里関連の話となり、柚紀の表情に翳りが生じている気がした佐鳥が【柚紀の父親とフブキの父親の関係性】について訊ねる。すると【二人は扱う武術も同じで切磋琢磨した間柄であり、父親が忍田達に剣を教えるキッカケを作ったのが静樹氏。更に祭事の際の護衛役に就く者は全員この流派を扱うモノであり"もし極めた暁には、自分の娘を頼む"と言われた事がある】と話した上で更に追加情報を口にする

「俺はまだ餓鬼だったあの頃は本格的に剣術の腕を磨いてなかったが………もしかしたら"俺やシロの兄貴"は幼い頃のユズに会ってるかも知れないな。コッチのモノクロの写真、……あのお婆ちゃん先生の家で撮った奴だろ？あそこの爺さんってレトロちっくなモノが好きで、家電は"ひと昔前のを好んで使ってた"から、カメラも多分そうじゃないか？因みにシロの家は従業員含めて【宮大工やお囃子…楽士】も一次侵略時まで兼任していたから、もしかしたら…だけどな。ってか………このちっこいのユズなのは分かるが、……髪色違わね？モノクロで分かりづらいが"明らかに髪色明るいよな"？で、こっちのムスーってしたのがつる姐だろ？眼鏡なしも見慣れてるし面影あるから分かりやすいな〜」
『あれ？大学構内で話さなかった？私は幼い頃は鮮やかな髪色をしてたって！えっと……(ゴソゴソ……スッ)はい証拠！…シロに頼んで【モノクロ写真に色を付けてもらった】のがコレ！！ね？トリオン体の時と同じ色でしょ？！あ〜…………言実さんは高校生位で今と同じ身長や体型になってたから分かりやすいよね〜。私は確か十歳になる前まではかなり小柄だったから、見た目じゃ分かりづらいんだよね〜年齢が』
「……成長期は人それぞれだから気にしないとして、…何で静樹氏はプライベート時に眼鏡をしてないの？わざわざコンタクトに付け替えている、とかじゃないよね？柚紀さんのさっきの口振りじゃ、かなり重要な事みたいだけど……」
「ま、【能力発動を未然に防ぐ方法の一つ】だな。……その性質から"相手が条件を破ったか否かを判断する必要がある"。それの判断材料の一つが相手の言動を細やかに観察する事であり、見る能力が問われる。人は"相手を思うがばかりに嘘を付く事もある"、それはきっと静樹さんも知っていた。だから【あからさまなモノ以外は見て見ぬ振りをする為に、普段は視力が良いにも関わらず眼鏡を付けていた】。プライベート時は柚紀ちゃんの異変を見逃さない為や、手強いご老人達を相手取る必要があるから外していた。……こんな感じだね」

シロの家に関する内容の信憑性は兎も角、更に手帳からモノクロ写真と同じポーズをしたカラー写真が机に置かれて髪色に関するフブキの疑問は解除された。が、今度は時枝が眼鏡有無に関する疑問を口にすれば迅を中心に【静樹氏が複数の条件下によって発動するサイドエフェクト持ちだった事や、その制御に神経を注いでいたからトリオン計測では平均以下だった可能性、更にその静樹氏が造った黒トリガーを扱える柚紀はその能力も受け継いでいる】のを説明。すると佐鳥がそれ等を聞いて待ったを掛ける

「ま、待ってよ迅さんっ！！？つまりだよ？柚紀は二つのサイドエフェクト持ちになるって事っ？！それって大丈夫なの？？歌姫の制御すらやっと出来る様になったんだよ？なのによく分からないけど複雑な能力を更に追加とか………色々ヤバくない？」
『佐鳥くんが危惧するのは分かるけど多分大丈夫だよ？……お父さんは将来こうなるって分かった上で私に【約束は必ず守るもの】とか【嘘をついたら駄目】って幼い頃から言い聞かせた。それに条件が複雑だから"何か一つでも満たさなければ発動しない"。それさえ気をつければ大丈夫だよ！』
「あ、……多分ユズが気をつけてる事分かったかも。例えば、お前に対して些細な事でも何でも良いから俺含めた皆から忠告…ってかダメ出しされたりする。例えば【飯を食ってる最中に話をするな】とか！で、改善出来そうなら"分かった"って答えるが、少しでも無理と感じたら"善処しますや努力します"って前向きながら少し曖昧な返答をする。これなら互いに同意した事にならないから能力は発動しない。………違うか？」
「！！……なる程、確かにそれなら柚紀先輩はよく多用してますから無闇に能力は発動しなさそうですね。そもそも今となっては【静樹氏が本当にそんな能力を持っていたかを確かめる術はない】………例えお姉様が肯定しても、それすら兄妹で交わした約束の可能性だってありますよね？柚紀先輩の価値を箔付けする為に」

能力の詳細が曖昧すぎて色んな意見が飛び交うのを聞いて、誰もが肯定も否定も出来ない状況となる。柚紀も正直分かっていないので言及は避けている様に見えた嵐山と時枝は"フブキの言った事は当たりかな？"と察し、話を【黒トリガーと柚紀本人が最初から扱えるサイドエフェクトはどれだけ制御や操作が上手くなったか】に上手く誘導すれば誰もがそちらも気になるので反論しない中、木虎がずっと気になっていた事を口にする

「あの、柚紀先輩ってあの黒トリガーを"モノと言うよりヒト扱い"してませんか？あの子呼びしたり、名を呼べは来るとか…………気のせい、ですか？」
『ん？………まぁ藍ちゃんの言ってる事は間違えじゃないかな？"使用者を選ぶ"性質から黒トリガーには意志が宿っているのは確かだろうし、その……………実は嵐山さんが吐血してトリオンを暴走させて言実さんに鎮めて貰って気を失った際に…アレの本体と言うか核？思念体？？と対話したんだ。最初は大人の男性の声がしたからお父さんかと間違えたんだけど……形取られた姿が"黒髪に翠の瞳をした五歳位の子ども"だったの。まぁ、お父さんがあの子、……Divaを造ってからの年月を考えたら妥当な姿…
-　パアァーーー！………フワ、フワフワ……(…スッ)ポトン！　-
……そのつもりは無かったけど、名前を呼んだからきちゃったや。……開発部、騒然としてなきゃいいけど』
(全)「……………」

木虎の疑問に答えている最中、うっかり柚紀が名を口にしてしまい空中でトリオン特有の緑白い光が現れたと思いきや……あの翠の石が黒トリガー状態で現れたのだ。浮かんでいたそれを両手で受け止め、思わず黄昏れる柚紀を見て、迅ですら暫く何も言えなかったのだった