王騎軍新米使用人日記
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
4
王騎城の城下町は城と同様に大きく、活気が溢れている。沙月は慣れぬ人混みに戸惑いながらも、お使いを頼まれた店へと向かっていた。目当ての店は装飾品を扱う店だった。店主に城から参りました、と言い王騎の印の入った木札を見せると、ちょっと待ってねと奥から手のひらくらいの木箱を持ってくる。箱の中にはいぶし銀の簪が一本入っていた。殿が普段愛用している物で、手入れを頼んであったらしい。
「初めて見る顔だけど、新しい人かい?」
「はい、最近入りました沙月と申します。よろしくお願い致します」
「殿は物を大切に使って下さるんだよ。あの方は強いだけじゃなく人間もできた方だ。沙月ちゃんもいい所で働けてよかったな」
「ほんとにそうですね。殿のお役に立てるように頑張ります」
「そのうち恋人とうちの品物買いに来てよ!はいこれ。殿に宜しくね」
店主は人好きのする笑顔でそう言い、布で包んだ箱を渡された。
お礼を言って外へ出ると、雨が降りそうな匂いがする。急いで城に戻ろうとした瞬間、パラパラと雨が降り出した。
(走ればなんとか間に合うかな…あぁでも簪が濡れちゃう…)とりあえず小箱を胸元深くにしまい込んで走った。しかしどんどん雨が強くなってくるので、沙月はたまらず近くの店に飛び込んだ。
いらっしゃい!と威勢のいい声がかかる。どうやらここは酒場のようだ。昼間だが割とにぎわっている。
「すみませんが、少し雨宿りさせて下さい」
「おう入れ入れ!急に降ってきたなぁ。ほら、これで体拭きな」店主と思われる男が手拭を渡してくれる。
「ありがとうございます…何か頼みたいんですけどあいにく手持ちがなくて」
「気にするなって!お嬢ちゃんみたいな可愛い子が座ってるだけで華やかになるから」
なぁ!と客達に言うとそうだそうだー!と盛り上がった。恥ずかしくてどうしていいかわからず小さくなりながら体を拭いていると、ふと視線を感じた。
「――おいお前」
ゆっくり振り向くと、離れた所から目つきの悪い男が沙月を睨んでいるではないか。
「は、はい!すみません!」
反射的に謝ってしまう位怖い。
「だーっ!謝んじゃねえよ。お前沙月だろ?隆国の妹の」
「…え?そうですけど…あなたは…あっ、録嗚未様?」
よくよく見れば、この目つきの悪い男は王騎軍の録嗚未。あまり話したことはないが、若手の中では群をぬいて強いという話である。
「まだ雨も止まなそうだから、こっちで酒でも付き合えよ」
「仕事中ですのでお酒はちょっと…ご遠慮します…」
「そうか、じゃあ何か好きなもん頼め。奢ってやる」
随分と気前がいい人だなぁと思いつつ、録嗚未の隣へ座る。とりあえずお茶を頼むと、すみませんご馳走になります。とぺこりと頭を下げた。
「おう。一人で飲んでたから丁度良い」
「はい…」
お互いに無言で飲み続ける。沈黙に耐え切れずにちらっと隣を見ると、録嗚未がじーっとこちらを見ていた。
「録嗚未様?」
「なぁ、その様付けと…あと敬語もやめろよ、たいして年も変わんねえだろうし」
「えっでも――」
「俺がいいって言ってるんだからいいだろ!」
「一応私は使用人ですので、そこはきちんとしないといけないんですよ。それは城で働く上でのケジメですからね?……だからもしこの話し方を聞かれて春姐さんや兄様に怒られたら、ちゃんと説明してよね!」
「わかったわかった!顔は全然似てないけど、細かいところは隆国そっくりだな」
「顔はねぇ…兄様は母さんで、私は父さん似なの」
「ふーん、父さん似で良かったな」
「えっどういう意味?!兄様かっこいいじゃない」
「お前趣味悪いなぁ…」
