病喰鳥




ジャック「…つまり、博士も君と同じように?」
サリー「ええ…博士を寝かしつけて食事を用意して…そうしていると私も具合が悪くなってしまって、休もうと眠っていたの」


サリーだけではなく博士もか…

きっと彼の看病をしている際にうつってしまったのだろう

そう考えたジャックだったが、ふと違和感を覚える

確かに風邪はうつるものだ
しかし彼女の話を聞くに彼と接してほんのわずかの時間での出来事だ

果たしてただの風邪がそんな短時間でうつって、すぐさま症状をみせるものだろうか


考え込んでいたジャックだったが、耳に届いた小さな咳にはっと我に返る
そうだ
今は悩み考えるよりも先に彼女の看病をしなくては


ジャック「サリーはそのまま休んでいてくれ、博士の様子は僕が見てくるから」
サリー「で、でも…」
ジャック「いいから、ね?」


そうまで言われてしまっては反論などする事など出来るわけもなく
サリーは素直に頷くとベッドへとその身を預ける事となった

素直に従うその姿にジャックは笑みを浮かべると、立ち上がるなりその手をそっと彼女の頭部へと伸ばした
長い骨の指が彼女の赤く長い髪を軽くすき、撫でる


ジャック「じゃあ行ってくるよ、すぐに戻るからね」


そう告げると扉を抜け部屋をあとにする
1人残されたサリーは彼の姿が見えなくなった途端、自身の顔を両手で覆った
その青い肌は見る見るうちに赤みを帯びていく
それは風邪による熱だけの所為ではなかった



















通路へと出たジャックは静かに扉を閉めると足を進め始める
目指すのは博士がいるであろう、彼の寝室だ


ジャック「まさかあの博士までも寝込んでしまうなんて…」


この街に住んでからというもの、その立場上フィンケルスタイン博士とは何かと接する事は多かった
毎年のハロウィンの案を始めに、街での生活の向上など様々な面で彼の研究技術は何かと役に立つ事が多かったのだ
それらの事から接する機会が多くジャックは彼を親しい友と認識しており、また博士からしてもジャックは王である以前に一人の友として認識していた

そんな彼が寝込んでしまったのだ
心配に思わないはずなどなかった




鉄製の扉の前に到達するとジャックは開くよりも前に一度彼の名を呼んだ


ジャック「博士?ジャックです」


しかし中からは何の音も聞こえず、また声も聞こえる事はなかった
きっと眠りについているのだろう
そう考えジャックは静かにドアノブを回した


鉄製の扉が静かに開かれる
室内は薄暗く、ゆっくりと足を踏み入れる


ジャック「博士…?」


暗い室内に入るとジャックの眼窩にベッドが映り込んだ
ベッドは僅かに膨らみを見せ、微かにだが上下に動いている

なるべく足音をさせずに傍へと近付くと、そこには氷嚢を額に宛がう博士の姿があった


ジャック「…ちゃんと眠っているな」


実はサリーの眼の届かない室内にいるのをいいことに未だに何かしら作業などをしているのではないかと考えていたジャックは安心した様子でほっと胸を撫でおろした
するとそこで博士が僅かに身をよじらせる


博士「……む……?」
ジャック「あ……すみません、起こしてしまいましたね」


眠りについていた博士が小さな声をもらしその目を開く
彼は目の前に見えるジャックの姿に内心驚いたものの、何とか声にだす事無く冷静さを保った


博士「ジャックか……何故ここにいるんじゃ」
ジャック「サリーの代わりに様子を見に来たんですよ、ちゃんと休んでいるようで安心しました」
博士「そうか……サリーはどうしたんじゃ」


彼が不審に思うのも無理はない
本来ならばこうして自身をみに来るのは看病するはずのサリーなのだから

ジャックは近くにある椅子を掴むとベッドの傍へと置き、そのまま座り込んだ


ジャック「実は…」











博士「そうか……サリーにうつしてしまったか」


一通りの出来事をジャックの言葉により把握した博士は頭部からずり落ちる氷嚢を支えなおし溜息を洩らした


ジャック「仕方ありませんよ、こればかりは誰のせいでもありませんから」


博士は自身の風邪がうつり寝込んでしまっているサリーを想い落ち込んでしまっていた
それは彼が口にした事ではないが、付き合いの長いジャックからすれば言葉に出さずとも理解できるものだった

咳き込む博士の背を軽く擦り静かに語り掛ける


ジャック「しかし様子を見に来てよかったですよ…これで誰も来ないとなると2人とも大変な事になっていたかも」
博士「まぁ風邪が原因で死ぬなどという事はないがな」
ジャック「まぁ確かにそうですけど…けどまさかハロウィンタウンでこんな急に風邪が蔓延するだなんて思いませんでしたよ」


何とも不運ですよね
そう告げるジャックの言葉に博士はある疑問を抱いた



博士「待て、他の連中も同じ状態なのか?」
ジャック「ええ、自分で直接確認したわけではないですけど今朝から多くの住人が寝込んでしまっているようで…」


問いかけに答えたジャック本人もそこでふと疑問を抱く事となる
風邪が蔓延する事は確かにあり得ない事ではない
しかし感じた疑問はそこではなかった



ジャック「あれ…そういえば皆今朝から急に体調を崩したって…」
博士「…妙じゃな、皆がそうも揃って風邪など引くものじゃろうか」


2人は互いに考え込んでしまった
風邪そのものは不思議でもなんでもない事なのだが
今朝方から急に蔓延した事の方がどうにも引っ掛かる


博士「これは…ちと調べる必要があるかもしれんな」


そう言うと博士はベッドからその身を起こした
ジャックは慌てて博士の身体を押さえようと手を伸ばす
しかしその手は彼の小さな手によって止められた


博士「ワシなら問題ない、暫く横になっておったから今朝よりはよくなっておる…それよりジャック、お前はなんともないんじゃろう?」
ジャック「え、ええ…僕は元気ですけど」
博士「ならば1つ、ワシの頼みを聞いてはくれんか?」


頼み?
博士からの滅多にない願い事
ジャックは彼をとめる手を引くとその言葉に耳を傾けた
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