distant memory



カチャカチャと小さな音をたて設置されていく食器
大きなテーブルに次々と置かれていく料理達
湯気が立ち室内には食欲をそそる香り

皆が静かに座る中、骸骨もそれに倣って大人しく座ったまま目の前に並ぶ料理の数々を不思議そうに見つめている

食事を並べ終えた者達は一礼するとその場から立ち去り、室内にはフォラス達4人のみが残された


フォラス「さて、では頂こうか」
レライエ「今日も美味しそうですねぇ」


香りを堪能するレライエはふと骸骨へと視線を向ける
無言で料理をただ見つめている

そんな骸骨の前に小さな皿が置かれる
皿の中にあるのは湯気を立てた料理が盛られている
その皿を置いたのはフォラスだった


フォラス「さぁ、お腹が空いただろう?」


フォラスの笑顔を見て骸骨は皿へと手を伸ばす
盛られている料理を見つめ、それをそっと口へと運ばせた
そのままゆっくりと咀嚼する

そして暫しの間をあけ








「おいしい」



その声に3人はすすめていた手を止める
フォラス、ダンタリアン、レライエのものとは違う幼い子供の声

それは骸骨が発した言葉だった

するとフォラスは驚きから一変、表情を一気に明るい笑みへと変えた
骸骨の声をようやく耳にして興奮しているのか必死に二人へと声をかける

フォラス「喋った!喋ったぞ!」
ダンタリ「…別に驚くような事ではないだろう」
レライエ「そういうダンタリアンも少し驚いていたじゃないですか」

何故そんな細かいところまで見ているのだこの男は
なるべく感情を見せないよう驚きつつも何とか心のうちに留められたと思っていたのだが、レライエには全て見透かされていたようだ
その指摘にダンタリアンは反論はしなかったもののプイと顔を背けてしまう

骸骨は3人の会話を気にする事無く料理を次々と口へ運ぶ
皿に盛られていた料理はあっという間に消え失せてしまった

その食欲を暫し眺めていたフォラスは大きな手で骸骨の頭を撫でた


フォラス「よほどお腹が空いていたんだな、沢山あるから遠慮せずに食べなさい」
レライエ「どれも美味しいですからね」

あれもこれもと次々に料理をすすめていくと骸骨はどれも気になるのか、次々に口へと運び一生懸命平らげていく
骸骨に甲斐甲斐しく接する二人を見て、ダンタリアンは1人不機嫌そうに食事をすすめた













暫くしてテーブルの上に並べられていた料理は全て平らげられていた


骸骨はその表情は変わらないままではあるが、満足そうに自身の腹を撫でる


ダンタリ「さて…では先程の話を続けるとするが」
レライエ「食後のデザートもなしにですか?」

これからが本番なのにと抗議し始めたレライエを見えない顔で睨みつける
黙れといわんばかりのその対応にレライエはわかりましたと一言告げると黙り込んでしまった


ダンタリ「さて…まず噂を確認する為に向かった森でフォラスを襲ったカボチャ、それはその骸骨が先程変異してみせた事でわかった」


腕を組み背もたれに身体を預け淡々と言葉を続ける


ダンタリ「そして襲われ反撃したものの正体がこのような子供だとわかり、気絶した子供をその場に放置するのはどうかと考え助けたというその対応はまぁ悪いものではない」
フォラス「そうだろう?だから」
ダンタリ「しかしオクシエント、しかもこの城へと連れ帰るのはどうかと思うのだが?」


発せられた言葉にフォラスはつい黙り込んでしまう
レライエも言葉を発する事はなかった

その理由は2人とも十分に理解していたのだ



この城はセルヴログの拠点
組織の中心部であるここへ子供とはいえ組織に関わりのない他者を招く行為は基本褒められるものではない
ましてや現在いる場所はその組織のトップである総統の執務室
正体がはっきりとしていない相手を招き、総統の身に何か起こってしまえば下手をすれば組織が潰されかねない
要を潰されてしまっては同じ志を持った者達とはいえ指導者を失いその団結力もいつか崩れてしまうかもしれない

必ずしもそうであるとは限らないが、可能性は0ではない
ダンタリアンはそれを危惧していたのだ


ダンタリ「私としては一刻も早くその噂の森へと帰すべきだと思うのだがな」


すると突然レライエが立ち上がった
そのまま骸骨の身体に腕を回すと軽々と抱き上げる
満腹感で満たされすっかり油断していた骸骨はその突然の行動に驚き硬直している

レライエ「待ってください!この子をその森へ帰すんですか!?」
ダンタリ「早急にな」
レライエ「そんな、別に急がなくてもいいんじゃ…あんな森の中へ1人で」
ダンタリ「では貴様に一つ質問だ…もしもソイツが組織に仇名す者で今もその本性を隠しているとしよう、そして隙をついてフォラスの命を狙うとする」


骸骨を抱きしめるレライエの腕に僅かに力がこもる
それに気付き骸骨は彼の顔を見上げた
その表情は先程までの笑顔とはまるで違い強張っていた


ダンタリ「フォラスも常に完璧であるはずがない、油断する事も勿論ある…その場合貴様、責任がとれるとでも?」
レライエ「そ、れは……………」


何か言わなければ
しかしそれ以上の言葉は出てこなかった

ダンタリアンの言う事は一見冷たい対応のように思われるが組織としては正しい

もしも彼の言う通り、今自身が抱えている骸骨がフォラスの油断した隙に危害を加えたとしたら

想像した途端、血の気が引いたかのような感覚に襲われる


しかしそれも束の間
聞こえた声に我に返ったレライエは弾かれたように顔をあげた


フォラス「ダンタリアン、言いたい事はわかっている」
ダンタリ「ならば一刻も早く」
フォラス「だがこの子をあの森へとただ帰すというのは賛同できない」


フォラスの解答にダンタリアンは即座に立ち上がった
普段他人から感情を読み取られない彼にしては珍しく、誰の目からしても明らかに怒りが見て取れる
それほどの怒りが彼を支配していた


ダンタリ「自分の立場を理解しているのか?」
フォラス「勿論理解している、この子が危険分子で俺に危害を加えるかもしれないという君の意見も勿論間違っていない…けど確証があるわけではないだろう?」


今度はダンタリアンが黙り込んでしまう
確かに自身の考えた事は間違いではない
それははっきり断言できる
しかしフォラスが言う事もまた同様だ

得体のしれない骸骨
その詳しい素性は知れない故に危険分子という不安があったものの、危険分子であるという確たる証拠がない以上は一応安全だともいえる

もしも彼の言う通りただ人々を驚かせる事が大好きな子供だったとしたら




皆が黙り込み室内が静まり返る
ダンタリアンはフォラスへと視線を向けた
彼は真っ直ぐ輝く目で此方を見つめていた

本当に言い出したら聞かない奴だ




ダンタリ「…確かにまだソイツが完全に危険分子だという確証がない」
フォラス「じゃあ!」
ダンタリ「話はまだ終わっていない、逆に安全だという確証もない」
レライエ「では、どうするんです?」


ダンタリアンはゆっくりと骸骨へと歩み寄る
骸骨はその大きな眼窩で近付いてきた彼を見上げた
下から覗き込んだフードに隠された顔には一切の表情が見えない


ダンタリ「ソイツがどちら側なのか、私が直接確かめる」
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