《次に何故トリオン兵が柚紀を狙ったかだが、理由は簡単だ。単に"その子のトリオン能力が強い"からだ、…実際のところ柚紀のトリオン量は一部隊の総トリオン量を一人で賄える程の多さだ。恐らく現ボーダー内でトップの量だろう》
「…マジで？出水より多いとかって、そりゃあ俺達が派手に立ち回っても見向きもされない訳だ」
「でも柚宇さんが"遠くにいる敵も柚紀ちゃん狙いで集まっている"って言ってましたけど、単にトリオン能力が強いだけでそこまで出来ますかね？」
「まだ要因はあるって訳か？」

言実の言葉を聞き驚きのあまり、一斉に柚紀に視線が集まる。今は目を閉じているので本人は気付いてないが、もしそれに気付いたら……幾ら慣れたと言っても一気に異性の視線を集めるのは、柚紀にとってはあまり宜しくない状況になるとだけ言っておこう。ある程度説明を受けたがまだ腑に落ちない事がある、言実も分かってはいるが何やら話しづらいのか中々答えないのに諏訪が催促を出す

「まだ分かってない事なのか？それとも…言いづらいだけか？」
《……言いづらくもなる。今から話すことは解釈次第で"柚紀の自由が奪われる"可能性があるからだ。…話すけどな一応》
「「「「！！」」」」
「はあぁぁっっ？！……何だよそれ？」
((諏訪さん、気持ちは分かりますが抑えて下さい。鶴ヶ峰が…))
((……分かっている！))

ただならぬ言実の発言に一瞬空気がざわめき、諏訪は思わず軽く怒鳴り声を出したがその後は何とか踏み止まるが腹の底から出すような低い声で問い掛る。柚紀も空気の変化に気付いたのか『んんっっ』と少し辛そうな呻き声が漏れたのを聞いた堤が、諏訪に内部通話で宥める。ある程度落ち着いたのを見計らい、再び言実が語る

《柚紀はこのサイドエフェクト持ちで有るが事が理由で同時に"生身でもトリオンを放出・及びある程度の操作が出来る"特殊な体質でもあるのだが、普段の生活において能力を使用以外でトリオンが漏れたりはしない。だが、…トリオンは精神エネルギー故にその者の精神状態と密な関係だ。……精神的に不安定だとコントロールも疎かになり、漏れてしまう危険性がある》
「！！つまり、今の柚紀ちゃんは目には見えていないですがトリオンを放出している状態な訳ですか姐さん？」
《計測しなければ分からぬが、その可能性は捨てきれん。しかし、遠くに居た筈のトリオン兵を引き寄せたのは恐らく漏れ出たトリオンが原因だろう。……それだけでない、精神的に不安定だと負の感情が強くなり勝ちだ。それが今回悪い方に働いてしまった》
「悪い方に働いた？他に解決してない現象って言ったら……待ってくれつる姐、まさか敵が倒しづらくなったのや、あのゲートが連鎖的に発生した理由って」

長い説明にも何とかついていく面々、その中でも太刀川もオーバーヒート寸前だが流石に戦いに関係する事には頭が回るらしく、一つの予感が脳裏を横切る。……出来れば当たって欲しくないことが