美麗なる舞姫




一方ダウンタウンでは

食事を終えたメイヤーとフールの二人が店前で楽し気に会話を楽しんでいた


フール「とても素晴らしい食事でした、ありがとうございます」
町長「ええ本当に!私もこれほど楽しい食事は久しぶりでしたよ」
フール「ふふ、では私はそろそろお暇しなければ…家に戻らなければ今頃一座の皆が心配しておりますので」
町長「おお、それはいけません!ではその…よろしければまた今度、一緒に食事などいかがです?」


フールはその問いかけに笑顔で頷いて見せた
その反応を見るやメイヤーの表情が明るさを帯びる
それはハロウィンタウンには少々似つかわしくない、まるでサンサンと輝く太陽のようだった

メイヤーは元気よく手を振りその場を離れるのを笑顔で見つめる
そしてその姿が見えなくなるとフールの表情は先程とは一変しまるで氷のような冷たさを纏った


フール「ふぅ…全く、簡単な男ね」


溜息を洩らしながら足を進めだす
目指すは一座が借りている家


フール「でもジャックを狙うのならあの男は使えそうだわ…仮にも町長という立場だし」


1人呟きながら自然と口元に笑みが浮かぶ
これであの骸骨男に簡単に近付く為の手駒が増えた

さぁ、次はどうしようかしら
とても楽しみ


フール「それにしても思ったより遅くなってしまったわね、あの子達心配しているかしら…急いで戻ってあげないとね」


歩く速度が自然と早くなる
家を目指すべく目の前の角を曲がった

そこで突然フールの身体が何かと接触し、思わず尻もちをついてしまう

一体何が起きたのかと眼前を見やる
するとそこには一人の少女が自身と同じく尻もちをついていた


サリー「いたた…」


それは全身つぎはぎだらけの人形だった
赤い髪に青みがかった肌
買い物の帰りだったのだろうか、周囲を見ると転がったバスケットに野菜や果物の数々が散らばっている


サリー「…あ!」


一方サリーは目の前に尻もちをついている見知らぬ女性に気付くと声をあげ慌てて立ち上がった
傍へと駆け寄りそっと手を差し出す


サリー「ご、ごめんなさい!私急いでいたものだから」
フール「…いえ、ワタシも急いでいたものだから…ごめんなさいね」


その手を掴み立ち上がると自身の乱れた髪を軽く払う
フールの仕草を見てサリーは思わず小さな溜息を洩らす

とても綺麗な人

色白の肌に輝く金の髪
女性であるサリーの目からしても目の前の女性は魅力的だった

そんなサリーの視線に気付き笑みを浮かべる
そこで足元に転がっているリンゴに気が付いた
フールは身を屈ませそのリンゴを手に取る


フール「これ、貴女の物よね?」
サリー「え、あ!そ、そう!買い物の帰りで…」


女性の手から慌ててリンゴを受け取ると転がっている古びたバスケットの中へと仕舞いこむ

フールは立ち尽くしたまま続いて転がっている食料を拾い始めるサリーを暫し眺めた

少々みすぼらしいけれど可愛らしい子ね

目の前にある姿
身体と同じくつぎはぎだらけの衣服
ワタシの衣装を着せてあげればもっと輝くのに

赤く長い髪
もっと手入れをして飾り付ければ誰もがどんな男でも虜に出来る魅惑の髪になりそう

落ちた食糧を見る顔
長い睫毛をそのままにもう少し化粧を施せばどんな相手も振り返る素晴らしい女になるわ


そんな事を考えていたフールだったがふと語り掛けてくる声に我に返った
食料を拾い終えたのだろう、バスケットを抱えたサリーが申し訳なさそうに此方を見つめていたのだ


サリー「本当にごめんなさい、怪我はない?」
フール「え、ええ…大丈夫よ」


先を急いでいるのだろうか
相手の無事を確認すると軽く頭を下げその場を駆けだそうとする


しかしサリーの足はそれ以上進む事はなかった
腕を掴まれ静止されたのだ
見るとそこには女性の手

やはりぶつかった事を怒っているのだろうか

そんな不安に駆られるがサリーの予想とは違い女性の表情には笑顔が浮かんでいた


サリー「あの…」
フール「ちょっと待って」


すると女性はサリーへ距離を詰めた
身体が触れ合う程の距離にサリーは思わず身を固める
腕を掴んでいた手がスルリと頬へと添えられた


サリー「ご、ごめんなさい…やっぱり怒って」
フール「髪が乱れているわ」


そのまま頬を一撫でした色白の手が次いで赤い髪へと流れるように移動する
指先で髪を撫で、そのまま顔にかかった赤髪を払った


フール「折角可愛らしいのに台無しだわ、身なりはしっかりと整えて…ね?」
サリー「…え、ええ」


眼前に見える赤い唇が言葉を発するに合わせて動作する
その動きにサリーの眼は釘付けとなった
自身の頬が熱くなるのを感じる


フール「…じゃあね」


そんなサリーを見やるとフールは更に距離を詰め耳元で一言囁いた

すっかり固まってしまっている彼女をその場に残しそのまま通り過ぎていく

女性の手が離れるのと同時に我に返ったサリーは弾かれたように振り返った

女性はコツコツとヒールを鳴らし立ち去っていく


1人きりになったサリーは先程の女性の言葉を思い出し自身の赤い髪に軽く触れた






家へと向かう最中

サリーの赤みを帯びた表情を思い出すと思わずクスクスと小さな笑い声をあげる


とても可愛らしいお人形、気に入っちゃった


ご機嫌な様子で思わず足取りが軽くなる
彼女は喜色満面の表情だった
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