病喰鳥
ベッドに横たわったままサリーは真っ直ぐ、ただ天井を見つめていた
彼女の脳に浮かんでいるのは博士の事
彼は大丈夫なのだろうか
ジャックが様子を見に行くと言っていたが、博士の事がどうにも気掛かりだ
やはり様子を見に行こうか
そう考え身体を起こそうとした
するとそこで扉が静かに開かれる
現れたのはジャックだった
ジャック「やぁ」
サリー「ジャック…博士の様子は?」
ジャックは室内に入るなりベッドへと歩み寄ると笑顔を浮かべた
ジャック「博士はちゃんと横になって休んでいるよ、今朝より楽になったらしい」
サリー「…よかった」
博士の具合を酷く心配していたサリーはその言葉に安堵し、起こしかけていた体を再び横たわらせる
彼女の安堵する姿を見てジャックはベッド脇の椅子へと腰を下ろした
ジャック「さて、今日は僕が君達の世話をする事になったんだけど…何かいるものはあるかな?」
サリー「え…ジャックが私達の世話を?」
流石に申し訳ないと思ったのかサリーは驚いた様子で声をあげるなり、慌ててその身を起こした
寝ていないと駄目だよ
そう言われ寝かしつけられながら、サリーはごめんなさいと謝罪を口にする
ジャック「謝る必要なんてないさ、さぁ!遠慮なく欲しい物を言ってくれ!それか何かしてほしい事とか」
そう言われても…
突然の事でサリーは困惑してしまっている
まさかのジャックと過ごせるその時間に嬉しくは思うものの、自分だけではなく博士の世話までも任せてしまうのは如何なものか
だが目の前の骸骨男はやる気十分な様子で此方が何を言っても引き下がる事はしないだろう
こういう時の彼は一度決めると止まる事などないのだ
サリー「…じゃあ、何か食べるものを、お願いできるかしら」
ジャック「食事かい?任せてくれ!あ、でも材料はあるのかい?」
サリー「ええ、地下の厨房の棚の中に材料をしまってあるの」
ジャック「地下の厨房だね、わかったよ!」
楽しみにしていてくれ!
ジャックは意気揚々と扉から駆け出していく
そんな彼を見てサリーは思わずクスリと笑みをこぼした
彼はまるで子供のようにその眼窩を輝かせ、本人は嫌がるかもしれないがなんとも可愛らしく思えた
サリー「あ」
そこでサリーはある事に気付く
ジャックに食事を頼んだものの、彼女は肝心な事を忘れてしまっていた
ジャックは調理を苦手としていたはず
サリー「………大丈夫、かしら」
寝ているように言われた以上、様子を見に行く事は躊躇われる
サリーは不安に思いながらもそのままジャックを待つこととした
部屋を出たジャックはサリーに言われた通りに地下へと向かっていた
長いスロープを下り、更に下へと繋がる道を進む
行きついた先には一枚の扉
静かにノブを回し扉を開くとそこには厨房があった
窓などはなく、壁に設置された灯りが厨房内を照らしている
ジャック「へぇ、ここが厨房か」
中へ入るなり周囲を眺める
大きな釜に壁には様々な調理器具が吊るされている
また周囲にはいくつか大きな棚があり、中には食器類やラベルの張られた瓶がいくつも並べられている
棚に歩み寄り戸を開けるとそこにはいくつもの食材が詰められていた
ジャック「色々あるなぁ…けどこれだけあるなら栄養満点の物が作れそうだ!」
ジャックは何を作るか考える事無く、とにかく目の前にあるありったけの食材を取り出し調理台に並べた
様々な種類の食材を眺めジャックは考え込む
さて、何を作ろうかな
ジャック「栄養を考えたらまずは野菜かな?」
何気なく取った野菜
それは赤くいくつもの黒い斑点が浮かんでいる
何だろうこれ
その食材が何かわからず首を傾げる
軽く匂いを嗅いでみるが特に危険な物ではなさそうだ
そう考えジャックは壁に吊るされている包丁を掴む
ジャック「食べやすいように小さめに切った方がいいだろうな」
ジャックは器用に握っていた包丁を回転させると素早く野菜を切り刻んだ
その動きに合わせ包丁が軌道を描き、野菜が見る見るうちに切り刻まれ用意してあったボウルへと落ちていく
続けざまに長い腕が他の食材へと伸びる
ジャック「いい調子だ!このままどんどん行くぞー!」
野菜を切り刻んだ事によりテンションが上がったのか、ジャックは元気に声をあげるとあっという間に食材を切り刻んでいった
ジャック「ふぅ~こんなものかな!」
彼の目の前に置かれている深めのボウル
その中には数多くの食材がこれでもかといわんばかりに刻まれて積まれていた
ジャックはボウルを持つと大釜へと向かう
覗き込むと中には何も入っていない
それを確認するとボウルの中身を一気に流し込んだ
ドサドサと食材が次々に大釜の中を埋め尽くしていく
ジャック「病人に出す食事なら食べやすく消化のいい物がいい…って言ってたよな、ブギーが」
あれはいつだったか
忘れてしまったがブギーが言っていた言葉だった
当時彼に用がありツリーハウスを訪れていたジャックだったが、その時の彼はなんとも忙しそうにしていた
聞いてみると、なんとあの小鬼達が風邪をひき寝込んでしまったのだという
その際にブギーは何やら料理を煮込んでおり、それは何だと問いかけたのだ
すると返って来た言葉が
『具合の悪い奴にはこういった消化のいいもんが一番なんだよ、そんな事も知らねぇのか?』
当時はその言葉と小馬鹿にしたような表情がなんとも腹立たしく料理をかき混ぜるブギーの背に全力で飛び蹴りを繰り出したが…
ジャック「まさかアイツの言葉がこんなところで役に立つなんてなぁ…」
未だに思い出すとあの表情が憎たらしい
しかし役に立つ情報を得ている事は確かな為、ジャックはその憎たらしくも殴りたくもある顔を記憶から削除するよう頭を振り調理を再開する事とした
大釜に次々と食材や調味料などを足していき、ゆっくりとかき混ぜていく
次第に大釜の中身はぐつぐつと煮えたぎり始めた
ジャック「いい感じだ!サリーや博士、喜んでいくれるといいなぁ」
2人の喜ぶ顔を想像しながらジャックは鼻歌交じりに更に調味料の入っているであろう小瓶を手に取り、その中身を大釜へと振りかけた