美麗なる舞姫
陽もすっかり落ち夜の帳が下りる時刻
空に浮かぶ月の明かりがハロウィンタウンを照らす
普段から住人が騒ぎ賑わうのだがこの日はいつもと少々違っていた
何やら住人達がとある建物の前に集い始めている
そこはこのハロウィンタウンで人気の高い酒場
普段から食事をし酒を飲みかわす場として皆が訪れ賑わう場所
しかし今回ここへ訪れた住人達の目的はそれ以外のものであった
「おいまだかよ!」
「はやく入れろ!」
店の前に集う住人達から聞こえる声
見ると店の扉は未だ開いていない
どうやら準備中のようだ
町長「こらこら!大人しく待っていなさい!」
住人達の騒ぎ声でざわつくその場を静める為、大声をあげたのはメイヤーだった
町長としての立場から皆を落ち着かせなければならない!
しかし彼の声は皆の耳に届く事はなく、未だに場はざわついている
その変化の無さに酷く項垂れてしまう
町長「まぁ、皆の気持ちもわかりますがね…」
そう呟き顔をあげると視線の先には酒場の入り口
メイヤーもまた皆と同じ目的でこの場を訪れていたのだ
彼らの目的
それは
「あ!開いたぞ!!」
住人の一人が声をあげ、皆が一斉に静まり返った
見ると酒場の入り口がゆっくりと開かれていく
それを見るなり皆は一斉に走り出した
酒場の中へと次々に駆け込んでいく
私が声をあげても聞きもしなかったのに
町長「私、一応…町長なんですけど…」
その現実を突きつけられ、ますます項垂れてしまうメイヤー
するとそんな彼の肩に何かが触れた
なんだろうと振り返るとそこには細長い足
見上げるとそこにはジャック、そして後方にサリーの姿が見えた
ジャック「町長、こんなところでどうしたんですか?」
町長「ちょっと悲しみに暮れて…い、いえ!ところでジャックとサリー、こんなところで何を?」
サリー「今夜この酒場でショーがあると聞いたので見てみようという事になって」
ジャックやサリーも他の者達と同じ目的でこの酒場を訪れていた
酒場で行われるショー
それは例の旅の一座のものだった
サリーは手にしていた一枚の紙を見せる
それは一座のショーを宣伝する広告
それをみてメイヤーも懐から全く同じ紙を取り出した
それは今日、一座の男達の手によって街中にばらまかれた物
他の住人達も同じものを見て酒場を訪れていたのだ
ジャック「町長もショーを見に来たんですね」
町長「え、ええ!彼女が出るのならば是非見なければ、と…」
顔を赤くし徐々にその声は小さく掻き消えていく
メイヤーを見て不思議そうに首を傾げるジャック
するとそこで突然複数の大声が聞こえた
声のする方を見ると酒場の中
どうやら何かが始まったらしい
サリー「もしかしてショーが始まったのかしら」
町長「こ、こうしてはいられない!急がなければ!!」
メイヤーは声をあげると共に広告を握りしめ酒場の中へと駆け行った
ジャック「町長は何を急いでいるんだろう」
不思議に思いながらもジャックとサリーもその後に続き中へと足を運んだ
酒場の中は照明が落とされ薄暗く、住人達はそれぞれ椅子にこしかけ酒や食事を持ちある一点に視線を集中させている
皆の視線の集まる場所
それは大きなステージだった
普段はそのステージで不気味な演奏が奏でられ皆の耳を楽しませている
しかし今回そのステージ上には一人の男性が立っていた
中へと入ったジャックはステージ上に眼をやる
スポットライトに照らされる男性の顔を見るやある事を思い出した
それはフールの家へ行った際の事
あの美味しい茶を出し語り合った男性の姿だった
「皆様ようこそお越しくださいました!今宵は我ら一座のショーを是非お楽しみください!!」
一頻りの挨拶を終え軽くお辞儀
すると突然照明が落とされた
酒場内が暗闇に包まれ皆が静まり返る
ふと耳に聞こえる何かの音
それはフルートの音色
ジャック「始まるね」
暗闇の中、空いている席へ腰掛けたジャック達はステージを見つめた
フルートの音色が酒場内に響き再び静まり返る
すると続けていくつものスポットライトがステージ中央を眩しく照らした
そこには先程の男性の姿はなく片膝をつき俯く1人の女性
フェイスベールに包まれたその顔はフールだった
深紅の生地で作られた衣装の各所に宝石がいくつも装飾され、ライトの明かりを受け美しく輝いている
フールが静かに顔を上げる
その途端再び楽器が奏でられ始めた
緩やかな美しい旋律
その音色に合わせフールが舞い始める
1つ1つの動きが艶めかしく、舞うにつれ長い金の髪が輝き揺れる
フールの舞う姿にその場にいる住人達は
思わず見惚れ黙り込んだ
なんと美しい…
勿論メイヤーも皆と同じ思いを抱き呟いた
それを見つめるジャックやサリーも素晴らしいと賞賛の声をあげる
曲調が変わり軽快な音楽に軽やかなステップ
続いて勇壮な音楽と共に力強い動きを見せ始める
やがて再び局長が緩やかなものに戻ると共に幻想的な音色が皆の耳へと届けられる
フールがしなやかな動きでその場で一回転するとその動きに合わせケープが靡いた
動きだけでなくその表情は見る者達をいともたやすく魅了する程の艶やかなものだった
曲がやむとフールが住人達に向かって一礼
その場は暫し静寂に包まれていた
パチパチパチ
拍手の音が一つ
音の出所
見るとそこには立ち上がり拍手するメイヤーの姿
町長「とても素晴らしいショーでした!!」
絶賛する声を聞き住人達も暫しの間をあけ一斉に立ち上がり一座に向け快哉を叫んだ
酒場内が多くの声と拍手の音に包まれ一座の面々は大いに喜び皆に向け再び一礼
一座の中心に立ち男達と同じく一礼をするフール
フェイスベールの下に隠された赤い唇が怪しい笑みを浮かべていた