distant memory


それを聞き何事かと2人が視線を向けた
その先には先程まで眠りについていたはずの骸骨の姿がない

何処にいったのかと室内中を見回すと部屋の隅に小さな姿が見えた
壁を背に明らかに此方を警戒している

レライエ「急に目覚めたので驚きましたよ…それにしてもかなり警戒していますね」
フォラス「まぁ…目が覚めたら見知らぬ場所にいたのだ、驚き警戒するのも無理はないな」
ダンタリ「あと自分を気絶させた男がいるのだからな」

別にわざとやったわけではないのだが…

そう呟くフォラスを見つめた骸骨は一層警戒心を強める
背後へ下がり距離を開けようとするも無駄な行動だ
背後にあるのは壁なのだから


フォラス「えっと…君?とにかく一度落ち着いてくれ」
レライエ「危害を加えるつもりはありませんよ」

2人が骸骨に優しい声色を向けるが、その警戒が解かれる事はない
それを見てまずはレライエがゆっくりと歩み寄る
すると彼の足が止まり咄嗟にその場から飛び退く
それとほぼ同時に今まで彼が立っていた場所を炎が舞った

宙を舞う炎を目にし、3人が視線を骸骨へと向ける
猫のように唸り声をあげる小さな骸骨
その身体が一瞬炎に包まれ、掻き消えたと同時に現れたのは先程までの骸骨とはまるで違うもの
そこにいたのは細いカカシの身体を持ち小ぶりなカボチャ頭を持つ者
その両手にはごうごうと炎が燃え上がっていた


ダンタリ「骸骨かと思ったが…そうか、噂のカボチャは此方か」
レライエ「うーん、どうします?このままだといずれ室内を燃やされ兼ねませんけど」
ダンタリ「…簡単な事だ」

ダンタリアンは立ち上がるとゆっくりと片手をカボチャへと向けた
そのまま指先に意識を集中させる
徐々に魔力が集約されていく

燃やされる前に黙らせればいいだけの事

しかし向けられた片手は突如大きな手に鷲掴みにされ、カボチャからそらされる
掴んだ手の持ち主はフォラスだった

フォラス「待ってくれ!事情を説明すればきっとわかってもらえるはずだ!」

仲間が攻撃され部屋を破壊されかねない状況だというのにこの男はどこまで甘いのだろう
ダンタリアンは彼のその甘さに怒りが込み上げそうになる、が暫しの間をあけ掴まれていた手を振り払うとそのまま腕を組んだ
頼むというその口調と真剣な眼差しからしてフォラスは諦める事はないだろう
長年共にいるダンタリアンにはわかっていた

なんとか一度引いてもらう事に成功したフォラスは、ほっと胸を撫でおろす
それと共にカボチャへと向き直ると慎重に歩み寄る
近付いてくるフォラスを警戒しカボチャは未だにその小さな手に炎を宿している

フォラスはそれを見届けある程度接近するとその場に片膝をついた
相手は自身より遥かに小柄で警戒しているのだ
遥かに大きな相手に迫られ見下ろされては圧迫感を覚えますます威嚇され攻撃されかねない
更に小さなカボチャと顔の距離を極力近付けそっと語り掛ける


フォラス「すまない、驚かせてしまったようだ…目覚めると知らない場所に知らない人物の姿、警戒させてしまったのも無理はない」


そう語りながらフォラスは優しい笑みを浮かべ精一杯その身を屈ませなんとか目線を合わせていく


フォラス「あの森で君に襲われた時につい反撃をしてしまったが君はそのまま気絶してしまってね、あのまま放っておく事もどうかと思いここへ避難させたんだが……不安にさせてしまって本当にすまなかった」


その言葉と共にカボチャの肩に大きな手が添えられた
驚きその手を慌てて払いのけようとするが暫し悩んだのちにその手を静かに下ろした
小さなカボチャ頭が尚も優しく笑みを浮かべるフォラスの顔を見上げる

