盾となり剣となり
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「――おい、雑用係」
地獄の底から響いてくるようなドスの利いた声が背後からして、巻かれた螺子が切れたようにピタリと私はその場に停止した。
「……な、なんでしょうか?」
今すぐ逃げ出したい衝動に駆られながら蚊の鳴くような声で返事をし、恐る恐る振り返れば眉間に深く皺を刻んだ魔王……否、王様・馬狼くんの姿があった。
「'なんでしょうか?'じゃねぇ。テメェの目は節穴か」
「はい…?」
節穴……?一体何の事だろう……?
言われた意味を全く理解していない私に馬狼くんはチッと舌打ちをした。
こ、怖い……。今すぐ一目散に自室へ戻りたい……。
泣きそうになっていると目の前が真っ白になった。
一応説明しておくが、真っ白になったと言っても恐怖で気絶したとかそういう訳ではない。
文字通り本当に目の前が真っ白になったのだ。
そして一拍遅れてその理由に気付いた。
「し、シーツ……?」
真っ白なシーツが私を覆っていたのだ。
「テメェそれ本当に洗ったのか」
「え…?あ、洗ったけど…」
何を言い出すのかと思えば…。
私の視界を遮るシーツはつい一昨日洗ったばかりの物だ。
その証拠に先程から柔軟剤の良い香りが鼻腔いっぱいに広がっていた。
なんて言いがかりをつけてくるんだと、内心馬狼くんに対して沸々と怒りが込み上げる中、バサッ!!と勢いよくシーツが剥ぎ取られた。
「じゃあ、このシミはなんだ?」
物凄い剣幕でシーツを押し付けられ思わずたじろいだ。
よく見ろと言わんばかりにグイグイ押し付けてくる彼の手からシーツを奪い指摘してきた箇所を見れば、目を凝らさなければ分からないくらい小さなシミが。
え……。ま、まさか……コレに対して文句言ってきたの?
全てを理解した私は唖然とした。
彼が神経質で潔癖症な事は嫌というほど思い知らされてきた。
そのせいで今まで何度難癖をつけられてきたか……。
しかしまさかこんな小さなシミにまで難癖をつけてくるとは、流石に思っていなかった。
「あの……これは仕方ないと……」
「あぁ?」
反論しようと口を開いた瞬間、人を殺せそうなほどの眼力を宿した目に睨まれ、出かかっていた言葉は喉の奥へと追いやられた。
もう泣きそうだ。
だって本当に仕方がないのだ。
握りしめたこのシーツに加え、汗まみれのビブスやタオルなんかも大量に出てくるのだ。
要領よく一気に洗ってしまわなければならない。
こう言ってはなんだが、いちいちこんな小さなシミ一つに構っていられない。
「……」
と、はっきり言えたらどんなに楽か……。
残念ながら自分にはこの魔王にそれだけ強気に言えるだけの、度胸も勇気も持ち合わせてはいない。
謝ろう……。
納得はいっていないが、謝って次からは気を付けると言おう。
「――もうそのへんにしとけよ馬狼」
シーツを握り悔しさと恐怖で下がっていた顔を上げれば、頼もしい大きな背中があった。
「真白はマネージャーの一人として、毎日俺達の身の回りのことやってくれてんだ。文句言う前にまずはお礼が先だろ」
庇うように右手で私を自分の後ろへ隠し、凛とした口調で馬狼くんにそう言うのは、太陽のように明るく輝くオレンジ色の髪をした人……國神くんだった。
「フン。だったら最後まできっちり仕事しろ。'マネージャー'なんだろ」
「そんな言い方……!!」
「真白」
自分が全ての仕事に対して手を抜いているような、責任を持っていないような言い方をされ、思わず口から反論の言葉が出そうになったが、それは國神くんによって止められた。
「とにかく、真白の身にもなれ。真白がいるから俺達は余計な事考えずにサッカー出来てんだ」
國神くんは後ろ手に私からシーツを奪い、馬狼くんに突き返した。
「…チッ」
馬狼くんは忌々しげに舌打ちを一つしてシーツを乱暴に掴み取り、背を向け去っていった。
「……ハァァァァ」
「うおっ……大丈夫か?」
緊張の糸がプツリと切れた私は國神くんの背中におでこをくっつけた。
「うん……なんとか。ありがとう國神くん。助けてくれて」
「いや、俺はそんな大したことしてねーから」
「そんなことないよ。國神くんがいなかったら私どうなってたか……」
正直想像しただけでも恐ろしかった。
「アイツのあのいちいち細かいところ、直ればいいんだけどなぁ」
「というよりも多分、馬狼くん私のこと嫌いだからあんな風に難癖つけてくるんじゃないかな……」
いくら神経質だとしても私には特に当たりが強い気がする。
まるでシンデレラに出てくる継母のようだ。
私は私なりに必死にやっているのに……。
ほんの少しでもいいから認められたいと思うのは我儘だろうか。
「いや、馬狼の場合嫌いだからっていうより寧ろその逆……」
「へ……?」
逆…?逆って……?
「あー……まああんまり気にすんなよ。アイツもただ単に不器用なだけだって」
不自然に言葉を濁す國神くんに頭の中はハテナで埋め尽くされる一方だ。
「とにかく、なんかあったら遠慮なく頼れよ。お前がぶっ倒れても駄目なんだからな」
未だうんうん唸る私の頭を國神くんはポンッと軽く叩くと、'じゃあ俺行くわ'と言ってその場を後にした。
去っていく彼のその正義のヒーローを彷彿とさせる広く頼もしい背中を見つめ、私は小さく笑みを浮かべた――。
地獄の底から響いてくるようなドスの利いた声が背後からして、巻かれた螺子が切れたようにピタリと私はその場に停止した。
「……な、なんでしょうか?」
今すぐ逃げ出したい衝動に駆られながら蚊の鳴くような声で返事をし、恐る恐る振り返れば眉間に深く皺を刻んだ魔王……否、王様・馬狼くんの姿があった。
「'なんでしょうか?'じゃねぇ。テメェの目は節穴か」
「はい…?」
節穴……?一体何の事だろう……?
