病喰鳥
時間をかけスープを平らげたサリーはスプーンを置くとごちそうさまと一言
それを確認するとジャックは空になった器をトレイの上へと乗せた
サリー「ありがとうジャック、お腹いっぱいになったわ」
ジャック「良かった!あ…そういえばサリー、薬はあるのかい?あるのなら飲まないと」
そういって室内をキョロキョロと見回す
しかし室内には軽く見た感じ、薬らしい物などはなかった
サリー「それが…薬は切らしてしまっていて、食事を終えたら魔女さんのお店に買いにいく予定だったの」
ジャック「そうだったのか…けど困ったな」
困った
彼の言葉の意味がわからずサリーは首を傾げる
それもそのはず
サリーはこの日、まだ一度も外へと出てはいない
住人の多くが寝込んでしまい、魔女の店の薬が完売してしまっている事など知りようがなかったのだ
その事を知っているジャックは考え込む
この街で薬を扱っている場所といえば魔女の店のみだ
しかしそこには現在薬はない事がわかっている
その事実を語るとサリーは困り果てた様子を見せた
自身だけではなく博士も薬を飲む事が出来ない
ただの風邪とはいえ長く続けば辛いものがある
出来るだけ早く回復するよう望んでいた彼女はどうしようと考え込んでしまう
するとジャックはある事を思いついた
ウェアウルフに薬をわけてもらうのはどうだろうか
彼も必要とあって買い込んだのだろうが、頼み込めばもしかしたら分けてくれるかもしれない
そうと決まれば早く彼の元に行かなければ!
早速行動を起こすべく立ち上がったジャック
しかしそんな彼をサリーの言葉が引き留めた
サリー「ジャック、あの…もう一つお願いがあるの……いいかしら」
ジャック「え?うん、どんな事をすればいいんだい?」
サリー「取ってきてほしい物があるの…それは」
ジャックは1人ハロウィンタウンの門をくぐり外へと向かっていた
迷う事無く足を進めある場所を目指す
墓場を突き進み、スパイラルヒルを抜け
辿り着いたのは迷いの森
ジャック「さてと、早く済ませて戻らないと…」
ジャックは迷いの森の中へと突き進んでいった
迷いの森を進む細長い姿が1つ
地面や周囲に生える木々が白と黒を基調とする色で、同じ色を持つジャックはまるでその森の一部に溶け込むかのようだった
暫くそのモノクロの世界を進むとジャックの目の前に一本の木が見えた
他と比べても巨大で、太い根がしっかりと地に根付いている
ジャック「ここだな」
目的の場所にようやくたどり着いたジャックは、立ち止まるとその木を見上げた
太くしっかりとした幹を持ち、風がふくとそれにつれ数多くの枝が揺れる
その枝には他の木々と大きな違いがあった
この迷いの森に生える他の木々はどれも葉や実をつける事無く枯れ木のようであった
しかし目の前にあるこの巨木は違った
枝には少量ではあるが葉や実がなっている
それらは不思議な光沢をもっており、風に揺れる枝の動きに合わせ空から注がれる陽の光に反射して輝いていた
ジャック「綺麗だな…っとそれよりもアレを探さないと」
誰に言うでもなく1人呟くと、ジャックはその巨木に歩み寄り地面を眺め始める
彼の探し物
それはサリーの告げたある物だった
『迷いの森の奥へ進むととても大きく立派な木があるの、その木は他と違うからすぐにわかるはずよ…その木の根元に生えている薬草を取ってきてほしいの』
彼女の言葉通りだ
確かにこの巨木は迷いの森の奥に存在しており、他の木々とは違って不思議な葉や実もなっている
これで間違ってはいないはずだ
ジャック「あとは根元に生えている薬草を……何処にあるんだろう」
巨木の周囲をまわりながら地面をまじまじと観察する
しかし、彼女のいうような薬草はおろか
草1つ生えていなかった
ジャック「おかしいな…ここで間違いないと思うんだけど」
もしかしたら見落としているかもしれない
そう考え身を屈ませしっかりと目を凝らす
だが結果は変わる事無く、何も発見する事が出来なかった
どうしたものか
ジャックは困り果ててしまった
目的の物が見つからず、もしかしたらここが目的の場所ではないのかもしれない
ジャック「仕方ない…一度戻ってみるか」
このままでは埒があかない
一度戻り再度サリーに話を聞いてみよう
そう考えその場を振り返る
すると頭上から何かが羽ばたく音が聞こえた
続けてジャックの目の前に何かがヒラリと舞い落ちる
それは大きな羽だった
鳥でもいるのだろうか
そう考え何気なく上空を見上げた
見上げた先には巨木が広げる枝
だが、そこに見えたのはそれだけではなかった
太めの枝に何かが座り込んでいる
闇のように黒い羽毛の塊
それは暫しの間をあけ突如動き出した
大きく広げられたのは翼だ
その羽ばたき1つで周囲に風が巻き起こり、ジャックは目を細める
突如現れたその巨鳥の全長は此方の身長を軽く凌駕する程で、それを目撃したジャックは無言のまま身構えた
巨鳥はそんなジャックを見るなり枝から素早く飛び降りた
翼を数度羽ばたかせてゆっくりと地にその足を下ろす
広げられていた翼は静かにたたまれる
しかしそれでもその体躯はジャックより高く、何処か威圧感のあるものだった
ジャック「…君は何者だい?」
舞い降りたその巨鳥へジャックは語り掛ける
しかしそれに答える事なく、巨鳥は一歩足を踏み出す
鳥そのものといえるその足には鋭い鉤爪があり、地を踏みしめる際に土を深く抉った
巨鳥はそのままジャックへとその身体を近付けると、無言のままその姿を見下ろす
よく見ると衣服を身に纏っており、深くかぶった尖り帽の隙間から鋭い猛禽類の目が覗いていた
一体何者なんだ…
ジャックは正体不明のその巨鳥の動きを注意深く観察する
もしも此方に敵対する者だったならば、何かしらの攻撃を加えてくるだろう
いつでも反撃出来るよう拳を強く握りしめる
「来客とは珍しい、貴殿はこの木に害をなすものかな?」
ジャック「え…?」
突然聞こえた見知らぬ声
聞こえた声に一瞬気を取られ、ジャックの集中力が僅かに乱れた
その瞬間、ジャックの肩に素早く巨鳥の腕が伸びた