短編
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桂花の策(騰夢)
何日か前から桂花(キンモクセイ)の小さな一枝が、私の近くに現れた。最初に気づいた時は部屋の入口に落ちていた。片手でつまめる程度の大きさなので、鳥が啄んだものが落ちているんだと思った。小さいながらも良い香りなので、それを髪に差し、そのまま過ごした。それからというもの、連日のように目に付くところに桂花が一枝だけ落ちているのだ。いや、落ちているというよりは置いてあるのかもしれない。脱いだ靴のつま先だったり、ちょっと置き忘れた手拭いの上だったり、ある時一人で洗い物をしていた時なんかは“かたん”と音がして振り向くと、扉の近くに積んだ洗濯物の山の上に桂花がひっそりと置いてあった。最初はちょっと怖かったが、こうも連日続くと楽しみになってくる。あ、今日も来てる。甘い香りを一吸いして、髪に飾った。
「――おい、お前」
ある日、鱗坊様に呼び止められた。
「なんでございましょう?」
じっと私を見つめると、ニヤリと笑った。
「何でもない。桂花が良く似合うな」
「ありがとうございます。えっと…」
鱗坊様はこの花について、何か知っているのだろうか?
「いやなに、アイツも回りくどい事するなぁと思ってなァ」
「鱗坊様、申し訳ないのですが私にはさっぱりわからないのですが」
「お前も中々に鈍感そうだ。…この城内で桂花が咲いている場所を探せばわかるんじゃないか?」じゃあな、と鱗坊様は立ち去ってしまった。
城内にそんな場所あっただろうか。とりあえず使用人達が入れる場所にはなかったと思うんだけど。聞き込みをしてみると、どうやら王騎様や軍長たちのお住まいになっている区域に植えてあるらしい。鱗坊様の口ぶりからしても、軍長達のどなたかがこの花を…?しかし一体どういうつもりでこんないたずらみたいなことをしているのだろう。
――そんな風に悩んでいると、ぱったりと花が来なくなった。
ここ数日、なんだか胸にぽっかりと穴が開いたようで、自分があの花を思ったより楽しみにしていたことに驚いた。落ち込みながら城内の掃除をしていると、ふわっと桂花の香りが香った。
「あっ…!」
顔を上げると、なんと騰様があの桂花を持って立っていた。
「すまなかったな。数日留守にしていたのだ」
そう言いながら、びっくりして固まっている私の髪に桂花の小枝を挿す。
「沙月には桂花が似合うな」
騰様がじっと私を見つめた。
「いつも花を置いてくれていたのは…騰様だったのですか?」
「あぁ、いつになったら気づくかと楽しみにしていたんだが…」
そっと私の手を取るとその甲に口づける。
「…私の方が我慢できなかったようだ」
そう言って微笑む騰様の髪にも同じように桂花が挿してあって、「お揃いだ」と真面目な顔をしていうから、笑ってしまった。
こんなにも胸がどきどきと高鳴る私は、いつの間にかしっかりと騰様の策にはまっていたようである。
おわり。
何日か前から桂花(キンモクセイ)の小さな一枝が、私の近くに現れた。最初に気づいた時は部屋の入口に落ちていた。片手でつまめる程度の大きさなので、鳥が啄んだものが落ちているんだと思った。小さいながらも良い香りなので、それを髪に差し、そのまま過ごした。それからというもの、連日のように目に付くところに桂花が一枝だけ落ちているのだ。いや、落ちているというよりは置いてあるのかもしれない。脱いだ靴のつま先だったり、ちょっと置き忘れた手拭いの上だったり、ある時一人で洗い物をしていた時なんかは“かたん”と音がして振り向くと、扉の近くに積んだ洗濯物の山の上に桂花がひっそりと置いてあった。最初はちょっと怖かったが、こうも連日続くと楽しみになってくる。あ、今日も来てる。甘い香りを一吸いして、髪に飾った。
「――おい、お前」
ある日、鱗坊様に呼び止められた。
「なんでございましょう?」
じっと私を見つめると、ニヤリと笑った。
「何でもない。桂花が良く似合うな」
「ありがとうございます。えっと…」
鱗坊様はこの花について、何か知っているのだろうか?
「いやなに、アイツも回りくどい事するなぁと思ってなァ」
「鱗坊様、申し訳ないのですが私にはさっぱりわからないのですが」
「お前も中々に鈍感そうだ。…この城内で桂花が咲いている場所を探せばわかるんじゃないか?」じゃあな、と鱗坊様は立ち去ってしまった。
城内にそんな場所あっただろうか。とりあえず使用人達が入れる場所にはなかったと思うんだけど。聞き込みをしてみると、どうやら王騎様や軍長たちのお住まいになっている区域に植えてあるらしい。鱗坊様の口ぶりからしても、軍長達のどなたかがこの花を…?しかし一体どういうつもりでこんないたずらみたいなことをしているのだろう。
――そんな風に悩んでいると、ぱったりと花が来なくなった。
ここ数日、なんだか胸にぽっかりと穴が開いたようで、自分があの花を思ったより楽しみにしていたことに驚いた。落ち込みながら城内の掃除をしていると、ふわっと桂花の香りが香った。
「あっ…!」
顔を上げると、なんと騰様があの桂花を持って立っていた。
「すまなかったな。数日留守にしていたのだ」
そう言いながら、びっくりして固まっている私の髪に桂花の小枝を挿す。
「沙月には桂花が似合うな」
騰様がじっと私を見つめた。
「いつも花を置いてくれていたのは…騰様だったのですか?」
「あぁ、いつになったら気づくかと楽しみにしていたんだが…」
そっと私の手を取るとその甲に口づける。
「…私の方が我慢できなかったようだ」
そう言って微笑む騰様の髪にも同じように桂花が挿してあって、「お揃いだ」と真面目な顔をしていうから、笑ってしまった。
こんなにも胸がどきどきと高鳴る私は、いつの間にかしっかりと騰様の策にはまっていたようである。
おわり。