蜜の海を泳ぐ
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夢と現実の狭間を行ったり来たりする中、微かに漂ってきた良い匂いに鼻がピクッと反応した。
甘くて良い匂い。
この匂い……ホットケーキ…?
スゥ…と鼻腔いっぱいに匂いを吸い込みクンクンと鼻を動かし瞬きを数回した後、ゆっくりと目を開けた。
「――あ、廻くんおはよう!」
「紬、ちゃん……」
青い監獄 ではいつもジャージ姿な紬ちゃんが、可愛らしいエプロンを身に纏い俺の目の前で笑顔を浮かべていた。
確か俺……紬ちゃんの家に遊びに来て……それでいつの間にか、寝ちゃったんだ…………紬ちゃんのベッド占領して。
「紬ちゃ〜ん……」
「はいはい、なんですか〜?」
未だベッドに体を預けたまま俺は両手を紬ちゃんへと伸ばし、甘えた声で名前を呼んだ。
やれやれといったように返事をする紬ちゃんを布団の中へと引きずり込むと、彼女のほっそりとした腰に腕を回し、自分の体をこれでもかというくらいくっつける。そしてそのまま白くて細い首に唇を寄せて軽く食んでやれば、紬ちゃんは'擽ったいよ〜'と笑いながら肩を竦めた。
「も〜、私のこと食べないでくださ〜い」
「無理ぃ〜……。だって紬ちゃん美味しいんだもん〜…」
「せっかく良い物あるのになぁ」
良い物……?
そういえば、さっきから部屋中に充満しているこの甘い匂いのことをすっかり忘れていた。
この甘い匂いの正体ってもしかして……。
紬ちゃんは自分の腰に回っていた俺の腕をやんわりと引き剥がし起き上がると、俺の手を引いてその'良い物'が置いてあるテーブルの前へと座らせた。
「やっぱりホットケーキだぁ!!」
甘い匂いの正体はホットケーキだった。
丸い真っ白な皿に盛り付けられた2段のホットケーキは、上に乗ったバターがその温かさで良い具合いにトロリ…と溶け、全体に満遍なくかけられた蜂蜜が光に当たってキラキラと輝いていた。
ホットケーキを見た瞬間、さっきまで寝ぼけまなこだった両目が大きく開かれ、脳は一気に覚醒していった。
「コレ、紬ちゃんが作ったの!?めちゃくちゃ美味しそー!!」
「うん。なんか急に食べたくなっちゃって。廻くんもどーぞ」
はにかんで言う紬ちゃんにどうしようもなく愛しさが込み上げてきて、まだ食べてもいないのにお腹も胸もいっぱいになった。
「ホットケーキ食べんの去年のクリスマスぶりだな〜」
「クリスマス?」
「そっ♪クリスマスは母親がサンタの代りに毎年ホットケーキ焼いてくれんだよね。すっげーうまいんだこれが♪」
「へぇ〜。そうなんだ〜」
自分の中でホットケーキ=クリスマスだった。ホットケーキといえばクリスマスで、クリスマスといえばホットケーキという式が頭に自然と浮かぶほどには、自分のクリスマスの思い出は母親が作るホットケーキが主役になっていた。
そんなことをぼんやり考えながら、フォークで切ったホットケーキを口へ運んだ。
「……アレ?」
自身の舌がホットケーキの味を認識した瞬間、不思議な感覚に襲われた。
「廻くん?どうかした?」
「……なんでだろ。紬ちゃんが作ってくれたホットケーキ、母親が作ってくれたのよりずっと甘い」
「えっ!?本当?いつも通りの分量で作ったんだけど……」
‘もしかして砂糖多かったのかな…?’と申し訳なさそうに言う紬ちゃんに、首を左右に振って否定した。
「ううん。砂糖が多いから甘いとかそういうんじゃない」
そうだ――。
そんな物理的なものなんかじゃない。自分が言っているのは、もっと感覚的なものだ。
「母親のは食べた後スーッてそのまま消えてっちゃうん甘さなんだけど、紬ちゃんのは蜂蜜みたいに濃くてトロトロしてて、いつまでも残る甘さなんだよね」
「いつまでも残る甘さ……?」
「……不思議だよねぇ。見た目はなーんにも変わんない至って普通のホットケーキなのにさ、紬ちゃんのホットケーキの方が甘いって感じちゃうんだもん」
どちらも見た目、材料共にきっと大きな違いはないだろう。
フォークに刺したホットケーキを上下左右と色んな角度からまじまじと見つめた後、口の中に放り込んだ。
―パクッ―
「……やっぱ、すっげー甘い」
しかしそれでも、紬ちゃんが作った方を甘いと感じてしまう。
そう感じてしまう脳は……いや、俺は多分……
「相当紬ちゃんに、溺れてんのかも――」
甘ったるい君という名の深い蜜の海に――。
甘くて良い匂い。
この匂い……ホットケーキ…?
