美麗なる舞姫




町長達が訪れたのはとある一軒の店
大都市を中心に様々な街に出店し多くの客に人気のレストランだった
ハロウィンタウンに店を構えまだ日は浅いが、店主の出す食事はどれも住人達の舌を十分に満足させるものばかりでメイヤーも常連客の一人となっていた


店主「おや町長!いらっしゃい!今日はえらく美しい女性をお連れですねぇ羨ましい!」
町長「おはようございます!昨日街を訪れた旅の一団の方でして…」


フールは気さくな印象の店主へ笑顔で挨拶をかわす
その美しさに店主も思わず見惚れてしまう


町長「何にしましょうか…うーん、店主のお任せでお願いできますか?」
店主「大丈夫ですよ、じゃあお二人は席に座って座って!」


店主に促されるまま二人は窓際の席へと腰をおろす
窓から差し込む陽があたたかい


町長「ここの料理はどれも絶品ですからね、フールさんもきっと満足すると思いますよ!」
フール「まぁそうなんですか、楽しみです」


そのまま他愛のない話を交わしていると2人の元へ店主が料理を運んできた
見た目はどれも洒落たもので香りは食欲をそそり出来立ての湯気が次第に2人の視界を覆う


店主「さぁ店主のおすすめ料理をどうぞ召し上がれ!」
フール「どれもとても美味しそう!」
町長「さぁさぁ!どれでも好きな物を食べて下さい!」


どれにしようかしら
手前の更に盛られた料理をふと見つめる
人面蟹の身を使用した炒め物だ
木製のスプーンを手に取るとそっと一口


フール「ん…とても素晴らしい味!今まで多くの街を訪れてきましたけどこれは本当に美味しいです!」
店主「いやぁ~貴女みたいな美女に褒められるとは嬉しいねぇ!」


3人で和気藹々と言葉を交わしながら食事を続ける
するとそこで店の扉が開かれた
来客だ


店主「おっとお客さんだ、いらっしゃい!」
ブギー「よぉ」


訪れた客
それはブギーだった
町長はその姿を見るなり驚き思わずむせ返った


店主「おやブギーさんいらっしゃい!今日はあの小さな子達はいないのかい?」
ブギー「まぁ飯を買って帰るだけだからな、あいつらは今日は留守番だ」
店主「ああなるほど」


住人達が料理目的で訪れる中、ブギー達も例にもれずこの店を何度か利用していた
何かと味にうるさいブギーだが他と変わらずこの店の料理を評価しており、小鬼達を連れてきた事があった


店主「持ち帰りだね、いつものでいいかい?」
ブギー「ああ、頼む」


店主は了解したと準備をする為に店の奥へと姿を消した
料理が出来るまでの間その場で待つこととなったブギーはカウンターの椅子に腰掛けようとし


ブギー「…あ?」


そこでメイヤーがいる事に気付き動きを止めた
カウンターから離れると一直線にメイヤーの元へと向かう


ブギー「よぉ、お前もここで飯食ってんのか」
町長「え、ええまぁ…」


普通に声かけただけでびびってんじゃねぇよ
そう告げようとしたブギーだったが向かいの席に座るフールの存在にようやく気付いた
見覚えのないその人物を不審に思い問いかける


ブギー「随分と綺麗な女を連れてるじゃねぇか、メイヤーのくせに」
町長「く、くせにとはなんですか!」
ブギー「女と無縁なお前が女を連れてるとなるとそうとしか言えねぇだろ…ところで名前はなんて言うんだ、お嬢さん?」
フール「フールと申します、どうぞよろしく」


フール
その名を聞きながらブギーは珍しそうに彼女を眺めた
ブギーを目の前にしながら怯えた様子一つなく、問いかけに対しても動揺などもせずに答えたのだ
此方の目をまっすぐ見つめながら

随分と肝の据わった女だな

そのような反応を示す女性を見た事がなかったブギーは興味がわいたのか彼女の隣にどかりと座り込む
そして頬杖をつくなり躊躇なく声をかける


ブギー「フールってのか、俺はブギーだ」
フール「ブギーさんですか」
ブギー「おう、ところでアンタ何処から来たんだ?この街じゃ見た事ねぇしよそ者だろ?」


メイヤーはフールに問いかけはじめるブギーを見るなり何とか追い払おうと一瞬立ち上がるが、暫しの間をあけ静かに腰を下ろすこととなる
何せ相手はあのブギーだ
此方が注意したところで相手にもしないだろうし実力行使なども出来るはずなどない

