『三点目、私この後会議室に出向く必要がある。その間たが柚紀の身柄を諏訪隊室に預ける。その際、此処に居る者以外は絶対に招き入れるな。例え相手が"上層部からの使い"とか"私の名代"等と名乗ってもだ。もし招き入れるとしたら……風間隊の奴等のみだ』
「ん？何でいきなり風間さんの名前が出てくるんですかつる姐？」

かなり厳命する中に出てきた適応外な人物に太刀川が実直に訊ねると、その返答をしたのは言実でなく諏訪だった

「風間は俺と同じタイミングで鶴ヶ峰と接触していて、今のボーダー内で事情を知る数少ない隊長の一人だ。…彼奴なら危害を加える心配はねぇさ」
「付け加えますと、以前鶴ヶ峰さんがラウンジで風間隊全員と一緒に居たのをおれと嵐山さんが目撃してますから、菊地原達も事情を知る者と考えて大丈夫かと」
『まぁ"城戸さん"と言う懸念材料はあるが、……それは今考えても仕方ない事だ。連絡は以上。次に具体的な指示出しに入る、拒否権・反論は基本無視させてもらう、時間がないのでな』

理解したかを確認する間もなく、話をどんどん進めていく。後の予定が詰まっている身として早々に行動に言実は移りたいのだ

『柚紀を諏訪隊室に運ぶ役目だが、これは出水に任せる。理由は簡単だ、恐らく他の奴では運搬途中でトリオン切れによるベイルアウトする可能性が高いからだ。今の柚紀は所謂"乾燥したスポンジ"な状態でトリオンを水に例えれば…トリオン体の状態で下手に触れたらどうなるか想像はつくだろう？』
「理屈は分かりますが、ならどうして姐さんは触れても平気なのですか？」
『大した理由ではない。…お前達に柚紀のトリオンを含んだ歌を届ける際に他者からトリオンを間借りする"臨時接続"を応用したからな。今も接続が継続しているからベイルアウトに至るほどトリオンが吸い取られる心配は私には当てはまらんのだよ(後は"小細工"が働いたからと言う可能性もあるが、これを話す必要もなかろう。…コイツ等に要らぬ心配をかける必要も…)』

運び手の選定理由や、嵐山・笹森に接触を禁じた理由、言実がベイルアウトしていない事も説明すればとりあえず全員納得したらしい。次に指示する相手は

『堤、お前は先にベイルアウトして小佐野に柚紀を預かる事を説明後、出水達が到着するまでに籠城とまでは言わんが長時間室内に籠る事を備えて飲食物を確保しておけ。…二度柚紀から"トリオンの恩恵"を受けておるが、流石にもう限界だろ？』
「アハハ、それもお見通しなのは流石言実さんですね。鶴ヶ峰と別れる際に触れられた時と、あのトリオンで作られた波の様な物体に触れた時、トリオンが戻った…体に力がみなぎる感覚に見回れたのは本当に彼女からのトリオンを受け取ったからなんですね。起きたらお礼言わないと。……しかし、皆が隊室に来るまでに用意が果たして出来るか……」
『気負う必要もない、出水達は他の隊員に見つからん様に慎重に行動するのが余儀なくされる。迅速でかつ焦らなければ問題ない』
「(ｺｸｯ)分かりました、ではすみませんが俺はお先に……ベイルアウト！！」

よく見ると顔にうっすらとトリオン漏出によるヒビのような現象が起きており、活動限界に近かった堤は詳細的な指示を聞けば自ら光の筋となり基地へと飛んでいった