スゥ…と鼻腔いっぱいに匂いを吸い込みクンクンと鼻を動かし瞬きを数回した後、ゆっくりと目を開けた。
「――あ、廻くんおはよう!」
「紬、ちゃん……」
確か俺……紬ちゃんの家に遊びに来て……それでいつの間にか、寝ちゃったんだ…………紬ちゃんのベッド占領して。
「紬ちゃ〜ん……」
「はいはい、なんですか〜?」
未だベッドに体を預けたまま俺は両手を紬ちゃんへと伸ばし、甘えた声で名前を呼んだ。
やれやれといったように返事をする紬ちゃんを布団の中へと引きずり込むと、彼女のほっそりとした腰に腕を回し、自分の体をこれでもかというくらいくっつける。そしてそのまま白くて細い首に唇を寄せて軽く食んでやれば、紬ちゃんは'擽ったいよ〜'と笑いながら肩を竦めた。
「も〜、私のこと食べないでくださ〜い」
「無理ぃ〜……。だって紬ちゃん美味しいんだもん〜…」
「せっかく良い物あるのになぁ」
良い物……?
そういえば、さっきから部屋中に充満しているこの甘い匂いのことをすっかり忘れていた。
この甘い匂いの正体ってもしかして……。
紬ちゃんは自分の腰に回っていた俺の腕をやんわりと引き剥がし起き上がると、俺の手を引いてその'良い物'が置いてあるテーブルの前へと座らせた。
「やっぱりホットケーキだぁ!!」
甘い匂いの正体はホットケーキだった。
丸い真っ白な皿に盛り付けられた2段のホットケーキは、上に乗ったバターがその温かさで良い具合いにトロリ…と溶け、全体に満遍なくかけられた蜂蜜が光に当たってキラキラと輝いていた。
ホットケーキを見た瞬間、さっきまで寝ぼけまなこだった両目が大きく開かれ、脳は一気に覚醒していった。
「コレ、紬ちゃんが作ったの!?めちゃくちゃ美味しそー!!」
「うん。なんか急に食べたくなっちゃって。廻くんもどーぞ」
はにかんで言う紬ちゃんにどうしようもなく愛しさが込み上げてきて、まだ食べてもいないのにお腹も胸もいっぱいになった。
「ホットケーキ食べんの去年のクリスマスぶりだな〜」
「クリスマス?」
「そっ♪クリスマスは母親がサンタの代りに毎年ホットケーキ焼いてくれんだよね。すっげーうまいんだこれが♪」
「へぇ〜。そうなんだ〜」
自分の中でホットケーキ=クリスマスだった。ホットケーキといえばクリスマスで、クリスマスといえばホットケーキという式が頭に自然と浮かぶほどには、自分のクリスマスの思い出は母親が作るホットケーキが主役になっていた。
そんなことをぼんやり考えながら、フォークで切ったホットケーキを口へ運んだ。
「……アレ?」
自身の舌がホットケーキの味を認識した瞬間、不思議な感覚に襲われた。
「廻くん?どうかした?」
「……なんでだろ。紬ちゃんが作ってくれたホットケーキ、母親が作ってくれたのよりずっと甘い」
「えっ!?本当?いつも通りの分量で作ったんだけど……」
‘もしかして砂糖多かったのかな…?’と申し訳なさそうに言う紬ちゃんに、首を左右に振って否定した。
「ううん。砂糖が多いから甘いとかそういうんじゃない」
そうだ――。
そんな物理的なものなんかじゃない。自分が言っているのは、もっと感覚的なものだ。
「母親のは食べた後スーッてそのまま消えてっちゃうん甘さなんだけど、紬ちゃんのは蜂蜜みたいに濃くてトロトロしてて、いつまでも残る甘さなんだよね」
「いつまでも残る甘さ……?」
「……不思議だよねぇ。見た目はなーんにも変わんない至って普通のホットケーキなのにさ、紬ちゃんのホットケーキの方が甘いって感じちゃうんだもん」
どちらも見た目、材料共にきっと大きな違いはないだろう。
フォークに刺したホットケーキを上下左右と色んな角度からまじまじと見つめた後、口の中に放り込んだ。
―パクッ―
「……やっぱ、すっげー甘い」
しかしそれでも、紬ちゃんが作った方を甘いと感じてしまう。
そう感じてしまう脳は……いや、俺は多分……
「相当紬ちゃんに、溺れてんのかも――」
甘ったるい君という名の深い蜜の海に――。
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