欲と熱を編む
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「――ねえ、紬ちゃん」
「んー?なーにー?」
テーピングテープやら包帯やら何やらをがさごそと整理していると、ストレッチに励む千切くんに呼ばれた。
テーピングテープ、結構少なくなってきたかも…。早めにアンリさんに言っておかないと。
千切くんの呼びかけに返事はしたものの、頭の中ではテーピングテープのことを考えていたから、ほとんど空返事になってしまった。
「ちゃーんと選手の声に耳を傾けてくださーい、マネージャーさん」
「ぅっ…!ご、ごめんなさい……」
いつの間にか側に来ていた千切くんは、不貞腐れたような表情で私の頬をムニッと摘んできた。
うー…千切くんもだけど、みんなどうして私のほっぺばっかり摘むんだろ?このプニプニ、気にしてるからあんまり摘まないでほしいんだけどなぁ……。
つい最近も凪くんと蜂楽くんに両方の頬をまるでスライムでも扱うかのように、びよ〜んと引っ張られたりツンツンと延々突かれたばかりで、あの時は散々な目に遭ったな…と眉間に皺を寄せた。
「あの…それで千切くん何か私に用?」
あと、いい加減ほっぺた解放してほしい…。
「いや、紬ちゃんってポニーテール以外の髪型しないのかなーと思って」
「へ?」
千切くんの意外にも無骨で男らしい手が私の頬から髪へと移動し、髪を一房掬った。
なんかこの展開、前にもあったような……。
「せっかくこんな綺麗な髪してんだし、勿体ないなーと思って」
「うーん……。まあ、青い監獄 に来る前はアイロンで巻いたりして色んな髪型にしてたけど、今は邪魔にならなければいいかなぁ…ってなっちゃってて」
…というのは建前半分、本音半分だった。この青い監獄 に来てからというもの、やらなきゃいけないことが多くて髪の毛なんかにいちいち構っていられないというのが正直なところだ。
サッカー部のマネージャーの時とは比べものにならないくらい、青い監獄 でのマネージャー業務は身体的ににも精神的にも大変だった。(でもその分アンリさんが褒めてくれるのは嬉しい!)
「だったらさ、俺と同じ髪型にしてみない?」
「…………は?」
―俺と同じ髪型にしてみない?―
頭の中で千切くんの言葉を復唱し、彼の鮮やかな赤い髪を見つめ瞬きを数回した。
「えっと……その、編み込みのこと?」
「もち」
綺麗に編み込まれた部分を指差し訊ねれば、彼は嬉しそうに頷いた。
「あのぉ……とっても言いにくいんだけど……」
「ん?」
「私、編み込みってどうも苦手で……」
嘘ではない。
非常に限定的な話にはなるが、髪のことになると何故か手先が壊滅的に不器用になってしまい、今まで本当に上手く出来たためしがないのだ。‘初心者でもできる!’‘世界一わかりやすい!’…なーんていう魅力的な動画タイトルに釣られてやってみるものの、動画のように綺麗に仕上がらず、‘もういいや……’と毎回挫折して終わっていた。
苦い思い出から目の前の千切くんに意識を戻し、もう一度彼の編み込みをまじまじと見つめる。
綺麗に編み込まれてるなぁ……。それに、本当に羨ましいくらい髪艶々だし……。
「だから私には、編み込みは無理……」
「紬ちゃんが苦手でも、代わりに俺がやってあげればいいだけっしょ?」
「へ……?い、いやっ!!い、いいよいいよ!!そんな…っ!!!!」
…いやいやいやっ!!本当に前と同じような展開になってきてる!!
千切くんはまた私にあんな恥ずかしい思いをしろとっ!?無理無理無理無理っ!!!!絶っっっっ対に無理っ!!!!
