対言葉にはしなかったし、殿も私にそういう類の言葉を囁く事はなかった。
いつまでも王騎様の真ん中には摎様がいるから。
何度体を重ねてもそれは変わらないんだろう。
最初はそれでもいいと思っていたが、人間とは欲深いもので。
いつしか自分だけを見てほしい、愛して欲しいと思ってしまう。
しかし殿は愛を囁く代わりに、私に謝るのだ。
「…私はあなたに甘えてばかりですね…すみません」と。
「謝らないで下さい。私が望んだことですから」
――そう、これは私が望んだ事。
*
騰様が部屋へ訪ねて来た。
「…もうあの関係を辞めないか」
唐突な言葉に、お茶の用意をしている手が止まる。
「何のことですか…?」
思わず声が上ずる。あぁ、この人は全部知っているんだ。
「普通の主人と使用人に戻ればいい。…このままいってもお前が辛いだけだぞ。二人がいいならと思って見ないふりをしてきたが、最近の沙月は見ていられない」
震える肩に、そっと後ろから手を置かれる。
「そんな事は…私は大丈夫ですから」
「… 沙月、城勤めを辞めて私の両親の屋敷に来ないか。田舎だから退屈かもしれないがのどかでいい場所だ。気持ちも楽になるぞ。そしていずれ私と――」
「ごめんなさい騰様…もう少しだけ。もう少しだけ…ごめんなさい…」
「…謝って欲しいわけではない。お前から殿の香りがするのが…私は耐えられないのだ」
騰様は私をぎゅっと胸の中に閉じ込めた。
しばらくそのまま、彼の胸の中で泣き続けた。
その後騰様が殿に何か言ったのか、ぱったりとお声がかかることは無くなった。
自分から会いに行こうと思ったが、全て騰様に筒抜けかと思うと躊躇してしまう。
遠目で殿を見かけてはため息をつく日々だったが、時が経つと案外平気になってくるもので。
城内で殿にばったり会っても普通に会話できるようにはなっていった。
そうして、また時が流れ――王騎将軍が死んだ。
*
早馬でその知らせを受けた王騎城内は誰もが涙し、茫然となった。
私も腰が抜けてしばらく立つことが出来なかった。
嘘だ。殿は秦の怪鳥で、六大将軍なんだ。
あの王騎様が死ぬはずがない…
摎様だって護っていてくれているはずでしょう?
騰様だって、軍長達だって、兵士達だって、とっても強いのに。
何かの間違いであってほしい…
ふと我に返るともう辺りはすっかりと暗くなっていた。
今日は皆仕事どころではなく、各々喪に服しているようだ。
無意識に私の足は王騎様の部屋へと向かっていた。
いつも扉の前にいるはずの番の兵がいない。
――そっと部屋の扉を開けて、中へと忍びこんだ。
*
そして、今に至る。
私は今、真っ暗な部屋の中で何者かに後ろから抱きしめられている。
「誰?!離して!不審者か?」
――ぶわっ、と花のような香りがした。
(嘘…この香りは…)
「お、王騎、様…?」
戦に行っている殿がこの部屋にいる訳がない。
ということは、やはり、殿は……
ボロボロと涙が落ちる。
耳元で大好きな懐かしい声が聴こえた。
―― 沙月、今まで苦しめてしまいましたね
――私の弱さを受け止めてくれて…あなたにどれほど救われたか…ありがとうございました
――愛していますよ、沙月
「王騎様!!私も貴方の事愛していました!馬鹿野郎ーっ!!」
泣きながら叫んだ告白は、果たして殿へ届いたのか。
コココココ…という笑い声と共に、香りが消えて体がふっと軽くなった。
あぁ、殿は本当に逝ってしまわれたんだな…。
無事に摎様と会えただろうか?
