短編集
パンプキンキング
人々を怯え、恐怖させる才に秀でたカボチャの王
その名はジャック・スケリントン
骸骨男の彼を皆が称えている
しかしいくら才があるとはいえ、全ての者がそうとは限らない
ここはとある街
時刻は夜更け
住人達は深い眠りにつき、民家はどれも静まり返っていた
そんな街中に唯一灯りが灯された大きな屋敷があった
すると屋敷の扉が開かれるとある影が姿を現す
それはジャックのものだった
ジャック「ではよろしくお願いします、おやすみなさい」
見送りとして共に入り口に立った家主に軽く挨拶を済ませるとジャックはその場を離れていった
その大きな屋敷には街の重役が住んでいた
ジャックはこの日も朝から王としての仕事におわれていた
ハロウィンタウンから離れたこの街を訪れていたのもその仕事の内であった
ジャック「あー…もうこんな時間か、思ったより遅くなってしまったな」
歩を進めながら黒い空を見上げた
予想よりも手間取ってしまったらしく、疲れからか無意識にため息が漏れる
人の気配のない道を歩きながらぼんやりと1人考え込む
お腹がすいたな
帰ったらあつあつのスープにパン、骨魚を食べよう
身体の疲れを取るために風呂に全身浸かってゆっくりしよう
全て済ませたら暖炉に火をつけベッドに入ってゼロと一緒に眠ろう
ジャック「そうと決まれば少し急ごうかな」
1人呟くと細い足が速度を速めた
静かな街路にコツコツと靴音が響く
暗がりに姿を溶かしていく骸骨の後ろ姿を怪しげな複数の目が見つめていた
街を出ていくつもの枯れ木に囲まれた道を進む
そこでジャックはふと足を止めた
何か音がする
不思議に思いその場でそっと振り返る
大きな眼窩に見えたのは自身が歩いてきた夜道のみ
周囲を見渡してみるがおかしな点は見られない
ジャック「………ふぅん」
首を傾げていたジャックは不意に笑みを浮かべ、何事もなかったかのように再び歩き出す
そんな彼を追うように枯れ木の背後から現れる数体の影
長い手が先行くジャックの肩を掴もうと伸ばされる
振り向く事のないその肩に指先が触れる
その瞬間、一陣の風がふいた
ボトリ
月明かりに照らされた道に何かが落ちる音
見るとそれは一本の腕だった
それに合わせて聞こえる叫び声
片腕を失った男が切断された箇所を押さえその場に蹲る
男の異変に気付いた輩が周囲に集まり何事かと騒ぎ始めた
しかしそれも一瞬の事
男達は何かに気付いた
己を覆う月明かりが消えたのだ
彼らに被さるように現れた影
ふと見上げた先にその影の正体が浮かんでいた
夜空に浮かぶ月を背負い羽ばたく4つの黒い姿
それは蝙蝠だった
鋭い牙をぎらつかせ男達を睨みつけ、キィキィと耳障りな声をあげている
その中の一匹
一際大きな蝙蝠の翼に緑の液体が付着している
それは腕を損失した男の傷口から流れる血の色
彼らは理解する
一陣の風の正体
それはあの蝙蝠だと
謎の正体を認識すると男達は瞬時に動きを見せた
各々が武器や己の爪を出し身構える
すると戦闘態勢を取った男達を見下ろす蝙蝠達が一斉に口を開いた
突如周囲に金切り声が響き、空気が大きく揺れた
それは超音波だ
4つの超音波が絡み合い男達の耳を刺激する
男達は思わず己の耳を塞いだ
しかしその刺激は遮られる事はなく、彼らの鼓膜を直撃する
強い振動に脳がぶれ男達は身もだえその場に膝をつく
悲痛な声をいくつもあげ、男達は次々と地に倒れ込んだ
倒れ込んだ男達が身じろぎ一つしなくなるのを見届けると蝙蝠達は翼を羽ばたかせ夜空へと飛び去った
周囲を軽々と見渡せるほどの巨大な枯れ木の枝
に腰掛ける細身の影が一つ
倒れた男達のみとなった枯れ木の道を見下ろした影に浮かぶ口元が弧を描く
ジャック「あぁ、可哀そうに」
そこに見えたのはジャックの姿
月明かりを背にその一部始終を眺めていたジャックはクスリと笑う
そんな彼の耳に聞こえたのは4つの羽音
4匹の蝙蝠が周囲を飛び回り、翼を緑に染めた一匹がジャックの肩にとまる
ジャック「ご苦労様」
細い骨の指をその顔に添えそっと撫でる
その動きに合わせ蝙蝠は心地よさそうに目を細めた
fight for the crown
~王のために戦う~
ジャック「ありがとう、君達のおかげで助かったよ」
「王をお守りするのが我々の務めですので」
ジャック「頼もしいね、これからも君達に期待しているよ」
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