美麗なる舞姫
賑わっていた広場も住人達が自宅へと各々帰宅した事によりようやく静まり返った
皆の帰宅を見届け終えたメイヤーもそろそろ自分も戻ろうかとダウンタウンへと歩き出す
フール「町長さん!」
突然名を呼ばれその場で振り返る
フールが此方へと駆け寄って来たのだ
何か用なのだろうか
町長「フールさん、どうしましたか?」
駆け寄って来たフールは一度呼吸を整えるとメイヤーの前でその身を屈ませた
近付くその距離に驚き思わずその身を固める
フール「よかった、貴方に言いたい事があって…」
町長「わ、私に言いたい事…一体なんでしょうか」
どんな言葉をかけられるのかと考えながら問いかける
しかし彼女はどうした事かなかなか口を開かない
それほど言い辛い事なのだろうか
町長「あの、ここでは言いにくい内容なんでしょうか…それならばまた後日別の場所で」
フール「いいえ、今じゃないと駄目なの………その、ありがとう」
ありがとう
感謝の言葉だとは理解できるが何故それが自身に向けられているのかメイヤーは理解できずにいた
フール「あの時貴方はワタシを守ってくれたわ、相手は王…普通ならあんな事出来ないでしょう?逆らう事になるんだもの」
確かに彼女の言う事は正しい
普段から何かと接する事の多いジャック
常の彼は見るからに王とは思えないほどの親しさをもって皆に接しており、自身も時々彼が皆のキングなのだという事を忘れてしまう事もある
その彼がフールを罰しようとした際に中断させるかのように割って入ったのだ
今思うとよくあんな事が出来たなぁと考えてしまう
フール「ワタシ、最初から貴方を利用しようと思って接触していたの…ジャックに近付く為にね、けどそんなワタシを貴方は必死にかばってくれた」
本当に嬉しかったわ
フールは微かに頬を赤らめ恥ずかし気に答える
そんな彼女を見て今まで美しいとだけ思っていたメイヤーは初めて可愛らしい方だと新たな想いを抱いた
フール「そ、それだけ…じゃあ、ワタシ皆のところに戻らないといけないから!」
何か言いたげに口を開いたメイヤーだったが、赤みを帯びた頬を隠すよう押さえるとフールは一座の元へと駆けて行った
その場に一人残されたメイヤーは呆然と走り去る彼女の後ろ姿を黙って見つめていた
ありがとう
彼女の言葉が頭にこだまする
それだけで自然と笑顔が溢れだした
ブギー「メイヤーの癖にいい女と仲良くなっちまってまぁ…」
その一部始終を遠巻きに眺めていたブギーは面白くなさそうに1人呟く
そんな彼の横から突然ひょっこり現れた丸い顔
ジャック「町長嬉しそうだなぁ」
ブギー「いきなり出てくるんじゃねぇよ」
突然現れたジャックに然程驚く様子もなく面倒そうに答えジロリと視線を送る
ジャックはそんな視線など気にせず淡々と語り始めた
ジャック「そういえば君達あれから結局派手に暴れてたらしいね」
ブギー「陽動、お前の頼みは聞いてやったんだ…ちっとはご褒美ってもんがあってもいいだろが」
ジャック「ご褒美ね、それで広場の至る所を破壊されるのはなぁ」
ブギー達は好き勝手に暴れたものの、住人達に対し酷い怪我は負わせないようにと一応加減はしていたようだ
まぁそこだけは褒めるに値するところだよな
そう考え溜息を吐きこれ以上とやかく言う事はなかった
ジャックが黙ると今度は入れ替わりにブギーが語り掛けてきた
ブギー「ところでお前、あの女…本当にあれでよかったのか?」
ジャック「君は反対なのかい?」
ブギー「別に反対する気なんざねぇよ、興味ねぇし…こっちに被害がないならな」
それはブギー自身、そして小鬼達に対しての事だった
身内には何だかんだと甘い一面のあるブギー
ジャックは勿論その事を理解しており、それを口に出す事はなかった
ブギー「…あ、そういやぁもう一つ気になってたんだがよ」
ジャックへと向き直るとブギーは腕を組み少々考え込みながら口を開く
ブギー「メイヤーの奴から聞いたがアイツの力ってのは相手を魅了して従者にするってもんらしいな」
ジャック「そうだよ、触れたり舞ったりして自分の色香で相手を虜にするって…それがどうかしたのか?」
するとブギーは突然顔を近付けてきた
眼前にある麻袋の顔がただひたすら此方をじろじろと眺めてくる
ちょっと近いんだけど
そう呟きジャックは一歩後ろへと下がり距離を離した
ブギー「なら何でお前は影響を受けなかったんだ?確か触れられたって言ってたよな?」
その問いかけにジャックは顔を顰めた
出来る事ならばその話題には触れないでほしかったのだ
話したくないと視線をそらす
常とは違うジャックの反応に自然と口元がにやつく
徐にジャックの肩に腕をまわし気さくに声をかけてきた
ブギー「おいおい諦めて素直にはいちまえよ、お前の頼みをわざわざ聞いてやったんだぜ~?」
ジャック「う、うるさいな…あと気安く触るな」
ブギー「おーそうかそうか、なら他の連中に聞いてみるとするかなぁ?例えばサリーとかな」
それじゃあな~!
身体を離すと手をふりジャックを待っているのだろうか、一人噴水の傍に立っているサリーの元へと向かい始める
そんなブギーの背を力強く掴む手
チラと見るとジャックの手が静止させるよう此方を掴んでいた
ジャック「……………他に、絶対にもらすなよ?」
ぼそぼそとなんとも嫌そうな表情で告げられる掻き消えそうな声
ブギーは満足そうな笑みを浮かべその場にとどまった