ベガに焦がれる
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「――今頃、織姫と彦星はデートしてるのかな?」
無機質で巨大なあの青い怪物の腹の中から解放され、久しぶりに見る空を見上げポツリと呟く。
どこまでも果てなく広がる空というステージで、星たちが控えめな輝きを放つ今日は…七夕。
織姫と彦星が年に一度、会うことを許された日だ。
「してんじゃない?俺らみたいに」
その言葉と共にふわりと背後から抱きしめられ、心臓が甘く可愛らしい音を立てた。
甘さを残したままトクン…トクン…と脈打つ左胸に気付かれないだろうかと落ち着かない一方、胸の前で交差する彼の腕を見て'また逞しくなってる'と、冷静にその成長を実感している自分もいた。
「きっと周りになんて目もくれずに、満天の星の中で愛を囁き合っているんだろうなぁ…」
「…紬って結構ポエマーだよね」
……だって、本当にそう思ったんだもん。
抑揚のない声で言う凪くんに密かに頬を膨らませる。
織姫も彦星もこの日をどれだけ待ちわびていたことか。二人とも互いの顔を見た瞬間、募りに募った想いが一気に溢れ出すのではないだろうか。一年ぶりに会えた愛しい彦星の胸に、織姫は顔を埋めるのではないだろうか。
「でもそう思うんならさ、紬ももっと俺に集中して」
そんなことを考えていると唐突にくるりと体を反転させられ、腕と同じように以前より逞しくなった誠士郎くんの胸板に私は顔を埋めることになった。
「さっきから紬、俺じゃなくて空ばっか見てるじゃん」
「だってこんな満天の星空やっぱり見ちゃうよ。それに今日は七夕だし…」
「いーから。今はこっち」
後頭部に回された手でさらに頭を押しつけられ、鼻腔いっぱいに誠士郎くんの香りが広がった。
「'アッチはアッチで'よろしくやってるんだからさ、今は俺のことだけ考えてよ」
「…誠士郎くんだって、ここ最近はサッカーばっかりだよ」
織姫と彦星との間を隔てるものが天の川なら、私の場合は間違いなくサッカーだろう。
まさか自分がサッカーに嫉妬する日が来るなんて、思ってもみなかった。マネージャー失格かもしれない…と、何度思ったことか。
しかし一度生まれたこの感情は、なかなか私を離してはくれなかった。
生き生きとサッカーをする誠士郎くんの姿を側で見る度に…いや、側で見ているからこそ心の中の寂しさという風船はどんどん膨らんでいった。
どんどんどんどん膨らみ、やがてその寂しさの風船は大きな破裂音と共に割れる。
誠士郎くんがサッカーに夢中になればなるほど、彼の中で私という存在がいつか霞んで跡形もなく消えてしまうのではないかと、思ってしまうのだ。
……だからこれは、ちょっとした仕返し。ごめんね誠士郎くん。
「――紬に、ずっと俺だけを見ていて欲しいから今サッカー頑張ってる」
「へ……?」
二人の間に流れていた静寂を断ち切るように、それまで黙っていた誠士郎くんがそう言葉を発し、私は思わず間の抜けた声を漏らした。
そしてゆっくり埋めていた顔を上げれば、彼の澄んだ綺麗な瞳と視線がかち合い、また心臓が甘く可愛らしい音を立てた。
「レオとか他の星じゃなくて、‘凪誠士郎’っていう星を見て欲しいから」
「せい、しろう…くん」
「紬が見てくれてるって思ったら俺、いくらでも頑張れるし、いくらでも強くなれる」
ずっと側で見ていたはずなのに……。
そんな言葉、いつの間に言えるようになったの――?
いつの間にそんなに逞しくなったの――?
