61.密談の曲
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一階奥、お手洗いに近い席に案内された佐鳥と柚紀。席はコの字状のソファー席で通路と席の間には暖簾の様な仕切りがあり、一応プライバシーが確保されている状態である。先ずは開けない目を何とかしようと、女性店員が温かいおしぼりを目元に当てて、傷付けないように優しく睫に付いたジュース成分を拭う作業をしているのを見て、もう片方を佐鳥が見様見真似で手伝っていた。すると何とか目が開くようになった柚紀に拭くタイプの化粧落としを差し出し、女性店員は「今温かいものを持ってきますが、何かあればボタンで呼んで下さい」と告げて席を後にしたのだった
温かいおしぼりで気持ち程度髪のベタつきを取り、髪に付いていた水分を拭った大きめなタオルを肩に掛けたまま、意外と慣れた手つきで薄くしていた化粧を無言で落とす柚紀を黙って見ている佐鳥。……聞きたいことは沢山あるが、何から聞けばいいか分からずただジッと様子を窺っていて、気になることを見つけた。それは
「あれ?……柚紀ちゃん、目が赤くない?飲み物が目に入ったのかな?大丈夫?痛くない??」
『えっ?ぁ、……だ、大丈夫、だよ。……少し違和感あるけど、…蒸しタオル当てて貰ったから、…大分楽になったし………………ねぇ、佐鳥くん、…何で……聞かないの?あんな状態に、なっていたか……とか?』
「!?……そ、そりゃあ……知りたい、よ?でもさ………諏訪さんの件みたいに、また聞かれたら嫌な事、…なのかもって思って……さ(それで"また"君を泣かせるのは、オレは嫌だから。だってよく考えたら目が赤い理由だってもしかしたら……)」
柚紀はずぶ濡れな状態だったので"痕"があっても分からない状態だが、……今までの経験から"柚紀は我満の限界近くになると泣く"イメージが佐鳥には定着してしまい、今日だけで色々あったであろうと思い何時ものように聞きたいことが聞けない始末なのだ。そんな歯切れの悪い佐鳥を見ながら、"何故諏訪と出会ったきっかけを聞かれたくなかった"のかを考えた柚紀は、ある可能性に辿り着いた
『えっと、…自分の事なのに多分は、変かも知れないけど………"聞く"と"見る"ってさ違うでしょ?…噂の人物にあったが検討違いとか、……聞いていた時より実際に目撃した時の衝撃が強かった、とか。…………佐鳥くん含めた嵐山隊の皆さんは、多分見たことないから…だからだと思う』
「見たことがない?それって一体なに…「(パサッ)…恐らく鶴ヶ峰さんが実際に"見知らぬ異性に絡まれている姿を"…じゃないかな?」あ、とっきー!遅かったね、……諏訪さんは?」
何となくだがそう感じた柚紀が口にした言葉が理解できずに更に追求しようとした所に、トレイを片手に持った状態の時枝が仕切りを潜って二人に合流した。佐鳥に諏訪の所在を話ながらナニかが入ったお椀らしいのを柚紀の前に置き、残りを佐鳥の前とその隣に置けば自分がそこに座る。漂う湯気に誘われて無意識に柚紀は口を付けて一口飲むと、"ホッと"安心した表情になる
『美味しい。…シジミのお味噌汁、……言実さんが好きだからお酒の次の日とかに、よく作ってくれてたな~。……あ!ご、ごめんなさい?!勝手に飲んじゃって!!そ、それに話の途中…なのに(シュン)』
「だ、大丈夫だよ柚紀ちゃん!身体が冷えている時に温かいもの出されたら、普通手が出ちゃうものだから!!それに丁度とっきーに聞きたいことがあるし、…ゆっくり飲んでいて良いよ?」
『で、でも……』
「…おれ達もコレ頂きながら話すし大丈夫だよ。ただ、おれも検討違いな事を言うかも知れないから此方にも時折意識を向けてくれたら助かるかな?」
『……分かった、…(パン)頂きます』
色んな意味で"行儀が悪い"と感じた柚紀が落ち込んでしまったのを見て、佐鳥がフォローするが府に落ちないのを見て更に時枝が口添えをし、やっと納得した柚紀は改めて食事の挨拶をすればゆっくり味噌汁を飲み始めた。それを見て、互いに一口口に付けてから佐鳥が訊ねる
「ねぇとっきー、さっきの言葉の意味だけど……どういう事?」
「そのままの意味だよ、……おれ達はランク戦ロビーやラウンジとか"第三者"が居る場所で鶴ヶ峰さんと殆んど会ったりしていない。いや、あの一件以降は無いに等しい。……つまりは"エンブレム付きの服の効果"を直接見る機会がない状況だ。だから佐鳥はピンと来てなかった、……あれが鶴ヶ峰さんを守るモノとは知っていたのにどんな感じに役立つのかが」
「……成る程成る程。…でも佐鳥達は柚紀ちゃんが男性が苦手なのを知っているし、今日広場でそんな事………起こる筈がないか。諏訪さんや太刀川さん、当真さんに……荒船先輩辺りもかな?後、おつるちゃんも居る状態で彼女に話し掛ける猛者は、先ず現れない………筈だったけど、間接的に危害を加えた奴なら居たね(つまり、精神的な攻撃を仕掛けてくる可能性もある訳だよな?一番怖いのはネット関連もだけど……ボーダー内で"新たな噂"が柚紀ちゃん関連で流れないとも限らない)」
「更に付け加えれば"おれ達も"かな?……あんな強大で恐ろしいトリオン兵と戦う"ボーダー隊員の知り合い"に手を出す一般人は…早々にいない。とは今後も思わない方が良さそうだね、今回の相手は言実さんが制裁を下したから問題ないけど…(こうなるとボーダー内でも、言実さんの目を掻い潜って鶴ヶ峰さんに手を出す輩が現れない保証はないか。…一段と気にする必要がありそうだな)」
シジミも器用に食べながら話す時枝を見て、佐鳥は少しばかり羨ましく感じていた。……"一般人目線"での考えは自分にはイマイチ分からない時もある。だが、柚紀は一般常識的な考えを基本にして言動を行い、更にボーダーの知識や経験を学んでいる状態なのだ。…全部は無理でも、頭の隅にそれを置いておくべきと思ったのだ。……何時までも時枝に頼りっきりには出来ないのだから
そして今話した事を元に、二人は今後注意すべき点を其々感じ取るがそれを口にしない。…恐らく気づいた内容は相手より自分の方が担当に向いている、そんな気がしたからだ