distant memory




深い森の入り口
そこに一人の男性の姿があった
赤いローブに身を包んだその男性はその場に立ち尽くし、森の中へと続く道を見つめる


「ここが噂の場所か」


それは勿論巷で騒がれている例のカボチャの話
この男性もまたその噂を耳にしており、己の目で真相を確かめてみたいという好奇心に駆られこの場に訪れていた

男性は暫し考え込むとフードの下に見える口元に笑みを浮かべ、森の中へと進んでいった






森の奥へと続く一本の道
森の木々により光が遮られ薄暗いその道には街灯などは一切ない
その道を男性は1人静かに歩く

ふと頭上を見上げると周囲の木々の枝がまるで道を覆い隠すかのようにひろがり、時折ふく風に枝が揺れ不気味な音を奏でている

時折周囲にも視線を向けながら歩いていたが、ふとその足を止めた

何かの気配がする
視界に見える姿はその男のもののみ
しかし彼は確かにその場に自分以外の者の存在を感じていた

すると突然男性はその場から飛び退き後方へと着地する
先程まで自身が立っていた場所に何かが飛び降りる音がした


暗がりの中、男性が目を凝らすと飛び降りた何かがゆっくりとその場に立ち上がった

そこに見えるのは小さな子供の姿
細い手足に小柄な身体
その腕が前へと伸ばされるとその手に突如炎が燃え上がる
炎に照らされ見えたのは顔
小ぶりなカボチャの顔だった



「ふむ…これが噂のカボチャか」


男性は目の前の者の容姿と耳にした噂の内容を照らし合わせ、それが例のカボチャなのだと確信した
突然襲い掛かって来たそのカボチャは手の上で揺らめく炎を両手に宿すと、地を強く蹴りその場から大きく跳躍した
その外見に見合う身軽さを生かした動きでカボチャは男性へ向け炎を纏った両手を伸ばした

男性はそれをただ見つめていたがその両手が触れる瞬間、僅かに右へと身体をそらした
燃える両手は目標を失って空を切り、地面へと押し付ける形となる
手に触れた地面の土が微かに焦げ、焦げ臭いにおいがする
すると次の瞬間、カボチャの身体が宙に浮いた
浮遊感を感じ何事かと顔を向けると、そこには首根っこを掴んで軽々とカボチャを持ち上げる男性の姿

カボチャは思わず身震いした
見上げた男性の顔を見上げると、フードの下に隠されていた目が見えたのだ

夜空に浮かぶ満月のように輝く美しい目
しかし美しさだけではない、相手の魂すら凍り付かせるかのような目
その目に見つめられカボチャは全身がまるで縛り付けられたかのように身動き出来なくなってしまう

すると男性はそんなカボチャを掴んでいる腕を大きく振るい、カボチャの身体を大木へ向け勢いよく投げつけた
動揺してしまっているカボチャはバランスを取る事が出来ず、無様に大木へ全身を叩きつけそのまま地へと倒れ込んだ


「全く、驚かすのにそんな暴力はよくないな」

そう言いながら男性はカボチャへと歩み寄り片膝をついた
足元に倒れ込んだまま動かないカボチャへと手を伸ばし、その顔を上げさせる

そこで男性はある事に驚く事となる
強い風に頭上を覆う枝が揺れ、隙間から注がれる陽の光に照らされ見えた顔
それは先程、炎に照らされ見えたカボチャとはまるで違うものだった
















レライエ「いやぁーやっと買う事が出来ましたよ!このアイス!」
ダンタリ「おい」
レライエ「あそこの店凄く人気なのですぐに売り切れちゃいますし、なかなか買う事が出来なかったんですよね~」
ダンタリ「おい」
レライエ「ん~~~!美味しい!!あ、ダンタリアンも早く食べないと溶けちゃいますよ?」
ダンタリ「む、そうか………っておい話をそらすな」

