病喰鳥




10月31日

今年も無事ハロウィンを迎える事が出来た

例年通り住人達の頑張りもあり、昨年よりも多くの悲鳴を耳にし、皆は大いに喜び騒ぎ立てた



これはそんなハロウィン翌日から始まるお話















昨日あれほど騒ぎざわついていた住人達の声は今は聞こえない



時刻は早朝


太陽が街を取らしだすと同時に住人達が数人家からその姿を現した
自身に与えられた仕事をする為に皆は各自の持ち場へと向かっていく


一方はカボチャ畑へ向かい
またもう一方は運営する店へと向かい


そんな中、細く独特の形をした家の窓が開かれた
他の家と違う形態をした建物に住まう者
そこはジャック・スケリントンの家だった

開かれた窓から細身の骸骨が顔を覗かせる


ジャック「素晴らしい朝だなぁ」


陽光を浴び眩しそうに眼窩を細めた
続いて街の様子を眺め始める

そこには早朝から仕事へと向かう者達の姿
中には此方を見下ろすジャックに気付き笑顔で手を振るものも
それに応えるよう手を振り返し、ジャックはふと違和感を覚えた


ジャック「?…今日はいつもより静かだな」


早朝ではあるものの、自身が起床する頃ならば通常なら今より多くの住人の姿が見えているはずなのだ

しかし視界に映るのは両手で数えて余る程度


ジャック「昨日は皆いつも以上に騒いでいたし疲れているのかな?」


この時のジャックはそう呟くだけでさほど深く考える事なく、とりあえず着替えようと室内へと戻っていくだけであった
















時刻は昼時

仕事を中断した住人達が昼食を取るべく街中の店や自身の家へと向かっていく
そんな中、不審げな表情を浮かべる者の姿


ブラム「ふむ…」


それは吸血鬼ブラザーズだった
黒の衣服に身を包み、陽も出ている事から黒の日傘を差している

しかしこの日の彼らはいつもと何かが違った

3人しかいなかったのだ


普段兄弟4人で行動を共にする彼らにしては、それは珍しい事であった


クドラク「そろそろ昼食時か、我々も何処かの店にでも…」


そう呟いたクドラクだったが兄が何やら考え込んでいる事に気付き、どうしたのかと声をかけた


ブラム「大した事ではないんだが…今日は、やけに住人の姿が少なくはないか?」


その言葉にクドラク、カシングが共に周囲に目を向ける
言われてみれば、確かにブラムの言う通り普段より街中を行き交う住人の姿が少ないように思える
通常ならば昼時ともなれば多くの住人が食事を求め移動する光景が見えているはずだ

常と違うその状況に彼らは不安な思いに駆られた
また何かしらの厄介事が起こったのではないか


すると表情を曇らせていたカシングの視界に見覚えのある姿が映った

それはジャックだ
考え事をしているのだろうか
此方に気付く事なく通り過ぎようとしていた



カシング「ジャック!」


カシングはジャックの名を叫ぶとその傍へと駆け寄った
突然名を呼ばれジャックは立ち止まりようやく此方へと気付いた


ジャック「!ああ、君達か」
カシング「何か考え事でもしていましたか?此方に気付かず通りすぎるとは珍しい」
ジャック「あーうん、ちょっとね………あれ?」


そこでジャックは1つの違和感を覚える
目の前にいる吸血鬼ブラザーズなのだが
1人足りないのだ


ジャック「1人足りないみたいだけど…フリッツはどうしたんだい?」
ブラム「ああ、フリッツは…」




それは今朝方の出来事だった

陽が顔を見せると同時に街に骨鶏の鳴き声がこだまする時間
室内に置かれている4つの黒を基調とした棺
その棺の蓋がギィと音をたて開かれる
中から姿を見せたのは吸血鬼ブラザーズの長男であるブラム

眠たげに小さく欠伸をもらすと、棺から足を踏み出す
目覚めたばかりの彼は喉を潤す為にサイドテーブルに置いていたグラスを手に取った
その中に真っ赤な液体を注ぎ込む

それは血ではない
トマトジュースだった

グラスに顔を近付けその香りを楽しむとそっと口へと含む


ブラム「新鮮なトマトジュースはやはり美味しいな」


すると棺の蓋が開く音
見ると兄弟であるクドラク、カシングが起き上がっていた
彼らもまた喉を潤す為にその身を起こし、ブラムの元へと歩み寄る


ブラム「おはよう、兄弟」
クドラク「ああ、おはよう…?フリッツが起きていないようだが」


見ると残された一番小さな棺
フリッツの棺が閉じられたままだ

カシングは仕方のないやつだ、と棺へ歩み寄りそっと蓋を開いた
中を覗き込むとフリッツが眠りについている

いや、正確には目覚めてはいた


カシング「なんだ、起きているじゃないか…さぁ、出てくるんだ」
フリッツ「……どうか、今日は、このままで」


か細く震えた声
何とか聞き取れる程の弱々しい声量にカシングはトマトジュースを楽しむ兄弟の名を呼んだ

何事かと駆け寄ったブラム達はフリッツの姿を見て眉をひそめる

ブラムはフリッツに額にその手を添えた
まるで氷のように冷たいはずのその身体は妙に熱い
そして彼の青白い肌は微かに汗ばんでいた


ブラム「具合が悪いのか?」
フリッツ「わからない…ただ、熱い…それに、気分がすぐれない…」


通常とは大きく異なる身体の異常
それはまるで風邪でも引いているかのような症状だった

彼らも人間などと同じく病気に侵される事もあるのだ


ブラム「ふむ、風邪かもしれないな…わかった、今日はそのまま休むといい…後で魔女の店へ行き何か薬などを持ってくるとしよう」


ブラムはフリッツの肩を軽く叩くと棺の蓋を静かに閉じた
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