病喰鳥



ジャック「そうだったのか」


今朝の出来事を把握したジャックは心配そうに呟いた

それは彼らも同じようでクドラクとカシングは未だに眠っているであろうフリッツの事を考えていた


ブラム「ええ、ですから昼食を済ませて魔女の店に向かおうかと」
ジャック「それがいいだろうね、彼女達の作る薬はよく効くから…あ、あとで見舞いに行ってもいいかな?」


見舞いの言葉に彼らの表情は一瞬花開くかのように明るいものとなった
彼らが最も敬う王が愛する弟の為にわざわざ見舞うというのだ

それは彼らだけではなくフリッツも同様に喜ぶだろう

しかしそこでブラムはある事に気付き、拒否するように首を振った


ブラム「ジャック、お気持ちは嬉しいのですがもしも貴方に風邪をうつしてしまっては…今回はお気持ちだけで」
ジャック「うーん…じゃあフリッツにお大事にと伝えてくれるかい?」
ブラム「ええ、フリッツも喜ぶでしょう」







そんな言葉を交わしている彼らの元に聞き覚えのある声が聞こえた

見ると何やら小さな袋をもつウェアウルフが此方の存在に気付いたらしく、大きく手を振り駆け寄ってくる


ウェア「おーい!何してるんだ?」
ジャック「やぁウェアウルフ、偶然彼らと会ってちょっとお喋りをしていたのさ!君はどうしたんだい?」


するとウェアウルフは手にしている袋を皆の前に広げて見せた
中を覗き込むとそこにはいくつかの小瓶
貼られたラベルには薬名が明記されている


ウェア「ハーレクインの奴が今朝から寝込んじまっててな、風邪でも引いたんだろうって事で薬の調達に来てたんだ」


風邪
フリッツだけではなくハーレクインも体調を崩してしまっているらしい


ブラム「彼も風邪ですか…流行っているんですかね」
ジャック「かもしれないね、僕も気を付けよう」


ジャック達の会話を聞いてウェアウルフは驚いた様子で口を開いた


ウェア「なんだそっちも風邪引きがいるのか、薬はもう買ったのか?」
クドラク「いや、まだだ」


クドラクがそう答えるとウェアウルフは袋の中に手を入れ、小瓶を1つ取り出した
それをコイツをやるよ、と差し出してくる


カシング「いや、我々も後で魔女の店に行き買う予定なのだが」
ウェア「そいつは無理だと思うぜ?」
ジャック「どういう事だい?」


ウェアウルフは差し出す為に掴んだ小瓶を軽く振る
その動きに合わせ中の液体がゆっくりと揺れた


ウェア「ハーレクインだけじゃねぇ、他の連中も具合が悪いみたいでな…そのおかげで魔女の店は大繁盛!俺が買った時点で売り切れちまってるぜ?」
ブラム「む…それは困ったな」


魔女の店で販売されている商品は売り切れることのないようにと常に余分に準備されているはずだ
しかしそれが半日も経たずして完売

つまりはそれだけこの街に風邪が蔓延しているのだと彼らは理解した


ウェア「つーわけでとりあえず今店に行っても暫くは買えねぇだろうからさ!」


ウェアウルフは再度小瓶をブラムへと押し付ける
それは少々強引なもので悩んでいたブラムはその勢いに負け受け取ってしまう


ウェア「余分に買っちまったしこっちは足りてるからそれはやるよ!お前らもうつされねぇように気を付けろよ!」


彼らが口を開くよりも早く、ウェアウルフは元気よく声をあげると共に袋をしっかりと抱え走り去ってしまった




ブラム「……まぁ、彼の好意なのだし…素直に受け取るとするか」


押し付けられた小瓶を懐にしまい込むとブラムは弟達へと向き直る
予定よりも早く購入するはずだった薬を手に入れたのだ
それならば今も寝込んでいるフリッツへ早く届けよう

クドラク達もそれに同意するよう頷いた


ブラム「それでは我々は戻ります、ジャックも風邪にはくれぐれも気を付けて下さい…流行っているようですから」
ジャック「そうだね、君達も気を付けて」










彼らがその場から立ち去るとその場に残されたジャックは暫し考え込む

今朝方の違和感
街の異様な静けさ
住人達の姿があまり見られない原因は風邪だったのか

そこでふとある事が脳裏を過る


ジャック「…サリーは大丈夫かな」


愛しい女性の名前を呟く
ウェアウルフの言葉通りならば、今このハロウィンタウンには風邪が蔓延し多くの住人が寝込んでしまっている
自身やブラム達などは無事ではあるが、サリーがどうしているか

その考えに行きつくと居てもたってもいられず、ジャックは足を進めた

もしかしたら彼女も皆と同じく体調を崩し寝込んでいるかもしれない
ならば誰かが看病をしなければいけない

研究所にいる人物の顔を思い浮かべる

フィンケルスタイン博士
彼は車椅子を使用しており出来る事は限られる

イゴール
優秀な博士の助手ではあるが、彼もまた出来る事に限界があるだろう

例えば栄養をつける為の食事は誰が用意する?
研究所で食事を作っているのはサリーなのだ


研究所へと向かう最中
ジャックの脳裏へ次々と勝手な妄想が膨らんでいく

ベッドに寝込んでしまっているサリー
苦し気に呼吸し肌は汗ばむ



ジャック「大変だ…早く向かわないと!」


声をあげるといよいよ走りだしたジャック
そんな彼を目撃し声をかけてくる者が1人

それはミスターハイドだった

彼は風邪などひいていないらしくゆっくりと歩を進めながら前方から駆けてくるジャックに気付くなり声をかけた


ハイド「おや、ジャックじゃないですか!そんなに急いでいったい何処へ」


しかしハイドが語り終えるよりも早くジャックは彼の横を駆けぬけていく
それはまるで疾風のよう




…速い

一瞬で駆け抜けていったジャックへと語り掛けていたハイドの口は静かに閉じられた
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