シヴの髪は永遠に
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「――うーん……上手くいかないなぁ……」
右手にブラシ。口にはヘアゴム。
その状態のまま私はさっきから、ポニーテールにしようと鏡の前でもうかれこれ何十分も格闘していた。
右手に持ったブラシを忙しなく動かし、髪を梳かし続ける。
髪を梳かし口に銜えたヘアゴムで髪を纏めては何かが納得いかず、すぐ解くということを何回も何回も繰り返していた。
「…あー、もうっ!!」
上手くいかなさすぎて苛立ちばかりが募っていく。
早く業務に取りかからねばならないというのに、何故か今日は自分の髪が言うことを聞いてくれない。
特別変な寝癖がついている訳ではないのだが、どうにもこうにも纏まりが悪い。
「ハァ……」
ブラシもヘアゴムも投げ出し洗面台に項垂れた。
こんな事ならショートにしていれば良かった。今更だが、アンリさんもロングではない。
そもそも、青い監獄 へ来る以前から自分はサッカー部のマネージャーだったのだから、その時点で邪魔にならないようバッサリ切っておくべきだったのだ。
ショートなんてきっと似合わないだろう…などと、変にネガティブに考えカットするのを躊躇った自分が今は憎らしかった。
「ここに来る前に切っちゃえば良かったな……」
髪を一房掬いため息混じりに呟いた。
'髪は女の命'とよく言うが、今となっては煩わしい事この上ない。
今日が特別扱いづらいのかもしれないが、そうでなくともやはり面倒なのには変わりなかった。
外へ出ることすらも叶わないこの場所で、今更そんな事を言ったところで後の祭り。
煩わしかろうがなんだろうが今は早いとこ髪を纏め、自分は一刻も早く業務に取りかからねばならないのだ。
ブラシを手に取りヘアゴムを銜えようとしたその時…
「――紬ちゃん?何してんの?」
突然鏡の中に人が現れた。
「ひぃっ!?ち、千切くん!?」
鏡の中の人物…千切豹馬くんは驚く私に'びっくりさせてゴメン…。絆創膏貰いに紬ちゃんの部屋来たんだけど…'と申し訳なさそうに眉を下げた。
彼は続けて声はかけたと言ったが、髪と格闘していた私の耳には届いていなかった。
「で?何やってたの?」
「いや、あの、髪が上手く纏まらなくて…」
千切くんはブラシとヘアゴムを交互に見、最後に私の髪へと視線を止めた。
「なんか今日、言うこと聞いてくれなくてさ…」
「あー、分かる。俺も結構上手くいかない時ある。変にうねってたりさ」
苦笑いを浮かべて自身の赤い髪を摘んでいる千切くんに、私は目を丸くした。
千切くんのこんな美髪でも、コンディションが悪い時があるのか…。なんかちょっと意外だな。
手入れに余念がない千切くんなだけあってその髪には艶があり、正直なところ自分の髪なんかよりもずっとずっと綺麗だと思う。
「でも千切くんの髪は十分綺麗だと思うよ」
「そう?」
「うん。っていうより、髪だけじゃなくて千切くん自身も綺麗なんだけどね」
振り返り、鏡の中の虚像ではない千切くんに向かって微笑みかけた。
「…ハァ。無自覚ってほんっと厄介だよな」
「へ?」
顔を背けながらぼやく千切くん。
そんな千切くんの言葉に、態度に、私の頭の中は一気に疑問符だらけとなった。
無自覚…?何のことだろう…?
