distant memory




場所は執務室

室内に設置されているソファの中心にダンタリアンが腰かけていた
その向かい側に立つ男性と壁に寄り掛かり様子を眺めるレライエの姿


ダンタ「さて、何処へ向かい何をしていたのか話してもらおうか?…フォラス」
フォラス「あー……」

男性は気まずそうにフードを取りその顔を晒した
ダンタリアン達より年上の男性
彼の名はフォラス
この組織の総統でまさに二人が探し求めていた人物だ


フォラス「実は最近気になる噂を耳にして気になって…」
ダンタ「まさかそんな噂を自分の目で確認したいなどという好奇心だけで無断で抜け出した…などと言うのではないだろうな?」
フォラス「す…すまない…好奇心には勝てなかった…」


ソファに背を預け腕を組むダンタリアンに申し訳なさそうに謝罪を口にするフォラス
立場上フォラスは主人、ダンタリアンは従者
しかし傍から見ればその立場は逆転、まるでフォラスが主人に叱られる従者そのもの
そんな光景を眺めレライエはつい笑い声をあげそうになるも、唇を噛みしめ何とか漏れ出そうになる声を押さえ込んだ


フォラス「し、しかし今日の執務は全て終わらせたわけだし問題は」
ダンタ「問題あるに決まっているだろう、自分の立場をわかっているのか?」


普段から抑揚のない声にその特殊な顔面で表情から他人に感情を悟られる事などないダンタリアンではあるが、長い付き合いであり勘の鋭いフォラスやレライエには彼の見えない感情をまるで表情が見えるかのように読み取る事が出来た
今、彼は非常に不機嫌で怒りを露にしている

フォラスはどうしたものかと悩み後方の壁に寄り掛かって様子を伺っていたレライエへと視線を向けた

頼む、何とかしてくれ

その表情はまるで叱られた犬のようだ
レライエは仕方ないといった様子でダンタリアンの元へと歩み寄る


レライエ「まぁまぁ、こうして謝っているわけですしもういいじゃないですか」
ダンタ「うるさい、貴様は黙っていろ」


予想通り聞く耳を持たないダンタリアンの発言を耳にしつつ、彼の背後へ歩み寄るとレライエは耳元へ顔を寄せぼそりと囁いた


レライエ「けど彼を探しに行ったおかげであの美味しいアイス、食べる事が出来たんですよ?…貴方も気に入ったでしょう?アレ」
ダンタ「む……」


ダンタリアンは反論しようとするも口を噤む
レライエの言う通り、確かにアイスは美味しくそれを食べたダンタリアンも口には出さないものの気に入っていた
そして彼の言葉通りフォラスを探しに行かなければアイスの存在も知る事はなく食べる事などなかっただろう


レライエ「つまり見方を変えればフォラスのおかげ、って事じゃないですか?」
ダンタ「………………以後、気を付けるように」


まんまと言いくるめられてしまったダンタリアンは渋々怒りをおさめフォラスを許す事となった
だがこれからは、と忠告しようとフォラスへと向き直る
そこでダンタリアンはある事に気付く
目の前に立つフォラスが小脇に何かを抱えているのだ


ダンタ「……おい、なんだその汚らしいものは」

そう言って指差す先は勿論彼が小脇に抱えた謎の塊
先程までは彼への怒りで注意散漫だった為か気付かなかった

フォラス「…あ!そうだ、忘れていた」

そう言うとフォラスは抱えていたその塊を空いている長く広い机の上へと下ろす
まるで壊れ物を扱うかのようなその手つきにダンタリアンは黙ってそれを見つめ、レライエは不思議そうに首を傾げる

謎の塊を包む薄汚れた布を静かに解く
そして中身が露になるとそれを見届けていた2人は驚く事となる


塊の正体

それは幼い骸骨だった



フォラス「あー、実は…」
ダンタ「……とうとう誘拐か?」
レライエ「フォラス…これは流石にフォロー出来ないんですけど…」
フォラス「ち、違う違う!」


2人に不審な目を向けられフォラスは慌てて声を上げる

とにかくまずは一刻も早く二人の誤解を解かなければ…っ












ダンタ「…つまりはこういう事か」


一通り事情を聞いたダンタリアンは片手で頭を押さえ声を発した


ダンタ「道行く人々を驚かすという噂のカボチャの正体を自身の目で確認したくなり現場である森へと赴いた」
レライエ「森の中へ入ると噂のカボチャと遭遇し襲われ」
ダンタ「それを逆に撃退しようとし木に投げつけ沈黙、その後確認しようと見てみれば」
レライエ「正体はこの子供だったと」


2人の目に映るのは静かに寝息を立てる自分達より遥かに幼い骸骨の姿
その身なりは穴のあいた所々ほつれている古着で包まれており、土に汚れてしまっている
お世辞にも育ちがいいとは思えない身なりだった


フォラス「まさかこんな子供だとは知らなかったんだ…気絶させたままあの場に残していくのもどうかと」
ダンタ「それで誘拐してきたと」
フォラス「だから誘拐したわけでは」


2人がそう言い合う最中、レライエは机に近付くと未だに眠るその骸骨の顔を覗き込む
スゥスゥと小さな寝息を立てるその子供を見下ろし何気なくその丸い頭に手を添えようとした瞬間


レライエ「うわっ!」


レライエは思わず声をあげその場に尻もちをついた
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