言われた意味を全く理解していない私に馬狼くんはチッと舌打ちをした。
こ、怖い……。今すぐ一目散に自室へ戻りたい……。
泣きそうになっていると目の前が真っ白になった。
一応説明しておくが、真っ白になったと言っても恐怖で気絶したとかそういう訳ではない。
文字通り本当に目の前が真っ白になったのだ。
そして一拍遅れてその理由に気付いた。
「し、シーツ……?」
真っ白なシーツが私を覆っていたのだ。
「テメェそれ本当に洗ったのか」
「え…?あ、洗ったけど…」
何を言い出すのかと思えば…。
私の視界を遮るシーツはつい一昨日洗ったばかりの物だ。
その証拠に先程から柔軟剤の良い香りが鼻腔いっぱいに広がっていた。
なんて言いがかりをつけてくるんだと、内心馬狼くんに対して沸々と怒りが込み上げる中、バサッ!!と勢いよくシーツが剥ぎ取られた。
「じゃあ、このシミはなんだ?」
物凄い剣幕でシーツを押し付けられ思わずたじろいだ。
よく見ろと言わんばかりにグイグイ押し付けてくる彼の手からシーツを奪い指摘してきた箇所を見れば、目を凝らさなければ分からないくらい小さなシミが。
え……。ま、まさか……コレに対して文句言ってきたの?
全てを理解した私は唖然とした。
彼が神経質で潔癖症な事は嫌というほど思い知らされてきた。
そのせいで今まで何度難癖をつけられてきたか……。
しかしまさかこんな小さなシミにまで難癖をつけてくるとは、流石に思っていなかった。
「あの……これは仕方ないと……」
「あぁ?」
反論しようと口を開いた瞬間、人を殺せそうなほどの眼力を宿した目に睨まれ、出かかっていた言葉は喉の奥へと追いやられた。
もう泣きそうだ。
だって本当に仕方がないのだ。
握りしめたこのシーツに加え、汗まみれのビブスやタオルなんかも大量に出てくるのだ。
要領よく一気に洗ってしまわなければならない。
こう言ってはなんだが、いちいちこんな小さなシミ一つに構っていられない。
「……」
と、はっきり言えたらどんなに楽か……。
残念ながら自分にはこの魔王にそれだけ強気に言えるだけの、度胸も勇気も持ち合わせてはいない。
謝ろう……。
納得はいっていないが、謝って次からは気を付けると言おう。
「――もうそのへんにしとけよ馬狼」
シーツを握り悔しさと恐怖で下がっていた顔を上げれば、頼もしい大きな背中があった。
「真白はマネージャーの一人として、毎日俺達の身の回りのことやってくれてんだ。文句言う前にまずはお礼が先だろ」
庇うように右手で私を自分の後ろへ隠し、凛とした口調で馬狼くんにそう言うのは、太陽のように明るく輝くオレンジ色の髪をした人……國神くんだった。
「フン。だったら最後まできっちり仕事しろ。'マネージャー'なんだろ」
「そんな言い方……!!」
「真白」
自分が全ての仕事に対して手を抜いているような、責任を持っていないような言い方をされ、思わず口から反論の言葉が出そうになったが、それは國神くんによって止められた。
「とにかく、真白の身にもなれ。真白がいるから俺達は余計な事考えずにサッカー出来てんだ」
國神くんは後ろ手に私からシーツを奪い、馬狼くんに突き返した。
「…チッ」
馬狼くんは忌々しげに舌打ちを一つしてシーツを乱暴に掴み取り、背を向け去っていった。
「……ハァァァァ」
「うおっ……大丈夫か?」
緊張の糸がプツリと切れた私は國神くんの背中におでこをくっつけた。
「うん……なんとか。ありがとう國神くん。助けてくれて」
「いや、俺はそんな大したことしてねーから」
「そんなことないよ。國神くんがいなかったら私どうなってたか……」
正直想像しただけでも恐ろしかった。
「アイツのあのいちいち細かいところ、直ればいいんだけどなぁ」
「というよりも多分、馬狼くん私のこと嫌いだからあんな風に難癖つけてくるんじゃないかな……」
いくら神経質だとしても私には特に当たりが強い気がする。
まるでシンデレラに出てくる継母のようだ。
私は私なりに必死にやっているのに……。
ほんの少しでもいいから認められたいと思うのは我儘だろうか。
「いや、馬狼の場合嫌いだからっていうより寧ろその逆……」
「へ……?」
逆…?逆って……?
「あー……まああんまり気にすんなよ。アイツもただ単に不器用なだけだって」
不自然に言葉を濁す國神くんに頭の中はハテナで埋め尽くされる一方だ。
「とにかく、なんかあったら遠慮なく頼れよ。お前がぶっ倒れても駄目なんだからな」
未だうんうん唸る私の頭を國神くんはポンッと軽く叩くと、'じゃあ俺行くわ'と言ってその場を後にした。
去っていく彼のその正義のヒーローを彷彿とさせる広く頼もしい背中を見つめ、私は小さく笑みを浮かべた――。
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