話が弾んで、あっという間に時間が過ぎる。楽し気に酒を飲む録嗚未を横目に窓の外を見ると、少し空が明るくなり、雨も小降りになってきていた。
「…そろそろ戻らないとなぁ」
「もう行くのかよ…仕方ねえ俺も戻るか。送ってやる」
「大丈夫だって、私一人で城まで走って帰るし」
「馬鹿。俺は傘持ってきてんだよ」
ツンと沙月のおでこをつつくと、立ち上がりうーんと伸びをする。この短時間で録嗚未は案外、いやかなり沙月の事が気に入った。見た目はちょっと野暮ったい田舎娘だが、話していて頭の回転も速く切り返しも上手い。その辺り、やはり隆国と兄妹なんだなぁと思う。酒場の親父に金を払う時におい録嗚未、頑張れよ!なんて言われたが、まだ彼女とはそういう関係になるのは勿体ないような気がする。
「録嗚未、今日はありがとう!次は私が稼いだお金でご馳走するからね」
と、にこっと笑う沙月。次?次もあるのか。録嗚未は無性に嬉しくなり、でかい声で叫びたかったがぐっと堪えて
「…おー。あんま期待しないで待ってるわ」
なんてだるそうに言ってしまうのだった。
*************
「春姐さんすみません!遅くなりました」
「おかえり、雨凄かったでしょ?あんた傘持って行ってなかったから心配したんだよ…あら?」
春は沙月の後ろで傘を片手に所在なさげにしている録嗚未を見て、なるほどそういう事かと納得した。
「この子録嗚未様に送ってもらったんですね。お手間をかけましてすみませんでした」
「あ、いや、ついでだったんで」
「録嗚未様、ありがとうございました!」
春に見えないようにニヤッと笑う沙月に録嗚未もつられて笑いそうになったが、なんとか堪える。
「じゃあな、俺はこれで――」
「あら?ところで頼んでいた品は?」
「あーー!忘れてた!」
がばっと着物の胸元から包みを取り出す沙月。その瞬間ばっちりと豊かな胸の谷間が見えてしまい、春にははしたない!と怒られ、録嗚未は不覚にもときめいてしまったのだった。
王騎城の城下町は城と同様に大きく、活気が溢れている。沙月は慣れぬ人混みに戸惑いながらも、お使いを頼まれた店へと向かっていた。目当ての店は装飾品を扱う店だった。店主に城から参りました、と言い王騎の印の入った木札を見せると、ちょっと待ってねと奥から手のひらくらいの木箱を持ってくる。箱の中にはいぶし銀の簪が一本入っていた。殿が普段愛用している物で、手入れを頼んであったらしい。
「初めて見る顔だけど、新しい人かい?」
「はい、最近入りました沙月と申します。よろしくお願い致します」
「殿は物を大切に使って下さるんだよ。あの方は強いだけじゃなく人間もできた方だ。沙月ちゃんもいい所で働けてよかったな」
「ほんとにそうですね。殿のお役に立てるように頑張ります」
「そのうち恋人とうちの品物買いに来てよ!はいこれ。殿に宜しくね」
店主は人好きのする笑顔でそう言い、布で包んだ箱を渡された。
お礼を言って外へ出ると、雨が降りそうな匂いがする。急いで城に戻ろうとした瞬間、パラパラと雨が降り出した。
(走ればなんとか間に合うかな…あぁでも簪が濡れちゃう…)とりあえず小箱を胸元深くにしまい込んで走った。しかしどんどん雨が強くなってくるので、沙月はたまらず近くの店に飛び込んだ。
いらっしゃい!と威勢のいい声がかかる。どうやらここは酒場のようだ。昼間だが割とにぎわっている。
「すみませんが、少し雨宿りさせて下さい」
「おう入れ入れ!急に降ってきたなぁ。ほら、これで体拭きな」店主と思われる男が手拭を渡してくれる。
「ありがとうございます…何か頼みたいんですけどあいにく手持ちがなくて」
「気にするなって!お嬢ちゃんみたいな可愛い子が座ってるだけで華やかになるから」