以前の彼からは想像も出来ないくらい、強い意志が込められた言葉に頬が火照っていっているのが自分でも分かった。
そのうち息まで上がってきて、まるで呼吸の仕方を忘れてしまったみたいだった。
浅い呼吸を繰り返す私の顎に手を添え、親指で唇をなぞった誠士郎くんは自分のそれを重ねてきた。
唇から全身へと熱が伝染していく。
「……今頃、織姫と彦星もキス、してるのかな……?」
「……してんじゃない?俺らみたいに――」
'もっと見せつけてやろーっと'、そう悪戯っ子のように言って、誠士郎くんは再び唇を重ねてきた――。
無機質で巨大なあの青い怪物の腹の中から解放され、久しぶりに見る空を見上げポツリと呟く。
どこまでも果てなく広がる空というステージで、星たちが控えめな輝きを放つ今日は…七夕。
織姫と彦星が年に一度、会うことを許された日だ。
「してんじゃない?俺らみたいに」
その言葉と共にふわりと背後から抱きしめられ、心臓が甘く可愛らしい音を立てた。
甘さを残したままトクン…トクン…と脈打つ左胸に気付かれないだろうかと落ち着かない一方、胸の前で交差する彼の腕を見て'また逞しくなってる'と、冷静にその成長を実感している自分もいた。
「きっと周りになんて目もくれずに、満天の星の中で愛を囁き合っているんだろうなぁ…」
「…紬って結構ポエマーだよね」
……だって、本当にそう思ったんだもん。
抑揚のない声で言う凪くんに密かに頬を膨らませる。
織姫も彦星もこの日をどれだけ待ちわびていたことか。二人とも互いの顔を見た瞬間、募りに募った想いが一気に溢れ出すのではないだろうか。一年ぶりに会えた愛しい彦星の胸に、織姫は顔を埋めるのではないだろうか。
「でもそう思うんならさ、紬ももっと俺に集中して」
そんなことを考えていると唐突にくるりと体を反転させられ、腕と同じように以前より逞しくなった誠士郎くんの胸板に私は顔を埋めることになった。
「さっきから紬、俺じゃなくて空ばっか見てるじゃん」
「だってこんな満天の星空やっぱり見ちゃうよ。それに今日は七夕だし…」
「いーから。今はこっち」
後頭部に回された手でさらに頭を押しつけられ、鼻腔いっぱいに誠士郎くんの香りが広がった。
「'アッチはアッチで'よろしくやってるんだからさ、今は俺のことだけ考えてよ」
「…誠士郎くんだって、ここ最近はサッカーばっかりだよ」
織姫と彦星との間を隔てるものが天の川なら、私の場合は間違いなくサッカーだろう。
まさか自分がサッカーに嫉妬する日が来るなんて、思ってもみなかった。マネージャー失格かもしれない…と、何度思ったことか。
しかし一度生まれたこの感情は、なかなか私を離してはくれなかった。
生き生きとサッカーをする誠士郎くんの姿を側で見る度に…いや、側で見ているからこそ心の中の寂しさという風船はどんどん膨らんでいった。
どんどんどんどん膨らみ、やがてその寂しさの風船は大きな破裂音と共に割れる。
誠士郎くんがサッカーに夢中になればなるほど、彼の中で私という存在がいつか霞んで跡形もなく消えてしまうのではないかと、思ってしまうのだ。
……だからこれは、ちょっとした仕返し。ごめんね誠士郎くん。
「――紬に、ずっと俺だけを見ていて欲しいから今サッカー頑張ってる」
「へ……?」
二人の間に流れていた静寂を断ち切るように、それまで黙っていた誠士郎くんがそう言葉を発し、私は思わず間の抜けた声を漏らした。
そしてゆっくり埋めていた顔を上げれば、彼の澄んだ綺麗な瞳と視線がかち合い、また心臓が甘く可愛らしい音を立てた。
「レオとか他の星じゃなくて、‘凪誠士郎’っていう星を見て欲しいから」
「せい、しろう…くん」
「紬が見てくれてるって思ったら俺、いくらでも頑張れるし、いくらでも強くなれる」
ずっと側で見ていたはずなのに……。
そんな言葉、いつの間に言えるようになったの――?
いつの間にそんなに逞しくなったの――?
以前の彼からは想像も出来ないくらい、強い意志が込められた言葉に頬が火照っていっているのが自分でも分かった。
そのうち息まで上がってきて、まるで呼吸の仕方を忘れてしまったみたいだった。
浅い呼吸を繰り返す私の顎に手を添え、親指で唇をなぞった誠士郎くんは自分のそれを重ねてきた。
唇から全身へと熱が伝染していく。
「……今頃、織姫と彦星もキス、してるのかな……?」
「……してんじゃない?俺らみたいに――」
'もっと見せつけてやろーっと'、そう悪戯っ子のように言って、誠士郎くんは再び唇を重ねてきた――。
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