俺×エンリルギルス 現パロ

あの時に教えてもらった公演当日、俺は慣れない都市部へ出る電車を乗り間違えてしまい早めに家を出たにも関わらず開演から15分ほど経ってからようやく会場に着いた。
厳かな雰囲気の客席の中息を切らした一般的な社会人の俺はさぞ迷惑な観客だっただろう、それでも彼を見たくて仕方なかった。

今日の公演は最後まで演奏者だと彼の名前を調べる中で知った。
今日の彼も俺の視線を独り占めするのが易いほどの美しさだった、じ…と見つめているとふと目線が合った、気がした。それだけで俺の体温は5度ほど上がったかのようにのぼせあがり喉をこくりと鳴らす。


彼を見つめているだけであっという間に時間が過ぎて幕が降りる。
いつかのように席に沈み込み今日の彼の姿を目を閉じて反芻していた、今回はもう良席は埋まっていて端寄りの席だったが決して安くはないチケット代だったがそんなことは俺が死ぬ気で働けばどうりでもなる、趣味らしい趣味がない人生だったがもはやこれは趣味と言ってもいいのではないだろうか?なんてな、と自虐めいてひとりの客席で小さく笑う不審者に人が近づく気配を感じた。
退場を促す警備員だろうかと目を開くと先ほどまで思い描いていた美貌が視界いっぱいにいた。

「やはり、ここだったか」
息を僅かに乱しながら彼の発言に少し引っかかる、やはり?

「演奏中に君を見つけたので伝えたいことがあったので退場ルートで待っていたが中々現れなかったからもしやと思ったんだ」

あれは俺の気のせいじゃなかった…?!ハイレベルな演者の中曲を乱す事なく俺を見て…?!

「次も…また聴きに来てくれるだろうかと思ったんだが」
驚いてる俺に歯切れ悪く切り出した彼の言葉に二つ返事を返すと安堵したかのような穏やかな雰囲気になる、先ほどまでの演奏の方が緊張するだろうに…

「そう聞かれるってことはもしかして、次は海外とか…ですか?」

自分で切り出して納得した、そうだ彼は演奏者としても指揮者としても腕がいい、それもトップクラスに。
そしたら海外に招かれることも少なくないはずだ。たまたま国内での公演が続いたのが運が良かったんだ…!!

「いや、次の一般公演の予定はまだだいぶ先で詳細はまだ公表もされていないんだ、だから連絡先を教えてくれないか?熱心に聴きに来てくれてこうして何度も会えた貴方にまた聴きに来てもらいたい」
と思ってもみない提案に俺は数秒固まってしまった。
初見で認知された上に連絡先まで…?!関係性が深まるのが急ピッチすぎないか?!?!

「アッ、ありがとございます!!」

それでもこの機を逃したくなくて慌ててスマホを取り出す俺を柔らかな眼差しで彼が見ていたのを俺は知らないし、お互いの名前…本名はここで知り合うのだった。
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