なぁ!と客達に言うとそうだそうだー!と盛り上がった。恥ずかしくてどうしていいかわからず小さくなりながら体を拭いていると、ふと視線を感じた。
「――おいお前」
ゆっくり振り向くと、離れた所から目つきの悪い男が沙月を睨んでいるではないか。
「は、はい!すみません!」
反射的に謝ってしまう位怖い。
「だーっ!謝んじゃねえよ。お前沙月だろ?隆国の妹の」
「…え?そうですけど…あなたは…あっ、録嗚未様?」
よくよく見れば、この目つきの悪い男は王騎軍の録嗚未。あまり話したことはないが、若手の中では群をぬいて強いという話である。
「まだ雨も止まなそうだから、こっちで酒でも付き合えよ」
「仕事中ですのでお酒はちょっと…ご遠慮します…」
「そうか、じゃあ何か好きなもん頼め。奢ってやる」
随分と気前がいい人だなぁと思いつつ、録嗚未の隣へ座る。とりあえずお茶を頼むと、すみませんご馳走になります。とぺこりと頭を下げた。
「おう。一人で飲んでたから丁度良い」
「はい…」
お互いに無言で飲み続ける。沈黙に耐え切れずにちらっと隣を見ると、録嗚未がじーっとこちらを見ていた。
「録嗚未様?」
「なぁ、その様付けと…あと敬語もやめろよ、たいして年も変わんねえだろうし」
「えっでも――」
「俺がいいって言ってるんだからいいだろ!」
「一応私は使用人ですので、そこはきちんとしないといけないんですよ。それは城で働く上でのケジメですからね?……だからもしこの話し方を聞かれて春姐さんや兄様に怒られたら、ちゃんと説明してよね!」
「わかったわかった!顔は全然似てないけど、細かいところは隆国そっくりだな」
「顔はねぇ…兄様は母さんで、私は父さん似なの」
「ふーん、父さん似で良かったな」
「えっどういう意味?!兄様かっこいいじゃない」
「お前趣味悪いなぁ…」
話が弾んで、あっという間に時間が過ぎる。楽し気に酒を飲む録嗚未を横目に窓の外を見ると、少し空が明るくなり、雨も小降りになってきていた。
「…そろそろ戻らないとなぁ」
「もう行くのかよ…仕方ねえ俺も戻るか。送ってやる」
「大丈夫だって、私一人で城まで走って帰るし」
「馬鹿。俺は傘持ってきてんだよ」
ツンと沙月のおでこをつつくと、立ち上がりうーんと伸びをする。この短時間で録嗚未は案外、いやかなり沙月の事が気に入った。見た目はちょっと野暮ったい田舎娘だが、話していて頭の回転も速く切り返しも上手い。その辺り、やはり隆国と兄妹なんだなぁと思う。酒場の親父に金を払う時におい録嗚未、頑張れよ!なんて言われたが、まだ彼女とはそういう関係になるのは勿体ないような気がする。
「録嗚未、今日はありがとう!次は私が稼いだお金でご馳走するからね」
と、にこっと笑う沙月。次?次もあるのか。録嗚未は無性に嬉しくなり、でかい声で叫びたかったがぐっと堪えて
「…おー。あんま期待しないで待ってるわ」
なんてだるそうに言ってしまうのだった。
*************
「春姐さんすみません!遅くなりました」
「おかえり、雨凄かったでしょ?あんた傘持って行ってなかったから心配したんだよ…あら?」
春は沙月の後ろで傘を片手に所在なさげにしている録嗚未を見て、なるほどそういう事かと納得した。
「この子録嗚未様に送ってもらったんですね。お手間をかけましてすみませんでした」
「あ、いや、ついでだったんで」
「録嗚未様、ありがとうございました!」
春に見えないようにニヤッと笑う沙月に録嗚未もつられて笑いそうになったが、なんとか堪える。
「じゃあな、俺はこれで――」
「あら?ところで頼んでいた品は?」
「あーー!忘れてた!」
がばっと着物の胸元から包みを取り出す沙月。その瞬間ばっちりと豊かな胸の谷間が見えてしまい、春にははしたない!と怒られ、録嗚未は不覚にもときめいてしまったのだった。