言われるがままに手に持つアイスを気にしたダンタリアンはレライエへと向き直った


ダンタリ「今はアイス等食べている場合ではない、フォラスがいないではないか」
レライエ「んーそうですねぇ…街に行くと言っていたんですけどねぇ」
ダンタリ「やはり街に行くといって外へと行ったのだ、貴様が止めてさえいれば…」


ブツブツと文句を言うダンタリアンに苦笑するとレライエはアイスを持つ彼の手を掴み、次の瞬間パクリと一口頬張った
それに驚きダンタリアンは慌てて掴まれいた腕を引っ込める

レライエ「ん!そっちも美味しいですね~」
ダンタリ「自分の物があるだろう、それを食え」
レライエ「え、だってダンタリアンさっきから食べてないですし溶けかけてましたから」

そう告げるレライエはもっと食べたいと言いたげな表情でダンタリアンの持つアイスを見つめる
ダンタリアンは後方へと身を下げると慌ててアイスを口元へと運んだ

ダンタリ「…おいしい」
レライエ「そうでしょう?」


コクリと頷きアイスを食べるダンタリアンに満足げな笑顔を浮かべた

















レライエ「いやぁ~美味しかったですね!」
ダンタリ「…そうか」


満足そうに意気揚々と城へと向かうレライエの少し後方を歩くダンタリアンは溜息を一つ

まんまと流されてしまった…

その歳に似合わず常に冷静沈着
その見えない表情や感情のこもっていない声も相まって周囲の者からはその優秀さから尊敬はされているものの少々距離を置かれがちだった
そんな彼もこの少年、レライエには適わなかった
常に笑顔を絶やさず誰にでも優しく接するこの少年はダンタリアンとは対極的であった
しかし彼はダンタリアンを甚く気に入っており何度も接しているうちに彼の扱い方を心得てしまっていた


ダンタリ「結局フォラスの居場所はわからないままか」
レライエ「そうですねぇ…あ、けどもしかしたら城に戻ってるかもしれませんよ?」
ダンタリ「そう都合よくいくはずが…」

会話を交わしていた二人は城の門をくぐり、敷地内へと足を踏み入れた瞬間に動きを止めた

「あ」
「「あ」」

足を止めた2人の視線の先には赤いローブを纏った男性の姿
男性もまた二人の姿に気付き、同じく足を止めていた


「や、やぁ…」


男性は暫しの間をあけ、ゆっくりと片手をあげ二人に向け手を振った
レライエは思わず苦笑したがダンタリアンは小さく肩を震わせるとその男性へと歩み寄る
自分より背丈のある男性の胸元を掴むとフードに隠された顔を見上げ抑揚のない声をあげる

ダンタリ「まずはおかえりとでもいっておこう」
「あ、ああ…ただいま…実は」
ダンタリ「黙れ、言い訳は執務室で聞く…さっさと来い」

そう告げると少々乱暴に手を払い、執務室へと向かう為城内へと向かった
その場に残された男性は思わず苦笑しレライエを見下ろす

レライエ「とりあえずしっかり謝っておいた方がいいですよ?」
「そ、そうだな…」

明らかに怒り心頭と言った様子の彼の後ろ姿を見つめ、どうしたものかと困り果てている様子
取り合えずはレライエの言う通り、謝罪をしなければ何を言ったところで彼の怒りは消える事はないだろう
勿論謝罪だけで許されるとも限らないが、と考えながら彼の向かった執務室へと歩き出す

その後へと続こうとしたレライエはふとある事に気付いた
先程までダンタリアンの行動に圧倒され気付かなかったが、男性は片腕に何かを抱えていた
それは古く薄汚れた布で何かを包んでいるように見える

あれって何だろう…

気にはなったものの今は早く執務室へ向かわなければダンタリアンがますます機嫌を損ねてしまう

あとで何か聞いてみよう

そう考えレライエもまた、彼らの後へと続いた
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