フォラス「大丈夫、ここには君に危害を加えようとする者はいない」


するとカボチャは静かに頷き手に宿していた炎をかき消した
そして全身が見る見るうちに元見た骸骨の姿へと変貌する


レライエ「姿を変えられるんですか、珍しいですね」

元の骸骨の姿へと戻る光景に珍しそうにレライエが歩み寄る
フォラスへの警戒を解きつつあるとはいえ、レライエやダンタリアンは未だに彼から敵視されているらしい
再び警戒し思わず距離を取ろうとするのに気付き、レライエは慌てて引き下がり声を発した

レライエ「あ、すみません!驚かせてしまいましたよね」

レライエは少し考えた後、フォラスと同じようにその場に屈みこむと明るい笑顔を向けた

レライエ「私はレライエと言います、どうぞよろしく」

そう言うと握手を求めるように片手を差し出す
骸骨は躊躇するものの、小さな骨の指をその手に触れさせた
そんな両者を見てフォラスは微笑ましく思い笑む




ダンタリ「…で?」


そんな和やかなムードを一気にかき消すかのように聞こえた声
腕を組んで黙り込んでいたダンタリアンが重い口を開いた


ダンタリ「親睦を深めるのは構わんが」


言葉と共に骸骨を見つめる
その顔は黒一色に覆われ感情だけでなくその表情も傍から見れば理解できないものであったが、骸骨は何か感じ取ったのか黙ってその黒を見つめる

射殺すかのような鋭い視線

同じくそれに気付いたフォラスは苦笑するとその場に立ち上がりダンタリアンと骸骨の間に割って入った


フォラス「ダンタリアン、相手は子供だ」
ダンタリ「それがどうした」
フォラス「そんなに警戒していてはこの子も戸惑ってしまうだろう?」
ダンタリ「子供だろうがなんだろうが此方へ敵意を剥き出しにしているのは事実だろう、何かあってからでは遅いのだぞ?」

ダンタリアンの言う事も最もだ
仮にも組織の総統であるフォラスや組織の要でもあるレライエに向けての攻撃
また世間を騒がせている謎の存在でもあり、実際に目撃した攻撃性を考えるとこれから先怪我人などが出ないとも限らない
組織の一員である以上、民への危険は早々に処理するべきだ

フォラス「だがこの子なりの理由があるのかもしれないだろう、何か問題があるのなら我々で解決してあげてもいいんじゃないか?」

またフォラスのいう事も間違いではなかった
組織は何も問題を全て力で解決するという野蛮な集団ではない
やむを得ない場合もあるが力での解決以外の道があるのなら其方を選ぶ事も必要な事だ

両者の主張は何方も必要なものであり、何方かを否定するべきものではないのだ


レライエ「あ!!」


その場の重い空気をかき消すかのような一際大きな声
視線を向けるとレライエが何か思いついた様子


レライエ「君、お腹すいてないかな?もう昼を過ぎているし、よかったら一緒に食事でもどうかな?」
ダンタリ「おい、今はソイツの」
レライエ「話はその後でも出来るでしょう?それにこの子もお腹空いてるんじゃないかなと思って…どうかな?」


問いかけられ骸骨は自身の腹部を見下ろし骨を撫でる
するとまるでその問いかけに答えるかのようにグゥゥと可愛らしい腹の音
レライエはその音を聞くや否や笑い声をあげた

レライエ「あはは!やっぱりお腹空いてますよね」
フォラス「…うーん、俺も空腹だなぁ…君も良かったら一緒にどうかな?専属のシェフが腕によりをかけて作ってくれるし味は保証するよ」


骸骨は未だに可愛らしい腹の音を気にしながらコクリと頷いた
どうやら食欲には勝てなかったようだ
それを見届けたフォラスは骸骨の小さな手を大きな手で包むよう掴む
向かうのは執務室の隣に位置する客間
骸骨は少々驚くもののその手を払う事はなく大人しく身を委ねフォラスに連れられていった
レライエも笑顔を浮かべその後へと続く


ダンタリ「………はぁ」

その場に残されただ呆然とするダンタリアン
先程までの怒りなど一瞬で失せてしまった
本日何度目かわからない大きな溜息を吐き、渋々と言った様子でその後を追う事となった
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