明日、急遽"バレンタイン特集"の仕事に柚紀も駆り出される事となり、内容とナニをするかの打ち合わせをしてそのまま解散。(とは言っても柚紀は言実と一緒に帰るのと調整にやってきた冬島に送ってもらう事になっていたので、二人は渋々ではあったが)
そして翌日、学校終わりの女子三人は打ち合わせ通りボーダーにある食堂の調理場を借りて"簡単手作りチョコレート講座"の撮影を開始。作り方もだが軽くガールズトークを織り交ぜつつ、無事にお菓子も撮影も終えれば自作のチョコを配りに行く事に。………此処で普通なら柚紀はあの二人に渡すのだが「それは本番までお預けにしよっか！」「二回も先輩のチョコ貰えるとか、………羨ましいです」と二人に言わて今回自分が作ったチョコクッキー(ラッピング済み)は二人に渡す。そしてかなり大量に作った余りを"去年の暮れにチョコ配り出来なかった人への差し入れ"としようと決めれば、思い浮かんだ相手に連絡して久し振りにあの喫煙室が併設された休憩スペースで待つ事に。すると

「おっ！？噂の歌姫ちゃん発見！それも一人とか珍しいな〜。………もしかして諏訪さん待ち？」
『へっ？！ぁ、その、……待ち合わせ、ではありますが、諏訪さん、ではないです。あ、あの…………以前、お会いしましたか？』
「え〜〜！！？俺達の事、覚えてないの〜？！！これでも同期でランク戦だってした事あるよ？？？じゃあ、今からナカヨクなる為に(クイッ)お茶でもしない？どうせ待ち合わせの相手、緑川辺りでしょ？彼奴なら一緒でも俺達は構わないしさ〜」
『(ゾクッ！？)ぃ、イヤッ！？貴方達と話す事なんて無いし、私は待っている人が居ます！？だから、……離してっ！！？』

Ｃ級の二人組に絡まれるが、柚紀は相手の事を覚えておらずやり過ごそうとする。……無視しないのは彼女の律儀な性格なので仕方ないが、ランク戦ロビーでの柚紀しか見てない二人には"誰と交流あるか"を正確には把握しておらず、年下の緑川ならどうにかなると思ったらしく無理矢理連れて行こうと手首を掴む。勿論名も知らない見ず知らぬ異性に掴まれて悪寒が走った柚紀はハッキリと拒絶反応を示す。それに相手が怯んだ隙に……


-　ズカズカズカ、ズカズカ、パシィーン！！……クイッ　-
「ふ〜ん、俺程度ならどうにでもなるって思ったの？悪いけど、先輩二人を同時に相手したとしても俺、絶対に負けないよ？後さ、柚紀ちゃんは言ったよね？"とある人を待っている"って。……ねぇ"ユズル"、先輩達は何で居ないのさ？」
「……何か知り合いから着信があったらしくて返信してる。だから俺が先に先輩を迎えに行く途中で緑川に遭遇した、そんな感じ。で、………鶴ヶ峰先輩はコレからウチの作戦室に来る事になってますのでお引取り願いませんか？用があるなら事前にアポを取ってからにして下さい。先輩がボーダー内にてどんな存在が、知らない訳無いですよね？歌姫呼びしたって事は」
『………絵馬、くんに、……緑川、くん？(……ストン)』

年下ながら頼りになる二人に庇われた柚紀は気が抜けたらしくその場に座り込んでしまう。それを見て慌てる緑川と、柚紀を守る為に立ったまま二人と対峙続ける絵馬。……相手がＣ級ならスナイパーではあるがＡである自分の方が牽制役には向いているし何より………………


「あっ！！？居た居たって、…どうしたのっ柚紀ちゃんっ！？そんな所に座り込んでさっ！！！？駄目だよ、折角可愛らしい衣装着てるのに汚れちゃうし意外と床冷たいから冷えちゃうよ体がっ！？実際に顔真っ青になってるしさっ！！！」
「……………………ソイツが青褪めてる理由は冷えが原因じゃねぇよ馬鹿ゾエ。で、……コイツが気分優れねぇ理由はソイツ等か？ユズル」
「うん。わざわざ任務帰りの俺達を此処で待っていた先輩を連れて行こうとしてた。……多分断りもなく無理矢理で、更に手首を掴んでた。………スナイパー界でも噂になってるよ？"歌姫の渾名を持つ女子隊員とお近づきになりたいなら先ずはＢになるのが最低条件"だってさ。……同期で黒服の外岡先輩だって次の合同訓練で昇格はほぼ確定してるし、ソッチなら…………野々村先輩を始めとしたSECOMがアンタ達みたいのを先輩に寄せ付けない、近づけない様にしてそうだし」
「ま、してるね実際に。でも全ての隊員に対して問答無用で追っ払ったりはしてないよ？SECOM同伴な事が条件だけど、質問やお悩み相談を受ければちゃんと答えてるもん！ってか、………【ロビー外でトリオン体のまま】って珍しいけど、何かあったの？？？」

そう、広報の仕事をする際は原則トリオン体を用いる柚紀は服装をバレンタインをイメージした色合いや可愛らしいモノに設定されており、そのまま行動をしていたのだった。……新たに新調したトリオン体に慣れる意味合いも兼ねて。そのせいでこの二人組にナンパされてしまう羽目に。因みに綾辻達が作戦室に柚紀を招かなかった理由が【チョコもだが、今の衣装を二人に見せるのをお預けしたかったから】でもあったと追記
さて、話を戻せば明らかに自分より年上で強そうな影浦が登場した事に一目瞭然に逃げて行く二人組。その行き先がランク戦ロビーだと分かった緑川が「俺は今の事をよねやん先輩やカノ先輩に報告してくるので、柚紀ちゃんをお願いします」と後の事を三人に託してその場を離れる。そして元凶が去っても顔色が優れない柚紀を一瞥した影浦が「ソイツの運搬任せた。……俺は触られないからな」と先に歩き出せばスカートの長さを考慮してお姫様抱っこをした北添が慌てて後を追い、絵馬が置き去りになっていた手荷物を持って追随。……目的地は自分達の作戦室である