刹那的に愛して
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どうしてだろう――。
今、自分の目の前にいるその人は確かに笑顔を浮かべているのに、自身の体はまるで蛇に睨まれた蛙のように硬直して動かないでいた。
「……ど、どうしたんですか雪宮さん」
平静を装ってはみるが動揺を完全に隠すことなどやはり無理だった。
問いかけた声は僅かに震えていて目敏い彼はそれに気付くと、すかさずそこを突いてきた。
「声、震えているよ?紬さん?」
雪宮さんの眼鏡の奥の瞳は凪いだ海のごとく穏やかなものだったが、その奥深くに深海のような暗さを纏っていた。
確かに笑顔の形になっているのにその目は全く笑っていなくて、知らず知らずのうちに呼吸が浅くなってくる。
なんで――?
雪宮さん、一体どうしたの――?
動揺と疑問が頭を交錯し軽く目眩がした。
この状況を打破する術が見つからず、ただただ雪宮さんの端正な顔を眺めているだけの私に彼は、貼り付けただけの笑顔はそのままに口を開いた。
「俺はこんなことしない、とでも思っていたかな?」
「……」
「その顔は図星だね。俺、随分と紳士に思われていたみたいだね」
相変わらず笑顔のままの雪宮さん。
反対に私は落ち着かずずっとソワソワしている。
「……いつもの雪宮さんなら、こんなことしないと思います」
「'いつもの雪宮さん'って?いつもの俺ってどんなの?」
笑顔のその裏側に静かに燻る'怒り'が見えた。
「俺だって、好きな子が関わっていれば平常心ではいられなくなるよ」
スッ…と彼の白く美しい手が私の頬に触れる。
流石はモデルと言うべきか、彼の手は指先まで手入れが行き届いており、素材の良さというものを存分に伝えてきた。
「だって俺には、‘今’しかないからね…」
「ちょっ!…雪宮さん…っ」
頬を辿り、彼の手が行き着いた先は自分の胸元。その間を細く長い指がツゥ…っとなぞっていく。
抵抗しようにももう片方の手で両手を纏められていてどうしようも出来ない。
易易と動きを封じ込められ、こういう時に男と女の体格の差や力の差が如実に現れるのだな、と妙に冷静な頭で思った。
「俺は君の姿をいつか見られなくなるかもしれない……。俺の姿を君にいつか見てもらえなくなるかもしれない……。そう常に思っているのに……」
話している最中も雪宮さんの手は止まらず、自分の胸元を行ったり来たりする様子に、徐々に恥ずかしくなってきて視線が泳いだ。
「教えて?どうすれば他の連中よりも長く君の視線を奪うことが出来る?」
「雪宮…さんっ」
「俺には君の視線を惹きつけられるだけのモノは、何もないのかな?」
「そ、そんなこと……っ」
「……俺は、一分一秒も無駄にはしたくない。もっと長く君をこの目に焼きつけておきたい、もっと長く君の瞳に映りたいのに……っ」
「いっ……」
彼がギリッ…と拘束する手に力を込めてきて、手首に走った鈍い痛みに思わず顔を顰めた。
「ちゃんと…っ…雪宮さんのこと、見てますよ……っ」
「でも君は本当の意味で俺のことを見てはいない。俺の‘この姿’は無限には続かない……」
私の自由を奪っていた彼の手が途端に緩み、そのまま静かに拘束を解いた。
「……俺はどうすれば、紬さんの中にその存在を刻みつけられる――?」
光が消えた双眸が、私を捕らえた――。
今、自分の目の前にいるその人は確かに笑顔を浮かべているのに、自身の体はまるで蛇に睨まれた蛙のように硬直して動かないでいた。
「……ど、どうしたんですか雪宮さん」
平静を装ってはみるが動揺を完全に隠すことなどやはり無理だった。
問いかけた声は僅かに震えていて目敏い彼はそれに気付くと、すかさずそこを突いてきた。
「声、震えているよ?紬さん?」
雪宮さんの眼鏡の奥の瞳は凪いだ海のごとく穏やかなものだったが、その奥深くに深海のような暗さを纏っていた。
確かに笑顔の形になっているのにその目は全く笑っていなくて、知らず知らずのうちに呼吸が浅くなってくる。
なんで――?
雪宮さん、一体どうしたの――?
動揺と疑問が頭を交錯し軽く目眩がした。
この状況を打破する術が見つからず、ただただ雪宮さんの端正な顔を眺めているだけの私に彼は、貼り付けただけの笑顔はそのままに口を開いた。
「俺はこんなことしない、とでも思っていたかな?」
「……」
「その顔は図星だね。俺、随分と紳士に思われていたみたいだね」
相変わらず笑顔のままの雪宮さん。
反対に私は落ち着かずずっとソワソワしている。
「……いつもの雪宮さんなら、こんなことしないと思います」
「'いつもの雪宮さん'って?いつもの俺ってどんなの?」
笑顔のその裏側に静かに燻る'怒り'が見えた。
「俺だって、好きな子が関わっていれば平常心ではいられなくなるよ」
スッ…と彼の白く美しい手が私の頬に触れる。
流石はモデルと言うべきか、彼の手は指先まで手入れが行き届いており、素材の良さというものを存分に伝えてきた。
「だって俺には、‘今’しかないからね…」
「ちょっ!…雪宮さん…っ」
頬を辿り、彼の手が行き着いた先は自分の胸元。その間を細く長い指がツゥ…っとなぞっていく。
抵抗しようにももう片方の手で両手を纏められていてどうしようも出来ない。
易易と動きを封じ込められ、こういう時に男と女の体格の差や力の差が如実に現れるのだな、と妙に冷静な頭で思った。
「俺は君の姿をいつか見られなくなるかもしれない……。俺の姿を君にいつか見てもらえなくなるかもしれない……。そう常に思っているのに……」
話している最中も雪宮さんの手は止まらず、自分の胸元を行ったり来たりする様子に、徐々に恥ずかしくなってきて視線が泳いだ。
「教えて?どうすれば他の連中よりも長く君の視線を奪うことが出来る?」
「雪宮…さんっ」
「俺には君の視線を惹きつけられるだけのモノは、何もないのかな?」
「そ、そんなこと……っ」
「……俺は、一分一秒も無駄にはしたくない。もっと長く君をこの目に焼きつけておきたい、もっと長く君の瞳に映りたいのに……っ」
「いっ……」
彼がギリッ…と拘束する手に力を込めてきて、手首に走った鈍い痛みに思わず顔を顰めた。
「ちゃんと…っ…雪宮さんのこと、見てますよ……っ」
「でも君は本当の意味で俺のことを見てはいない。俺の‘この姿’は無限には続かない……」
私の自由を奪っていた彼の手が途端に緩み、そのまま静かに拘束を解いた。
「……俺はどうすれば、紬さんの中にその存在を刻みつけられる――?」
光が消えた双眸が、私を捕らえた――。
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