せめて彼女によからぬ事をしないようにだけはしなければ…



フール「各街を旅する一座の者です、昨日この街を訪れ暫くの間滞在させていただく事になりました」
ブギー「へぇ…何か芸でも披露するってのか?」
フール「街の人々へ曲を奏で舞を披露しております、出来れば今夜皆さまに見ていただければと」


フールの話を聞きながらブギーはチラリと彼女を眺める
美しい顔に無駄のない身体
そしていきついたのは彼女の長い足
衣装から覗くその生足は非常に官能的で無意識に麻袋の手が伸びる

しかしその手は足に触れる事はなかった
触れる直前に色白の手が阻止するように触れたのだ


フール「ブギーさんったら……初対面の女性の足にいきなり触れようだなんていけないわ」


その囁きと共にブギーは違和感を覚えた
フールの触れる箇所が熱い
それはまるで体の内から燃えるよう
その異変を感じ咄嗟に触れる手を振り払う


フール「きゃっ!」


乱暴に振り払われた手を守るかのように抱き距離を置く
そんな彼女を一度睨みつけ、解放された自身の手を見つめる
未だ熱いものの特に目立った外傷はない


ブギー「おい、お前…」
町長「ブギー!!」


問い詰めようとしたブギーだったが目の前に現れたメイヤーの顔に言葉を飲み込む

相手が恐ろしい相手であるため傍観するのみであったメイヤーであったが、彼女の手を乱暴に振り払う様を目の当たりにし考えるよりも先に身体が動いていた
勢いよく身を乗り出し彼女を守るように2人の間に割って入る形となる


町長「女性に対し乱暴を働くとは…ゆ、許しませんよ!!」
ブギー「はぁ?」


メイヤーのくせに俺に喧嘩を売ってきやがった

その行動に少々イラつき睨みつける
ブギーの鋭い視線を受け恐怖から身震いするものの負けてなるものかと自身を鼓舞する

その行動に更に苛立ちが募る
しかし相手はあのメイヤーだ
自分をどう思おうが別に何かされるわけでもない
というより出来るはずもない


…いちいち相手をするのは面倒だ



店主「お待たせ!…っておいおい何やってるんだ!!」


料理の入った袋を抱え店の奥から姿を見せた店主は睨み合う二人を見るなり慌てて駆け寄った


店主「店内で喧嘩なんてやめてくれ!ほら、料理は詰めたから帰った帰った!」


袋をブギーに押し付けると出て行けといわんばかりに入り口を指差した
腕の中の袋を確認するとブギーは小さく舌打ちし立ち上がる

突然立ち上がったブギーに思わずびくつくが此方に構う事なく無言で店を出て行ってしまった


店主「全く……」


ブギーが出て行くのを確認し一息ついた店主はぶつぶつと小言を漏らしながら再び店の奥へと姿を消した



フールと2人きりとなった途端緊張の糸がほぐれたのかメイヤーはぐったりと背もたれに身を預ける
それもそのはず、あのブギーに対峙したのだ

お、恐ろしかった……っ

ふと自身の手を見つめる
その手は恐怖から小刻みに震えていた


フール「町長さん」


色白の手がそっと震える手に重ねられた
その接触を受けメイヤーの顔が一気に朱に染まる


フール「助けてくれてありがとう…とても怖かったわ」
町長「あ、い、いえ…」


照れ臭そうな笑顔を見せるメイヤーを見つめながら触れた手の甲をゆっくりと撫でる
身体が熱い
その異変を感じ戸惑いを見せたが抵抗する間もなくメイヤーの視界がぼやけた


フール「貴方はとても役に立ちそう…ワタシの為に色々と頑張ってもらいたいんだけれど、いいかしら」


メイヤーは言葉を発する事なくただコクリと一度頷く
それを見てフールは怪しい微笑みを浮かべた
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