美麗なる舞姫






ブギー「おいガキ共!飯だぞー!」


鍋をカンカンと叩く音と共にブギーの声がツリーハウスにこだまする
するとそれに答えるかのように聞こえてくる複数の駆ける足音


ロック「親分の!」
ショック「作った!」
バレル「ご飯だーっ!」


そこに現れたのはブギーの手下である小鬼達
また外で悪さでもしていたのだろうか、見ると皆の身体には蜘蛛の巣や土埃がついている

しかし彼らはそんな事などお構いなし
一斉に席につくとスプーンを握ってそわそわとブギーを見上げた


ブギー「今日は俺様特製のカエルと蜘蛛のシチューに…」


そう言って背後から袋を取り出す
小鬼達はこれはいったい何だろうと不思議そうに袋を見つめた
よくよく見ると袋の中心に何やら渦を巻いたような印刷が施されている

それを確認した瞬間、小鬼達の顔が喜びの色に染まった


ロック「あの店のご飯だ!」
ショック「あそこのご飯大好き!!」
バレル「親分のシチューに店のご飯!オレの大好物ーっ!!」


ブギーが袋から料理を取り出すと小鬼達が
素早く飛び掛かった
各々が美味しそうに料理を口へと運び忙しなく咀嚼する

そんな光景を眺め満足そうな様子のブギーだったが、ふと視界に何かが映った事に気付く

いったいなんだ?

眼をやるとそこは窓
更にそこから此方に手を振るジャックの姿

それを認識した瞬間ブギーの足が素早く動いた
全力で窓を開け口を開くと同時に大声をあげた


ブギー「ジャーック!!てめぇそこで何してやがる!まさかまた窓を突き破るつもりか!!」
ジャック「落ち着きなよ、窓を突き破るつもりなら僕は既に中にいると思うけどね」
ブギー「…それもそうだな」


その冷静な言葉に我に返ったブギーは手に持ったままのお玉を見ると素早くジャックに突きつけた


ブギー「じゃあ何の用だってんだ!俺はこれから飯を食うんだ、てめぇに構ってる暇はねぇぞ!」
ジャック「ああ、それなら大丈夫」


ジャックは笑顔で告げながら長い足で軽々と窓枠を跨ぎ室内へと侵入してきた
入口となった窓をしっかりと閉じるとその侵入者は悪びれた様子もなく食事中の小鬼達に軽く挨拶
その様子を呆然と眺めていたブギーは再度我に返り慌てて侵入者の襟首をつかんだ


ブギー「おい、お前は俺の話を理解してるのか?してないよな!?」
ジャック「理解しているよ、だから食事をする君に僕が話を聞かせるんだ、これならお互いに何も問題なんてないだろう?」


俺はゆっくり飯を食いたいんだよ!!!


すると目の前に骨の手が差し出された
その手の中にはスプーンが一つ


ジャック「はい、遠慮なく食事してくれ」


コイツに何を言っても無駄だ

今に始まった事ではないが改めてその事を認識し、ブギーは諦めてそのスプーンを受け取った














ブギー「で…話ってのは何なんだよ」


食事を終えた小鬼達が「遊びに行ってくる!」と外へ駆け出して行った後
ブギーが向かう机の上には深めの皿に盛られたスープに店で買った料理

そんな最中スープに手をつけながらブギーが静かに声をかけた

向かいの椅子に腰掛けているジャックは机に並ぶ料理をおいしそうだなぁと見つめている
考えてみるとまだ昼食を済ませていない


ブギー「おい、話が無いってんなら今すぐ帰りやがれ!」
ジャック「え?ああ、話ね」


ようやく話す気になったのかよ…

ジャックが訪れて10分も経っていないはずなのに、何故かブギーはすっかり疲れ切ってしまっていた











ジャック「実は君に言われた事が気になってね」
ブギー「俺が言った事?」
ジャック「………彼女、フールの事だよ」


そういえばそんな事言ったな

鼻歌交じりに料理をしている最中にすっかり忘れてしまっていた


ブギー「なんだよ、結局気になってたんじゃねぇか」
ジャック「だって君があれだけ気にするって事は何かあるって事だろう?」


ジャックの言葉にブギーのスプーンを掴む手が止まる
いつものコイツなら俺が何を言おうが知らぬ存ぜぬを通すはずだ


ブギー「珍しい事もあるもんだな、お前が素直に俺の言葉を信じるなんて」
ジャック「まぁ普段なら無視するけどね、ただあの時の君は酷く真剣な様子だったから…そういう時の言葉は信用してもいいと思っている」