(私との事、怒られないといいですね)
「…よし!!」
自分の想いを始めて吐き出して、随分と気持ちが晴れやかだ。
いつまでも悲しんでいられないと涙をふいて立ち上がる。
これから帰って来る殿や騰様、戦った皆をしっかりとここで迎えなければ。
――私は部屋の外へと歩き出した。
おわり。
58巻、ありがとう…
何かのでけぇ花みたいな匂いって何だろう。
騰様のくだりは要らない気もしたけど…騰様書かないと死んじゃう病気なので…
これでも王騎様大好きなんです
――夜。
誰にも見られないよう、そっと王騎様の部屋へ忍び込んだ。
「…殿…」
その時、後ろから誰かに抱きすくめられた。
*
摎様が亡くなってから、私と王騎様は体を重ねるようになった。
はじまりは摎様のお葬式からしばらく経ち、徐々に日常が戻り始めた頃。
ほとんど食欲もなく、夜になると塞ぎこむ殿を見かねてお部屋を訪ねた。
「殿、沙月です。最近お食事をあまりとっていないように見えましたので…せめて汁物だけでも召し上がれませんか?」
「… 沙月、ですか」
中から微かに聞こえた弱弱しい声に驚き、慌てて部屋の中へと入る。
そこは真っ暗で、暗闇に段々目が慣れてくると寝台に横たわる人影が見えた。
「…王騎様?」
「―― 沙月、何でもいいですから…摎の話を聞かせてもらえませんか」
そこにいたのはいつもの堂々とした将軍の王騎ではなく、愛する者を失った悲しみにくれる一人の男だった。
摎様の側仕えであり、友人であった私も、彼女の突然の死に身が切れるような怒りと悲しみを抱えていた。
私たちはある意味似た二人だった。
ぽつりぽつりと語り合い、泣いて、時に笑って…気が付くと二人で寄り添って眠っていた。
王騎様と摎様の思い出を語り合う事で、お互いの傷を舐めあっていたんだろう。
その時は勿論何もなく、朝起きたら目の前に殿の顔があって、それはもうお互いに驚いた。
「コココココ…二人で朝を迎えてしまいましたねぇ…」
「す、すみません!いつの間にか寝てしまって」
「ありがとうございます、久しぶりにゆっくり眠れましたよォ」
久しぶりに自然な王騎様の笑顔が見られて、酷く安堵したのを覚えている。
殿の部屋の前には常に番の兵がいるのだが、私が呼ばれる時は人払いをされているようだった。だから誰にも見られることはなく殿の部屋へ通った。
とはいえ流石に毎回朝帰りという訳にはいかないので、殿の寝顔を見届けてから朝までには誰にも見つからないよう、自室へと帰るようにしていたが。
もしかしたらその頃から騰様は何か気づいていたのかもしれない。
この頃からふとした時にもの言いたげな視線を送ってくる様になったから。
だが王騎様の様子が落ち着いてくるにつれて、部屋へと呼ばれる回数は徐々に減っていった。それに伴って、胸の奥の特別な感情も厳重に封印した。
*
そして、確か雨の日だった。
久しぶりに王騎様からお呼びがかかったのだ。
失礼しますと部屋へと入ると、殿が盃を傾けながら雨をぼんやりと見つめていた。
その横顔を見ながら、私はずっとひた隠しにしてきた特別な感情――殿への恋心――が、もはや隠し切れないくらい大きくなっているのを感じていた。
ドキン、ドキン、と胸が痛いくらいに高鳴っている。
(ごめんなさい摎様。本当は私もずっと王騎様の事をお慕いしていたんです)
(私――王騎様の事が好きです)
私に気づいた殿が、そんな所立っていないでこちらへ来なさいなと促す。
「今夜は久しぶりに沙月と語らおうと思って呼び出してしまいましたよ……うん?」
いつもと様子が違う私に気づいたようだった。
「王騎様、私…」
「…どうしました?今宵は私に抱かれに来たんですかァ?」
これはいつもの殿の冗談。
何を言ってるんですか、違いますよ!って返すところだけど、今日は――
「そうです…今日は、私を抱いて下さい」
「…そんな顔をして。いけませんよ、女子がそういう冗談を言うのは感心しませんねェ」
ふいと顔を逸らした王騎様の手を取り、早鐘を打つ左胸に押し付けた。
「本気です。私を、摎様の代わりにして下さい…それでもいいから、王騎様が欲しい…です」
「…悪い子ですね…」
気が付くと殿の腕の中に捉えられ、鋭くこちらを見つめる瞳に吸い込まれるように唇を重ねた。
王騎様の香りでいっぱいになり、むせ返りそうになる。
甘い花の香りだ。
あぁ、酔ってしまいそう。
荒々しく舌が掬い取られ、絡み合い、お互いの間にある着物がもどかしく、脱がせ合った。
寝台へと行くのも待ちきれず長椅子に組み敷かれ、どちらからともなく求め合う。
部屋に響くのは浅ましく喘ぐ自分の嬌声と、激しく乱れた呼吸。
(――王騎様の瞳には誰が映っているんだろう?摎様?私?)