疑問が何一つ解消されないでいる私を余所に、千切くんは徐ろに洗面台に置かれたブラシを手に取った。
「俺が縛ってあげるよ」
「えっ…!?あ、いや…」
「いーから。はい、前向いてー」
慌てふためく私の頭に手を添えて前を向かせると、ブラシで髪を梳かし始めた。
「紬ちゃんも十分髪綺麗じゃん」
「い、いや……そ、そんなこと…っ」
梳かしつつそっと髪に触れてくる千切くんに意識を全て持っていかれてしまい、上手く返すことが出来ない。
「俺、紬ちゃんの長くて綺麗な髪好きだよ」
耳元で囁くようにして言われた言葉と千切くんの綺麗な顔が真横にあることで、体が徐々に熱を持ち始める。
「ば、バッサリ…切っちゃおうって思ってたんだけど…っ」
恥ずかしさで俯きがちになっていく顔。
鏡の中に映る自分を見ることが出来ない。
「――そんな勿体ないことすんなよ」
しかし千切くんの手によってその顔は再び上げられてしまい、否が応でも鏡の中の自分と視線を合わせなければならなくなってしまった。
「俺が好きって言ってるんだからさ、切らないでよ」
愛おしげな表情で髪に唇を寄せた千切くんに、鏡の中の私の顔はこれ以上にないくらい赤くなっていた――。
右手にブラシ。口にはヘアゴム。
その状態のまま私はさっきから、ポニーテールにしようと鏡の前でもうかれこれ何十分も格闘していた。
右手に持ったブラシを忙しなく動かし、髪を梳かし続ける。
髪を梳かし口に銜えたヘアゴムで髪を纏めては何かが納得いかず、すぐ解くということを何回も何回も繰り返していた。
「…あー、もうっ!!」
上手くいかなさすぎて苛立ちばかりが募っていく。
早く業務に取りかからねばならないというのに、何故か今日は自分の髪が言うことを聞いてくれない。
特別変な寝癖がついている訳ではないのだが、どうにもこうにも纏まりが悪い。
「ハァ……」
ブラシもヘアゴムも投げ出し洗面台に項垂れた。
こんな事ならショートにしていれば良かった。今更だが、アンリさんもロングではない。
そもそも、
ショートなんてきっと似合わないだろう…などと、変にネガティブに考えカットするのを躊躇った自分が今は憎らしかった。
「ここに来る前に切っちゃえば良かったな……」
髪を一房掬いため息混じりに呟いた。
'髪は女の命'とよく言うが、今となっては煩わしい事この上ない。
今日が特別扱いづらいのかもしれないが、そうでなくともやはり面倒なのには変わりなかった。
外へ出ることすらも叶わないこの場所で、今更そんな事を言ったところで後の祭り。
煩わしかろうがなんだろうが今は早いとこ髪を纏め、自分は一刻も早く業務に取りかからねばならないのだ。
ブラシを手に取りヘアゴムを銜えようとしたその時…
「――紬ちゃん?何してんの?」
突然鏡の中に人が現れた。
「ひぃっ!?ち、千切くん!?」
鏡の中の人物…千切豹馬くんは驚く私に'びっくりさせてゴメン…。絆創膏貰いに紬ちゃんの部屋来たんだけど…'と申し訳なさそうに眉を下げた。
彼は続けて声はかけたと言ったが、髪と格闘していた私の耳には届いていなかった。
「で?何やってたの?」
「いや、あの、髪が上手く纏まらなくて…」
千切くんはブラシとヘアゴムを交互に見、最後に私の髪へと視線を止めた。
「なんか今日、言うこと聞いてくれなくてさ…」
「あー、分かる。俺も結構上手くいかない時ある。変にうねってたりさ」
苦笑いを浮かべて自身の赤い髪を摘んでいる千切くんに、私は目を丸くした。
千切くんのこんな美髪でも、コンディションが悪い時があるのか…。なんかちょっと意外だな。
手入れに余念がない千切くんなだけあってその髪には艶があり、正直なところ自分の髪なんかよりもずっとずっと綺麗だと思う。
「でも千切くんの髪は十分綺麗だと思うよ」
「そう?」
「うん。っていうより、髪だけじゃなくて千切くん自身も綺麗なんだけどね」
振り返り、鏡の中の虚像ではない千切くんに向かって微笑みかけた。
「…ハァ。無自覚ってほんっと厄介だよな」
「へ?」
顔を背けながらぼやく千切くん。
そんな千切くんの言葉に、態度に、私の頭の中は一気に疑問符だらけとなった。
無自覚…?何のことだろう…?
疑問が何一つ解消されないでいる私を余所に、千切くんは徐ろに洗面台に置かれたブラシを手に取った。
「俺が縛ってあげるよ」
「えっ…!?あ、いや…」
「いーから。はい、前向いてー」
慌てふためく私の頭に手を添えて前を向かせると、ブラシで髪を梳かし始めた。
「紬ちゃんも十分髪綺麗じゃん」
「い、いや……そ、そんなこと…っ」
梳かしつつそっと髪に触れてくる千切くんに意識を全て持っていかれてしまい、上手く返すことが出来ない。
「俺、紬ちゃんの長くて綺麗な髪好きだよ」
耳元で囁くようにして言われた言葉と千切くんの綺麗な顔が真横にあることで、体が徐々に熱を持ち始める。
「ば、バッサリ…切っちゃおうって思ってたんだけど…っ」
恥ずかしさで俯きがちになっていく顔。
鏡の中に映る自分を見ることが出来ない。
「――そんな勿体ないことすんなよ」
しかし千切くんの手によってその顔は再び上げられてしまい、否が応でも鏡の中の自分と視線を合わせなければならなくなってしまった。
「俺が好きって言ってるんだからさ、切らないでよ」
愛おしげな表情で髪に唇を寄せた千切くんに、鏡の中の私の顔はこれ以上にないくらい赤くなっていた――。
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