美麗なる舞姫




店を追い出されてしまったブギーは荷をしっかりと抱えながら不満そうな表情を浮かべていた

その原因は先程の出来事
メイヤーの態度も多少苛立ちはしたものの、それよりも気になるのはあの女性、フールの事だ

彼女に触れられた自身の手を見つめる
接触した際に感じた異変は今はもう感じられない

ふと店の窓に視線を移すとそこにはフールとメイヤーが会話する姿
それを確認しブギーは静かにその場をあとにした

取り合えず戻らなければ
可愛い子分達が腹を空かせて待っているのだ

住人達が行き交う街中を突き進む

暫く歩いていくとある姿を目撃し足を止めた



ジャック「あれ、ブギーじゃないか」


目撃した姿、それはジャック
嫌な奴に会っちまった…
先程の出来事もあり早く家に戻りのんびりしたいと考えていたブギーは声をかけてきた彼を無視し横を突き進もうとした
が、暫し考えた後その場に立ち止まる


ブギー「おい、お前に聞きたい事がある」
ジャック「僕に聞きたい事?」
ブギー「昨日旅の一座が来たらしいな」


その問いにジャックは素直にコクリと頷いて見せた


ジャック「そうなんだ、暫くの間この街に滞在する事になってね」
ブギー「…その中に女がいるだろ」
ジャック「いるけど…あ、まさか変な事をしようとしてるんじゃないだろうな?」


腰に手をあてブギーを睨みつける
彼の言う女性とは勿論一座の紅一点であるフールの事だろう
ジャックの目から見ても美しい女性だ
そんな彼女の事を尋ねるブギーに少々不信感を抱く


ブギー「別にどうこうするつもりはねぇよ、ただ…ちっとばかし気になる事があってな」


気になる事
それは彼女の素性
触れられた際のあの違和感
あのような異変を感じたのは初めてだ
果たしてただの旅の一座の者で済ませていいものだろうか


ジャック「気になる事、ね…ちなみにどんな事なんだ?」
ブギー「お前、あの女の事をどこまで把握してるんだ?」
ジャック「把握も何も旅の一座としか…何かあったのか?」


どうやらジャックは何も知らないようだ
先程の出来事を話してみようか


ジャック「ブギー?」
ブギー「いや…お前の目からして何か問題がありそうな奴らか?」
ジャック「問題?……いや、特には…とても礼儀正しい人達だったけど」


接した際の記憶を呼び起こし考えるが特に怪しいと思える点はなかった
彼女達は礼儀正しく敵意を感じる事もなかったのだ


ブギー「そうか…お前がそう言うなら一応信じてやる」


そう告げるとブギーは荷を抱え直し歩き出した
立ち去る彼の後ろ姿を暫し不思議そうに見つめた後、ジャックも再び歩き出す

コツコツと靴音を鳴らしながら進むジャックは1人考え込んでいた
先程のブギーの言葉が妙に引っ掛かるのだ

何を不審に思っていたのだろう

彼に告げたように彼女達に対し特に違和感など感じる事はなかった
ならばブギーの考え過ぎか

しかしジャックは自らのその考えを否定した

ブギーは色々と厄介な奴ではある
質の悪い行いをする所謂悪者であり嫌われ者

そんな彼が嫌っているはずの自身に問いかけてきた
その様子はいつもの相手をからかうような苛立つものとは違い、真剣そのものだった

詳しい話は聞く事が出来なかったが何かしら問題があった事はわかる


ジャック「…彼女に問題、ねぇ」


腕を組み暫し悩んだ後、ジャックは何か決意した様子で顔をあげるなりその場をあとにする


何も問題はないと思うけれど、念のために一度彼女達の話を聞いてみよう


ジャックは一座が住む家があるダウンタウンへと向かった













ダウンタウンのとある一軒家
家中では一座n所属する男達が各々自由に活動していた
楽器を奏でる者
仲間と語り合う者
食事を口にする者

そんな彼らはふと聞こえた音にピタリと動きを止めた

それはこの家の呼び鈴だ

すると楽器を奏でていた男が立ち上がり静かに扉の前に立った
それと同時に片手を自身の腰へと伸ばす
そこに見えるのは一本の短剣


「…はい、どなたでしょうか」


短剣の柄を握りしめ扉越しに声をかける
その様子を他の男達が無言で見つめていた


ジャック「やぁ、ジャック・スケリントンだ!すまないが少し君達に話があってね!よかったらここを開けてもらえないかな?」
「ジャック・スケリントン…?」


その名を聞くと男は柄から手を離し、ゆっくりと扉を開いた
そこに見えたのは燕尾服に身を包んだ細身の骸骨男の姿


ジャック「突然すまない、もしかしてお邪魔だったかな?」
「いえ…まさか訪問者がいるとは思わなかったもので…さぁ、中へどうぞ」


男は薄らと笑みを浮かべ目の前の男を中へと招き入れる
ジャックはその招きを素直に受け入れ中へと足を踏み入れた


リビングへと通されたジャックは目の前の光景を見て思わず声を漏らした

そこに見えたのは多種多様の楽器や見た事もないような衣装の数々
どれも細部まで作り込まれた代物で見た事もないものばかり
思わず目移りしてしまう程の素晴らしいものだった


ジャック「これは凄い!」
「それらは各地で仕入れた物、我々一座が演舞を披露する際に欠かせないのです」


物珍しそうに見つめるジャックに声をかけながら男がカップを差し出した
中には黒く微かに波打つ液体
その香りを嗅ぐと珈琲である事がわかる


ジャック「ありがとう…そういえば彼女はいないのかい?」
「彼女…ああ、フールの事ですか!生憎外出しているのですが」


いないのか…さてどうしたものか

フールを訪ねたものの当の本人がいないのでは
しかしせっかくこの家を訪れたのだ

ジャックは男を椅子へ腰掛けるよう促した


ジャック「なら仕方ないな、では君に話を伺う事にしよう」
「話…一体どのような」
ジャック「なに、君達の事をよく知りたいと思ってね」


差し出されたカップに口をつける
普段飲む物とは違いそれは濃くしっかりとした味わいでジャックの喉にすんなりと流れ込む


ジャック「君達が旅の一座という事は昨日知ったが、それ以外の事はまだよく知らないだろう?」
「…我々を怪しんでおいでですか?」
ジャック「そうじゃないさ、ただ僕はどうも好奇心が旺盛らしくてね…君達は様々な街を巡って来たんだろう?旅の話を聞いてみたくなったんだ」


それは嘘ではなかった
確かに本来の目的はブギーのあの一言からなる彼女達一座の素性を知るため
しかし旅の話にも興味がわいていた
あれほどの見た事もない代物の数々を見せられたのだ
好奇心がわいても無理はない


「なるほど…わかりました、フールは不在ですが我々でよければお話いたしましょう」
ジャック「よろしく頼むよ」
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