まだインフラ関連が完全に復旧せず、柚紀の隔離が解除され嵐山が一時帰宅した日の事

-　テクテク、テクテク　-
『ぃ、いきなり作戦室に行っても大丈夫、かな？でも嵐山さんの隔離が解ければ私だって自由になるって分かりそうだし、まだ皆も基地で寝泊まりしてるみたいだし……少なくとも綾辻先輩はお部屋に居るだろうから平気、かな？』

言実は仕事をしており、フブキを始めとした隊員達は瓦礫の撤去や炊き出しの手伝いと言った救援活動に参加し、太刀川隊を始めとした遠征チームは休息を取りつつ課題に取り組んでおり、一部の隊員はその監視や手助けをしていた。(主に諏訪と荒船)……そんな中、暇を持て余していた柚紀は隊長が不在なので業務活動をしていないであろう嵐山隊メンバーに会いに移動していた。互いに一日の行動予定を教えあって居るので平気だと考えた上で足を進めていると……佐鳥の元気な声が聞こえて足早にそちらに向かう柚紀。その先に待っていた光景は……

「柿崎（ザキ）さん！柿崎さん！聞いてくださいよ〜！佐鳥達念願のＡ級になれましたよ〜！！まだエンブレムデザインは決まってませんが、決まり次第お披露目しますね！！！」
「おぅ！楽しみにしてるぞ賢！！……充も頑張ったな、偉いぞ！(ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ)」
「………ですが、おれは自力で条件をクリアした訳じゃないのですが、良いんでしょうかコレで？」
「上が何も言ってこないなら大丈夫だって！それに、………お前のサポートなしで今の嵐山隊は成り立たないだろうし、これからだって必要だ。(ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ、ポン！)広報の仕事含めてこれからも期待してるぞ。勿論賢もな！！」
「「ハイ、柿崎さん」」

オレンジ色の隊服を来た世話好きで優しそうなお兄さん……恐らく嵐山と同学年の隊員と二人が仲良く話をしていた。相手は二人を嵐山みたいに下の名前で呼んでおり、佐鳥もだが…あの時枝すら懐いているのが傍目からでも分かるし、……年相応の表情や年上に甘える姿を見た柚紀は、複雑な感情を抱いていた。そんな中、隊員・柿崎国治と目が合った瞬間……柚紀は逃げるかのようにその場を後にする

「(今のは……)そう言えば二人と噂の歌姫は同級生だって嵐山や迅から聞いたんだが、……良ければ紹介してくれないか？文香が会って話をしてみたいらしくてな」
「あ〜、照井ちゃんも佐鳥達と同学年ですし、数少ない女子仲間的な感じで気になりますよね〜普通は。………大丈夫だよね、とっきー」
「………まぁ、照井さんや巴の性格や人柄的には会わせても問題なさそうですが、……一応本人若しくは言実さんの許可が必要ですね。彼女は嵐山さんと一緒で、例のトリオン汚染被害に遭ってて昨日まで隔離処置されてましたので」
「そうか。……今二人は一時帰宅しててそろそろ戻ってくると思う。大丈夫そうなら連絡してくれ」
「「了解しました」」

それから他愛の無い話を少しして二人と別れた柿崎はおもむろにポケットから携帯を取り出し、……少し悩んだ素振りをした後に誰かに電話を掛け始める。彼じゃなくても良いのだが、聞きたいことを聞きやすい方と考えた結果

❲(p!)はい、こちらは実力派エリートの携帯です。にしても柿崎さんが俺に電話なんて珍しいね〜。例のテロ騒動時に頼み事した時は俺からしたし。…で、用件は？❳
「なぁ迅、言実さんの姪で歌姫って渾名を持つ子の"生身の見た目"の確認なんだが……太刀川さんみたいな髪色で瞳は若葉みたいな白と黄緑を混ぜた色合いで間違えないか？」
❲ん？柚紀ちゃんの事だよな？確かにそれで間違えないけどどうかした…………いや、何となく事情は分かった。とりあえず柿崎さん、【何時何処で誰と一緒だった時に彼女を見かけて、その後どうなったか】話して。で、可能なら手を貸してくれないか？このままじゃ……言実さんの雷が落ちる、俺に❳

柚紀と関わりのある同級生の内の一人である迅に電話を掛けて言われた通り【少し前に作戦室エリアで佐鳥と時枝に遭遇して世間話をしていたら、二人の背後の通路から柚紀が現れて自分と目があった瞬間……泣きそうな表情をして去って行った】と説明。それを聞いた迅は❲普通に話してただけ？褒めたり楽しく笑い合いながら話したり、……頭を撫でたりしなかった？❳とかなり追求されるが"確かにそうかも"と柿崎が返せば、迅が電話越しに唸り声を上げる

❲えっとな、…………それ柿崎さんが悪い訳じゃない。柚紀ちゃんは少し対人…特に異性に関する問題と言うかトラウマ持ちなんだが、お前が怖いとかじゃなくてだな……ただタイミングが悪かったとしか言えないな。二人のうちどっちかが柚紀ちゃんの存在に気づくとか、木虎や嵐山が居れば色々解決したんだが…………この未来になった以上仕方ないか。とりあえず柿崎さんはさ、……柚紀ちゃんと話したい？仲良くしたい？チームメイトとか抜きで、自分自身どうしたい？❳
「どうって言われても……………気にはなるかな？賢もだがあの充があれだけ気にする子だ、いや……気にすると言うより大切…特別な存在だよな？…少し前に歌姫との仲に関するちょっとした噂が広まっていて真相を訊ねたら、断言は二人ともしなかったがあの表情や反応を見れば、な。歌姫が悪い子じゃないのは俺にでも分かる、だが嵐山隊は広報の仕事がある。スキャンダル要素にならないかが少し、……気になる理由の一つだ」
❲(クスッ)柿崎さんらしい理由だね。……いいよ、協力してあげる。但し幾つかの条件を守って欲しい。破れば三人の仲がギクシャクするかも知れない、それは俺も避けたいんだ。でなきゃマジで言実さんがボーダーから居なくなる可能性がある、雷よりコッチの方が、………俺は嫌だ❳

隊を抜けても別に嵐山と仲が悪くなったりはしていない。だが明らかに昔より距離が開き、その嵐山を支え・支えられている迅。故に迅とも微妙な溝があると感じていた柿崎。そんな自分より実力もあり責任のある役目を担う彼から頼りにされたり、…本音（弱音）が聞けるのが嬉しく感じる柿崎は話の続きを促す。……………因みに、言実とは互いに見知った相手ではあるがさほど交流はなく、有能なその人が抜けたらマズい事や実力も知ってはいるが…佐鳥達と言実のどちらが大切かと聞かれたら前者と答える。それが柿崎国治と言う男である