『………………何で回避も防御もしようとしなかったんですか？此処がトレーニングルームだから負傷しても平気だと、そうお考えですか？…言実さん』
『まぁそれもあるが、まさか不意打ち旋空が飛んでくるとは私も思っておらず油断したのも要因だ。さっきフブキが言った通り、一度戦闘不能になれば"何もかもリセットされる"筈故にな』
『…………シロ。こうなった要因って、やっぱり陽菜さん？』
❲らしいけどごめん。タイミング良く国近先輩を筆頭にオペレーターの方達がチーム結成祝いを持参して今作戦室にいらしたのと入れ違えで、…逃しました。これに関しては被害者になりかけた言実さんにどうにかしてもらうから、……助けて〜。これだけの先輩達の相手を私一人でするとか、無理だよぉ〜〜❳

淡々と語る柚紀に指名された者以外口を閉ざす中、シロの要請で柚紀はトレーニングルームを出ようとするが他のメンバーはどうするかを問う前に『木虎がバイパーについて聞きたい事があるらしくてな、実際に見せながら解説するから私達の事は気にするな』と言実に言われてそのまま一人先にトレーニングルームを出る。……そんな柚紀が消えた瞬間

(全)「…………はぁ〜〜」
『……何だフブキも揃いも揃ってため息とは珍しいな。ま、それよりバイパーについて少し語るとしようか。丁度トリガーセットしている出水もおるしな、必要なら実際に見せるのも有りだ((ため息の理由は内部通話にて話せ。私みたいに二重会話は無理だろうから誰かの会話に被せる形で構わぬ。…太刀川から時計回りで話していけ))』
「わ、わざわざ有難う御座います。えっと、…バイパーの扱いが難しいと誰もが話しますし、私もそれには同意なんですが………何故扱える方達はあれだけ正確に相手の動きを読めるのでしょうか？」
((あ〜、俺は単純につる姐に旋空が当たらなかった事に対する安堵のってのが一番の理由ですが……"あの異様な雰囲気と姿になった柚紀が消えて安堵した"ってのもありますね。にしても、……マジ切れすると本当に変わるんですねアイツ。アレ、本人は知っているんですか？ってか、出水からは髪色が変わるって聞いてましたが今回は……目の色が変わった理由は？？))

と、万が一にもトレーニングルームの様子を後から見られても疑われない様に工夫をしつつ"今回の一番の目的に関する説明を言実はする事に"。それは【本気で怒った際に起きる柚紀の変化に関する事】である。因みに他のメンバーのため息も太刀川と同じらしく、意見が出揃うのもバイパーの説明をどうするかを考える"フリをする間"で済んだので早々に答え合わせをする

『バイパーを当てるコツは主に３つある。一つは"相手の動きを読んで着弾地点に相手が来る様にする"だ。主に置き弾やハウンドで回避した先に……と言った一工夫が必要になる。因みに一番簡単な手法がこれになる、のか？((……私も長年あの子を見てきたが、本気で怒りを露わにする姿は片手に数えれる程しかない。そしてそうなれば"髪色若しくは瞳の色が緑とは異なる色彩に変化する"。そうなった際の被害が甚大なものになる故に、あまり怒らせない様に周囲はしておったし"両親二人して性格が穏やかな人だった故に、あの子も必然的にあまり怒らない子"に育ったのも事実だ。その分"諦めの良い、自分が折れて相手を立てる……我儘を言わない子"になってしまったがな。因みに瞳の色が変わった理由は"一気に沸点に到達したから"と推測される))』
「ですね。次に"相手の心理状況や性格等を考慮して弾道を描く"だ。主に姐さんや那須……柚紀ちゃんが使う手法がコレだな。一例を上げれば……さっきの実力テストの最中、木虎は【俺の弾に当たらない為に複雑な動きをしていたつもりが、実はアレは"追われる立場の者は逃げたいモノから姿を見られない様にしたい"と思う心理的な理由から来た行動だったりもする】。別に悪い事じゃねぇが、冷静さを失えば動きが単調になって意外と動きが読まれやすい。……何となく理解出来たか？」
((……性格に関しては兎も角としまして、何故あの様な劇的な変化が起きるのですか？そもそも柚紀さんが怒ったら被害が甚大になる理由も、おれは気になります))
「！？……だから柚紀先輩は【そこま真っ直ぐや屋根上に避難】と時折指示出しをした訳でしたか。もし、言われなかった通りに動かなければ被弾していた可能性は、確かにありましたので」
((後、何でさっきの不意打ち旋空には反応したのに、"こんにちは旋空"には無反応だったんですか？あ、……怒っていたのは雰囲気で佐鳥も感じはしたけど変化は無かった。おつるちゃん、コレの違いはナニ？？))

バイパー講座の裏側で語られる柚紀に関する事の途中にも関わらず、フブキは退席していく。理由は【バイパーの対策は柚紀との手合わせで身に付ける点と、結局は理不尽な思いをさせなければ良い】と自己完結した結果である。特に止める気もない言実は三つ目にしてかなり例外なバイパー運用法を告げる

『三つ目は"リアルタイム、つまりは敵の動きに応じて軌道を変える"だ。……先程太刀川との１対１にて柚紀が用いたモノで、出水もある程度可能だがアレだけの個数を事細かにとなればあの子だから出来る離れ業だ。因みに…(ツイー)指を動かすのは精度を上げる為であり別に無くても可能故に、"指の動きを気にしていたら逆に返り討ちに合う"と思っていろ。どちらにしろ【地形認識力や相手の性格や実力等を正確に把握してこそ真価が発揮される】些か難しいトリガーだ。レイは主にオペレーターの支援にてあれだけの精度の弾を扱えるが、…柚紀の場合はなしであの精度であり、これにシロの支援が入れば………早々に負ける事はないだろう。((……あれは"柚紀に眠るもう一つの人格が表に出る前触れのサイン"だ。ヒトは"辛い現実から自らの精神を守る為にもう一人の自分を作り出す防衛本能を備えている"。だが、自らの事ならどれだけ苦痛を味わってもアレは出てこない。鍵は【自分も理不尽と感じる事を他人から強要され、それにより誰かが被害を受ける事】だ。………先程のヒナがやった事がまさにそれだな。入室直後のアレは太刀川も合意の上での不意打ちだったが、先程のは本人ですら把握していなかった不測の事態。故にあの子は怒りを露わにした。……瞬間移動をして素手で旋空を握り潰す程にな。そして、………理由は定かではないが迅の未来視にて【あの状態の柚紀が近い内に降臨して、隊員と敵対する姿を視た】との事だ。だから……お前達三人にあの姿を見せる必要があった。恐らく原因も、そして元に戻す為の鍵もお前達嵐山隊だろうと私は推測している。…………私も出来なくはないが、もう……枷にはなりたくないのだよ。あの子の行動や感情を縛る、な))』