二人が言った"黒い花嫁"姿となり柚紀は意識を集中させる為に瞳を閉じて歌い出す。その歌は

-　世界を跨ぐ壮大な物語を描き、自らの心情を映し出した言ノ葉の羅列　-

〜　溢れる想いは静かに微笑みみたたえる
追いかけた願いは風の中に…　〜

「……瑠花が言っていた歌のお姉さんって結局なんだろうって思ってたけど、歌がその黒トリガーのチカラを引き出す鍵だった感じなのかな？って、言っても答えてくれないか」
『……………この子は無理だな、かなり集中しておる故にお前の言葉も聞こえていないだろう。が、私で良ければ答えよう。この子の事は大体答えれる。それで菊地原が言った内容だが、全く間違えではないが当たりでもない。……この黒トリガーの能力は【増幅と制御】、つまりは歌はサイドエフェクトのチカラを最大限に発揮する為にこの子が好んで使用するツールでしかない。…ここまでは理解できたか？』

独り言の…返答を期待していなかった菊地原の言葉に言実が反応を示す。会議室ではかなり辛辣な対応をしていた彼女にしては饒舌っぷりに思わず「……話して良いんですか？そんな大切な事を」と東が訊ねるが『知った所でこの子が此処に残りたいと願わぬから問題ない。が、……この子は大人の異性が苦手でな、あの場に居たら押し流された可能性があった故にあの様な対処をした』とあっさり自白。……東も冬島も大人だが、柚紀が苦手なのは城戸みたいな人物なのでそこまで警戒していなかったのだ

〜　僕の呼ぶ声　いつもと同じ　変わらない笑顔で彩る君を

子供みたいに　感じるままに
抱きしめられたら未来が見えるかな…？　〜

「なら訊ねたい。……出水と米屋に起きた現象は一体何だったのですか？あれ等はトリオン体であり痛みや負傷も居なかった風に俺は見えた、だが身動きを封じれたこのカラクリは？それと、……ドアを破壊したアレも貴女特性のトリガーだったと？」
『あれか？そうだな。二つとも私の開発したトリガーだ。因みに動きを封じた原理は………柔拳と言う言葉を知っているか？それの応用と言えば一番シックリくるだろう。確か何かの漫画でそれを使用するキャラがおった筈だ』
「柔拳で、漫画のキャラ…………あ〜、なるほどな！つまりは"何かでトリオン伝達器官を一時的に遮断した"訳だな！後……もしかして風間さん、この白衣の姉ちゃんがトリオン体って気づいてなかったんですか？普通にレーダーに反応してましたよ？」
「……何時もオペレーター頼りだった弊害だな。こんな簡単な見分け方すら気づかなかったなんて」

〜　優しくて冷たい針を何度も
突き立てた心は　誰より綺麗に飛べるはず

輝く言葉は刹那の甘い流れ星　口唇から紡ぐ音儚すぎて
まばゆい光　目覚める影に　揺らぐ涙隠し
確かな意志（もの）伝える君だけに　〜

やはり何処か子どもには甘いらしい(風間は見た目がそれなので)言実は淡々ではあるが会議室程気難しい雰囲気を出しておらず、質問に答えていく。そして"反応"の言葉に瑠花がある事が気になり控え目に訊ねる

〜　温かい手に　安らぎ求め　愛する意味さえ見失ってた

問いかけてみる　今、僕の背に
あの日のぬくもり消えずにあるの…？　〜

『あ、あのっ！………わ、私と柚紀ちゃんが会えたのも無事に帰ったのも、く、くろ…黒トリガーによるもの、なんですよね？それ、……何で検知されなかったんですか？あの時もボーダー、ありました。でも…………歌が終わった後その、……離れがたくて暫くその場に私居ましたが…………誰も来ませんでした。多分、今回みたいに普通なら誰かを派遣します、よね？』
『…………理由か？主に二つだ。一つ目、翠の状態でも多少は能力の増幅が見込める点だ。ただ、通常時の翠は制御に重きを置いている故に不完全だったり後にリバウンドが来るがな。２つ目は歌った場所だ。確か公園内の少し木々の生い茂った場にて能力を使っただろ？木々の生体エネルギー……トリオンを借り、また発生した波長…トリオンを木々が吸収したからコチラのレーダーには引っ掛からなかった。これが今までの経験則から言える結論だ。………納得したか？』
『…………(コクン)じゃあ、やっぱり…そう簡単には会えないんですね。……ボーダーに入って、色んな人と知り合いになりましたが………やっぱり、同級生の…同性の友達、居なくて。欲しくないと言えば、…………嘘になるかな？でも、……そう簡単には、いかなくて』
『……………一つ、教えてやろう。……分からなかったかも知れないが柚紀は対人関係のトラウマ持ちだ。主に男関係の原因によるものだが、……同性に対しても多少は警戒をしたりする。が、……お前達には普通に接していた筈だ。同じ顔をしていても中身は違う、ましてや蒼井とは数回短時間の邂逅だったにも関わらずだ。………何故だと思う？』

〜　柔らかくねじられた嘘で何度も
傷つけた心は　誰より果てない夢描く　〜

まさかの真実に全員が目を見開く。……トラウマと言う訳ではないが、瑠花もかなりの人見知りで初対面時はそれ相応の反応をされたが、柚紀は全くそんな素振りも"オト"もさせてはいなかったのだ。…歌も中盤に入りトリオン粒子が周囲を立ち込めてきたのを見て言実は簡潔に、でも真実のみを語る

〜　見上げた夜空はいつしか近くありすぎて　闇が作るため息広がってく
君と選んだ世界の向こう不安が重なっても
信じること　もう一度決めたから　〜

『ヒトは簡単に嘘をつくし、裏切る事もあり、それにより柚紀は色々苦労をしたせいでトラウマを持ってしまった。だが、全ての人がそうでないのもまた知っている。……例え自分が見知っているお前達でなくても根本的なモノはそう簡単に変わらない。だから柚紀はお前達を警戒こそしたが疑ったりはしなかった。……蒼井に関してはあの時ナニがあったかを訊ねたら【もう一人の自分に会った】と柚紀は言っていた。…………自分を疑うモノは果たして居るだろうか？それと、……この子が"また会える"と言ったのなら時間は掛かるやも知れぬが再び会えるさ。この子は【確信のない事を口にしたり約束はせん】…………そう言う子だからな』

-　パアァーー………シーン　-

二番のサビが歌い切るのと同時に二人は光の珠となり跡形もなく消えてしまう。そして静寂な空気の中、やはり寂しくて泣いてしまう瑠花をセコム二人と恋人が慰める。それを見守っている東は(世界は広いな、まだまだ知らない事柄が沢山ある)と思考に老けていたのだった