(いつかあの世に行ったら、摎様に怒られるだろうな…)
些事な考えは絶え間ない快楽の波に飲まれて、そのうち意識が遠くなっていく。
摎、と小さく殿の声が聞こえたような気がしたが、聞こえないふりをした。
意識が飛ぶ前、ザァァ…と雨の音が、やけに大きく聞こえた。
*
その日からまた王騎様のお部屋へ呼ばれるようになった。
今までと違うのは、おしゃべりをした後に自然と体を重ねるようになったところだ。
私は王騎様を愛していた。
でも絶対言葉にはしなかったし、殿も私にそういう類の言葉を囁く事はなかった。
いつまでも王騎様の真ん中には摎様がいるから。
何度体を重ねてもそれは変わらないんだろう。
最初はそれでもいいと思っていたが、人間とは欲深いもので。
いつしか自分だけを見てほしい、愛して欲しいと思ってしまう。
しかし殿は愛を囁く代わりに、私に謝るのだ。
「…私はあなたに甘えてばかりですね…すみません」と。
「謝らないで下さい。私が望んだことですから」
――そう、これは私が望んだ事。
*
騰様が部屋へ訪ねて来た。
「…もうあの関係を辞めないか」
唐突な言葉に、お茶の用意をしている手が止まる。
「何のことですか…?」
思わず声が上ずる。あぁ、この人は全部知っているんだ。
「普通の主人と使用人に戻ればいい。…このままいってもお前が辛いだけだぞ。二人がいいならと思って見ないふりをしてきたが、最近の沙月は見ていられない」
震える肩に、そっと後ろから手を置かれる。
「そんな事は…私は大丈夫ですから」
「… 沙月、城勤めを辞めて私の両親の屋敷に来ないか。田舎だから退屈かもしれないがのどかでいい場所だ。気持ちも楽になるぞ。そしていずれ私と――」
「ごめんなさい騰様…もう少しだけ。もう少しだけ…ごめんなさい…」
「…謝って欲しいわけではない。お前から殿の香りがするのが…私は耐えられないのだ」
騰様は私をぎゅっと胸の中に閉じ込めた。
しばらくそのまま、彼の胸の中で泣き続けた。
その後騰様が殿に何か言ったのか、ぱったりとお声がかかることは無くなった。
自分から会いに行こうと思ったが、全て騰様に筒抜けかと思うと躊躇してしまう。
遠目で殿を見かけてはため息をつく日々だったが、時が経つと案外平気になってくるもので。
城内で殿にばったり会っても普通に会話できるようにはなっていった。
そうして、また時が流れ――王騎将軍が死んだ。
*
早馬でその知らせを受けた王騎城内は誰もが涙し、茫然となった。
私も腰が抜けてしばらく立つことが出来なかった。
嘘だ。殿は秦の怪鳥で、六大将軍なんだ。
あの王騎様が死ぬはずがない…
摎様だって護っていてくれているはずでしょう?
騰様だって、軍長達だって、兵士達だって、とっても強いのに。
何かの間違いであってほしい…
ふと我に返るともう辺りはすっかりと暗くなっていた。
今日は皆仕事どころではなく、各々喪に服しているようだ。
無意識に私の足は王騎様の部屋へと向かっていた。
いつも扉の前にいるはずの番の兵がいない。
――そっと部屋の扉を開けて、中へと忍びこんだ。
*
そして、今に至る。
私は今、真っ暗な部屋の中で何者かに後ろから抱きしめられている。
「誰?!離して!不審者か?」
――ぶわっ、と花のような香りがした。
(嘘…この香りは…)
「お、王騎、様…?」
戦に行っている殿がこの部屋にいる訳がない。
ということは、やはり、殿は……
ボロボロと涙が落ちる。
耳元で大好きな懐かしい声が聴こえた。
―― 沙月、今まで苦しめてしまいましたね
――私の弱さを受け止めてくれて…あなたにどれほど救われたか…ありがとうございました
――愛していますよ、沙月
「王騎様!!私も貴方の事愛していました!馬鹿野郎ーっ!!」
泣きながら叫んだ告白は、果たして殿へ届いたのか。
コココココ…という笑い声と共に、香りが消えて体がふっと軽くなった。
あぁ、殿は本当に逝ってしまわれたんだな…。
無事に摎様と会えただろうか?
(私との事、怒られないといいですね)
「…よし!!」
自分の想いを始めて吐き出して、随分と気持ちが晴れやかだ。
いつまでも悲しんでいられないと涙をふいて立ち上がる。
これから帰って来る殿や騰様、戦った皆をしっかりとここで迎えなければ。
――私は部屋の外へと歩き出した。
おわり。
58巻、ありがとう…
何かのでけぇ花みたいな匂いって何だろう。
騰様のくだりは要らない気もしたけど…騰様書かないと死んじゃう病気なので…
これでも王騎様大好きなんです