病喰鳥




ジャック「え、病の正体も判明したしこれで治せるんじゃ…?」
カラド「…確かに病の原因は特定できた、しかしただそれだけでは薬を作る事は出来ないのだよ」
博士「ジャック、書物をよく読んでみるんじゃ」

言われるままに書物へと目を通す
数多くの情報が記載される中に彼らの言葉の意味が理解できる文面があった


アカドの散布する瘴気からなる病は特殊な構造故か、発症者から採取した血液などを元に薬を生成しても無意味だ
この病原菌は時間が経過するにつれその構造を作り替える為、薬の効果が及ばない


ジャック「…そんな、薬を作っても効かないんじゃ」
博士「…そうじゃ、ワシにはこれ以上どうしようもない………カラドリウスといったか、詳細がわかれば必ず直す、そう言っておったが………この事実に対し尚、同じ事が言えるか?」


視線がカラドリウスへと向けられる
博士は内心無理だろうと考えていた
話を聞く限り彼は医師であるというが、この病原菌は構造を変え薬を受け付けない特殊なもの

無理だと言うだろう


しかし耳に届いた言葉はそんな彼の思いとは大きく反するものだった


カラド「ワシは優秀な医師なのでな、病の正体が判明したのなら確実に治せる、保証しよう」


よほど医師としてのプライドが高いのか
そう口にしようとした博士だったが、尖り帽から覗くその目を見てその言葉を飲み込む
それは自身に満ち溢れた目だった


カラド「だが、それには他者の手を借りる必要がある…そこで、ジャック」
ジャック「え、は、はい!」
カラド「貴殿に是非、協力してもらいたいのだが…頼めるかね?」


この病から皆を解放する為に
カラドリウスの協力を申し出る言葉
ジャックは勿論、断るわけもなく大きく頷いて見せた


ジャック「はい、それでサリーや皆が元気になるのなら!」
博士「…しかし、どうするつもりなんじゃ?先程も言ったが普通に薬を作ったとしてもそれが効く事は…」


どのような方法を用いるつもりなのか
不思議そうに問いかける博士にカラドリウスはある物を取り出し、目の前へと突き出した

それは迷いの森でジャックも一度目にした袋だった

小さく、外見は所々に紫の不思議な模様が施されている事がわかる
が、言っては悪いがどう見ても古びた袋と言えた


博士「なんじゃねそれは…見るからに薄汚れたただの袋のようじゃが」
ジャック「僕にも普通の袋にしか見えないんですけど」
カラド「確かに、見た目はどこにでも転がっていそうな古びた袋だな…見た目は、な」


楽し気に笑いながらカラドリウスは袋の口元を縛る紐に手をかけた
赤く細い紐が解かれると袋の口が開く

2人はその袋の中を覗く為に目を向けた
中には何も入っていないらしく見えるのは暗闇のみ


カラド「さて、久々に使うのでな…少々試してみるとしよう」


そう告げるとカラドリウスは突然博士の頭部を掴むとその頭を押し上げた
上向く状態となった博士は驚き抵抗しようとするが、頭部を掴むその力は強く彼の動きを簡単に制してしまう


ジャック「は、博士!?」
カラド「安心しなさい、すぐに済む……口を開けなさい」


この鳥は一体何をいっているのだ
博士は現状に混乱し手を払おうとするが、そんな彼に顔を近付けたカラドリウスの嘴が薄く開かれる


カラド「もう一度言おう…口を開けなさい」


その声色は今まで聞いた声とは打って変わって、とても低く威圧感のあるものだった
これまで抵抗を見せていた博士は暫しの間をあけると、彼の言うままにその口を開く

博士が口を開いたことを確認するとカラドリウスは袋の口を彼の口元へと近付ける

するとそこで様子を伺っていたジャックがある事に気付く
彼が手に持つ袋
その袋に施されている紫の模様が薄らと光を帯びているのだ

光ってる…?
その事に気付くと同時にジャックは更に驚くべき光景を目の当たりにする

博士の開かれた口から黒い靄のようなものがゆっくりと吹き出てきたのだ
その靄は一筋の線を描き袋の口へと流れ込んでいく

ジャックだけではなく博士もその事に動揺していた
自身の口から得体の知れない靄が出ているのだ
再び暴れだす博士をカラドリウスは強く押さえつける
黒い靄はその間も暫しの間吹き出し続けている



カラド「…よし、これで終いだ」


博士の口から黒い靄が最後まで出尽くしたのを確認すると、カラドリウスはその頭部から手を離し素早く袋の口を縛った

突然解放された博士はバランスを崩し車椅子ごど倒れ込んでしまう


ジャック「博士!」
カラド「む…大丈夫かね?」


ジャックは慌てて駆け寄ると倒れ込んだ車椅子を引き起こす
博士が無事である事を確認するとほっと一息つく
それを確認したカラドリウスは袋を軽く揺らし、そのまま懐へと仕舞いこんだ


博士「な、いきなり何をするんじゃ!乱暴な奴め!!」


博士は起き上がるなり強く掴まれていた頭部を擦り思わず大声で喚き散らす


カラド「あまりに暴れるものでついな」
博士「つ、ついじゃと!?貴様いったい………ん?」


対して悪いと思っていないらしいその態度に怒りを露にしていた博士だったが、突然黙り込むと自身の身体をペタペタと触り始める


ジャック「博士、どうかしましたか?」
博士「……治っとる……身体の熱が引いておるし、苦しさもない」


その言葉を聞きジャックは博士の額に手を添えた
骨の手に伝わる熱は、病に苦しんでいた際の燃えるような熱さを全く感じなかった


博士「ど、どういう事じゃ…何をしたのじゃ!」
ジャック「…咳もしていないし、一体何をしたんですか?」


彼らが不思議に思うのも最もだった
そこで二人がふと気にかけたのはカラドリウスの持っていた先程の袋だ
博士の口から突如噴出した黒い靄を飲み込んだ袋


何が起こったのかわからずとにかく戸惑う二人の姿を見てカラドリウスはたまらずに笑い出した
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