普段から平気で嘘をつき信用性のないブギーの言葉ではあるが、それが常にそうであるとは限らない

ジャックはその事を理解していた


ブギーは皿に残ったスープを一気に飲み干すと満足そうに自身の腹を擦りながら背もたれに身を預ける


ブギー「で?あの女と話でもしたのか?」
ジャック「ああ、彼女達の家に行って話を聞かせてもらったよ」
ブギー「…どうだった?」


すると突然ジャックが大きく身を乗り出してきた
突如縮まった距離にブギーは思わず身を固める


ジャック「それがすごかったんだよ!今まで訪れた街の面白い話を色々聞かせてもらってね!僕も行きたいと思ってしまったよ!」
ブギー「…お前、何を聞きに行ったんだよ」


あの女の素性を探りにいったんじゃねぇのかよ…

呆れた様子のブギーに気付くと冷静さを取り戻し気を取り直すように軽く咳払い
再び椅子に身を預け軽く腕を組んだ


ジャック「まぁそれは他の連中に聞いた話なんだけどね、でもその後に彼女が戻って来たからちゃんと話はしてみたよ」
ブギー「最初からそれだけ言えよ…」


ジャック「彼女は僕がいた事に酷く動揺していたね、まぁ突然の訪問だし無理もないけど」
ブギー「で、素性は?」
ジャック「流石に直接問いただすわけにはいかないからね、ごく普通に接してはみたけど……君の想像通り、彼女は怪しいね」


ジャックが彼女、フールとの会話の際に感じた事を淡々と告げた
それを聞きブギーの表情が徐々に渋みを増す

此方へと向けられた鋭い、敵意のある視線
そんな彼女の様子に怯え恐怖する周囲の男達

それは一座のただの女性と言うには違和感のあるものだった


ブギー「他に何か異常はなかったのか?」
ジャック「いや、特には」
ブギー「…触れられたりしなかったか?」
ジャック「あ、そういえば」


手を重ねられた事を思い出したジャックは素直に頷いた
しかしブギーの言う異常が何なのかがいまいち理解できない
特に何も感じる事はなかったし…
ジャックは不思議に思い首を傾げた


ジャック「君の言う異常とは一体何なんだい?」


その問いかけにふと自身の手を見つめる
店を訪れた際に触れられた手

あの時感じた身体が燃えるような感覚


ブギー「あの女に触れられた途端、まるで全身焼けちまうみてぇに熱くなった…どう考えても異常だろ」
ジャック「身体が熱く、ねぇ」


確かに触れられた途端そのような事が起こればおかしいと思うのが当たり前だ
そう考えながらブギーの手に視線を落とす
見たところ気になる外傷は見られない


ブギー「絶対何かあるぜ、あの女…注意しておかねぇといずれ面倒な事が起こるだろうな」
ジャック「へぇ…君がそんなに心配するなんて珍しいね、どういった風の吹き回しだい?」
ブギー「てめぇや街の連中がどうなろうが知ったこっちゃねぇ、ただ俺やあいつらにちょっかいだされたら面倒だからな」


あいつら
それは勿論先程までこの場で食事を楽しんでいた子分、小鬼達の事だ

身内には本当に優しい奴だな

それはろくでなしのブギーの唯一と言えるいい所だ
ジャックはクスリと笑みを浮かべた


ブギー「まぁ俺もちっとは探りをいれておいてうやる、てめぇも何かわかったら教えろ、いいな?」
ジャック「わかったよ、優しいブギーさん」
ブギー「はぁ!?喜色悪い事言ってんじゃねぇ!」


動揺し思わず机を壊れんばかりに殴りつけ怒鳴りだすブギー
そんな姿を見てジャックは思わず声をあげて笑い出した
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