千切くんの綺麗な顔が目の前に来るだけでも心臓が爆発しそうだというのにその千切くんに髪を触られ、あまつさえ編み込みまでしてもらうなんて……。
以前にも髪を縛って……それこそポニーテールにしてもらったことはあるが、その時だって文字通り死にそうだったのだから。
こんなの心臓がいくつあっても足りない。もう本当に勘弁してほしい……。
「わ、私……恥ずかしくて死んじゃうよ……」
「……恥ずかしくてってことは紬ちゃん、少なからず俺のこと男として意識してくれてるってこと?」
「へ…?」
お互いの鼻先がくっつきそうなくらいの至近距離でそう低く囁かれる。
まるで顔だけが発熱しているかのように熱い。今この場に鏡はないが、わざわざ鏡で確認せずとも今、自分の顔が真っ赤になっていることは、この熱から感じ取ることが出来た。
「ち、ちぎ…り…くん…っ」
「紬ちゃんが俺と同じ髪型ってだけですげー嬉しいし、アイツらへの牽制にもなるじゃん?」
「け、牽制……?」
優しい手つきで耳に髪を掛けられ、擽ったさに身を捩る。心臓がドクドクと早鐘を打ち、口はカラカラに渇き、沸騰しそうなくらい全身熱くてクラクラと眩暈がしてきた。
「そ。俺にしかできない牽制のやり方で‘紬ちゃんはお前らには渡さない’って、アイツらに分からせねーと――」
一段と甘く低く囁かれたその言葉に頭を思いっきり殴られたような気がした――。
「んー?なーにー?」
テーピングテープやら包帯やら何やらをがさごそと整理していると、ストレッチに励む千切くんに呼ばれた。
テーピングテープ、結構少なくなってきたかも…。早めにアンリさんに言っておかないと。
千切くんの呼びかけに返事はしたものの、頭の中ではテーピングテープのことを考えていたから、ほとんど空返事になってしまった。
「ちゃーんと選手の声に耳を傾けてくださーい、マネージャーさん」
「ぅっ…!ご、ごめんなさい……」
いつの間にか側に来ていた千切くんは、不貞腐れたような表情で私の頬をムニッと摘んできた。
うー…千切くんもだけど、みんなどうして私のほっぺばっかり摘むんだろ?このプニプニ、気にしてるからあんまり摘まないでほしいんだけどなぁ……。
つい最近も凪くんと蜂楽くんに両方の頬をまるでスライムでも扱うかのように、びよ〜んと引っ張られたりツンツンと延々突かれたばかりで、あの時は散々な目に遭ったな…と眉間に皺を寄せた。
「あの…それで千切くん何か私に用?」
あと、いい加減ほっぺた解放してほしい…。
「いや、紬ちゃんってポニーテール以外の髪型しないのかなーと思って」
「へ?」
千切くんの意外にも無骨で男らしい手が私の頬から髪へと移動し、髪を一房掬った。
なんかこの展開、前にもあったような……。
「せっかくこんな綺麗な髪してんだし、勿体ないなーと思って」
「うーん……。まあ、
…というのは建前半分、本音半分だった。この
サッカー部のマネージャーの時とは比べものにならないくらい、
「だったらさ、俺と同じ髪型にしてみない?」
「…………は?」
―俺と同じ髪型にしてみない?―
頭の中で千切くんの言葉を復唱し、彼の鮮やかな赤い髪を見つめ瞬きを数回した。
「えっと……その、編み込みのこと?」
「もち」
綺麗に編み込まれた部分を指差し訊ねれば、彼は嬉しそうに頷いた。
「あのぉ……とっても言いにくいんだけど……」
「ん?」
「私、編み込みってどうも苦手で……」
嘘ではない。
非常に限定的な話にはなるが、髪のことになると何故か手先が壊滅的に不器用になってしまい、今まで本当に上手く出来たためしがないのだ。‘初心者でもできる!’‘世界一わかりやすい!’…なーんていう魅力的な動画タイトルに釣られてやってみるものの、動画のように綺麗に仕上がらず、‘もういいや……’と毎回挫折して終わっていた。
苦い思い出から目の前の千切くんに意識を戻し、もう一度彼の編み込みをまじまじと見つめる。
綺麗に編み込まれてるなぁ……。それに、本当に羨ましいくらい髪艶々だし……。
「だから私には、編み込みは無理……」
「紬ちゃんが苦手でも、代わりに俺がやってあげればいいだけっしょ?」
「へ……?い、いやっ!!い、いいよいいよ!!そんな…っ!!!!」
…いやいやいやっ!!本当に前と同じような展開になってきてる!!
千切くんはまた私にあんな恥ずかしい思いをしろとっ!?無理無理無理無理っ!!!!絶っっっっ対に無理っ!!!!
千切くんの綺麗な顔が目の前に来るだけでも心臓が爆発しそうだというのにその千切くんに髪を触られ、あまつさえ編み込みまでしてもらうなんて……。
以前にも髪を縛って……それこそポニーテールにしてもらったことはあるが、その時だって文字通り死にそうだったのだから。
こんなの心臓がいくつあっても足りない。もう本当に勘弁してほしい……。
「わ、私……恥ずかしくて死んじゃうよ……」
「……恥ずかしくてってことは紬ちゃん、少なからず俺のこと男として意識してくれてるってこと?」
「へ…?」
お互いの鼻先がくっつきそうなくらいの至近距離でそう低く囁かれる。
まるで顔だけが発熱しているかのように熱い。今この場に鏡はないが、わざわざ鏡で確認せずとも今、自分の顔が真っ赤になっていることは、この熱から感じ取ることが出来た。
「ち、ちぎ…り…くん…っ」
「紬ちゃんが俺と同じ髪型ってだけですげー嬉しいし、アイツらへの牽制にもなるじゃん?」
「け、牽制……?」
優しい手つきで耳に髪を掛けられ、擽ったさに身を捩る。心臓がドクドクと早鐘を打ち、口はカラカラに渇き、沸騰しそうなくらい全身熱くてクラクラと眩暈がしてきた。
「そ。俺にしかできない牽制のやり方で‘紬ちゃんはお前らには渡さない’って、アイツらに分からせねーと――」
一段と甘く低く囁かれたその言葉に頭を思いっきり殴られたような気がした――。
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