美麗なる舞姫
ジャックの言葉を遮ったもの
それはメイヤーだった
フールの前へと立ちまるで彼女を守るかのようにジャックを見上げる
町長「ま、待ってください!彼女がやった事は確かに謝罪だけで許されるような事ではないのは事実です!で、ですが…その…っ」
震える声で必死に告げられる想い
しかしそれ以上の言葉がなかなか出て来ずメイヤーはその場で必死に考え込む
そんなメイヤーの背を見つめフールは驚き目を見開いた
自身を必死に守ろうとするその小さな姿
ジャック「しかしですね…」
困り果てたジャックだったがふと手に触れる感触に視線を下げる
メイヤーの手だった
言葉を連ねる事が出来ない彼はジャックの骨の手を強く握りしめていた
その手は微かに震えていた
初めてみるその懇願する姿にジャックは開いていた口を閉じる
そして暫しの沈黙が流れた後、代わりに口元に笑みを浮かべた
ジャック「町長、いいですか?彼女は街を危険に晒しました…いくら頼まれても何もお咎めなしというわけにはいかないでしょう?」
町長「ですが…………………そう、ですね」
ジャックの言葉にメイヤーは納得するしかなかった
彼は王として正しい行動をしているのだ
領域を脅かした者には相応の罰が与えられるのは当たり前の事であった
メイヤーはその場から離れると悲観の顔をフールへと向ける
それを見届けるとジャックはゆっくりとフールへと歩み寄った
目の前に立ちただ黙って言葉を待つのみの彼女へと静かに口を開く
ジャック「君への処罰が決まったよ」
フール「ええ、聞かせて」
どんな言葉をかけられるのか
フールは冷静を保とうと必死に自らの手を握りしめる
しかし彼女の耳に届いた言葉は
その場にいる誰しもが予想していたものとは全く違っていた
ジャック「これからも皆にショーを披露してほしいんだ」
フール「そう……………え?」
聞き間違いかしら
自身の耳を疑いフールは顔をあげた
そこに見えたのは笑みを浮かべるジャックの丸い顔
ジャック「皆に迷惑をかけた事は事実だからね、ただ許すわけにはいかないんだ…だから罰としてショーでとにかく皆を楽しませる事!ハロウィンの準備で追い込みがかかると色々と疲れる事もあるから癒しは必要だよ」
フール「あの…ちょっと…」
ジャック「あ、それとショーで使う場所は例の酒場なんだけど、あそこは今人手が足りないみたいだから彼らと一緒に手伝ってもらいたい」
彼らとは一座の男達の事だ
元凶はフールであったが彼らもまた彼女の手駒として動いていたのだから罰は受けてもらうという考えだった
以上!
全てを告げ終えたジャックだったが目の前のフールは未だに状況を把握できていないのか困惑した様子だ
フール「何を言っているのか理解できないんだけど…それって罰なんかじゃないわよ?」
ジャック「そうかな?あの酒場はとても繁盛しているみたいだからそれなりに大変だと思うけどね」
それとも不服かい?
優しい声色で語り掛けてくる恐怖の王に対し暫し黙り込んでいたフールはたまらず笑い出してしまう
ジャックはそんな彼女の反応を見ても特に動揺などする事なく、静かに返答を待つ
フール「貴方って本当に………お優しい王様ね、ワタシを許すだなんて、何か礼でもした方がいいかしら」
ジャック「礼をするなら僕じゃなくて町長にしてあげてくれ」
突然名を呼ばれメイヤーは驚き妙な声をあげてしまう
何故自分が?
ジャック「町長があそこまで必死になるだなんて今まで見た事なかった、君の事を助けようとして…流石に驚いたよ」
サリー「そうね、町長さん凄く頑張っていたもの、きっとそれほど貴女の事が大好きなのね」
ワタシの事が大好き?
メイヤーへと視線を向ける
互いに目があい、途端メイヤーの顔が真っ赤に染まりだす
フール「…貴方」
町長「あ、その…」
すっかり口ごもりその場でもじもじと自身の指同士を絡ませどうにも落ち着きのない動きを見せる
その姿が妙に可愛らしいと感じフールは思わず笑みをこぼした
フール「……………ジャック、アナタのその罰…受け入れるわ」
ジャック「そういってくれて嬉しいよ」
彼女の言葉を聞き届けるとジャックは手を差し出した
その手は色白の細い手としっかりと重なった
タウンホールの扉を開くと同時にジャック達は多くの歓声に包まれた
そこに見えたのは操られていたはずの住人達の姿
どうやら無事、街は元通り平和を取り戻したようだ
「フール!」
姿を現したフールを確認するや一座の男達が一斉に駆け寄る
皆が心配そうに声をかける最中、フールは傍に歩み寄った男の口元に指を宛がった
フール「ワタシ達の負けよ、今日からは皆を喜び楽しませるだけの一座となったわ…皆はどうかしら」
予想だにしなかったその言葉に彼らは驚嘆した
互いに顔を見合わせ暫しの沈黙の後、同時に笑みを浮かべた
「フールがそれでいいなら俺達は構わない」
「そうそう、俺達はフールについていくって決めて共に旅をして来たんだ」
1人の男がフールの前に立つと大きな手を差し出すと色白の小さな手をしっかりと掴んだ
男の行動に驚いたものの、自身へと向けられる彼らの笑顔にフールは次第にその表情を和らげた
正気を取り戻した住人達に囲まれ引っ切り無しに声をかけられるジャック
そんな彼の元に駆け寄る4人の姿
ブラム「ジャック!無事でしたか!」
それは吸血鬼ブラザーズだった
ジャックの元へ駆け寄った4人は彼の無事を確認し互いに声をあげ喜びを露にした
ジャック「皆も無事元に戻ってよかったよ」
クドラク「吸血鬼であるにも関わらずああも容易く操られてしまうなど…なんとも情けない限りで」
クドラクのみならずカシング、フリッツの両者もばつの悪そうな顔を見せる
そんな弟達を見て苦笑するとブラムはジャックへと語り掛けた
ブラム「そういえばジャック、彼女達はこれからどうするのですか?」
ジャック「彼女達には償いとしてこのまま街の皆の為に働いてもらう事で意見がまとまったよ」
自身の問いかけに対し返って来た言葉
それを聞くなりブラムは驚きの表情を浮かべる
それはクドラク達も同じだった
フールの行いを考えればどうにも釣り合わない処罰
しかし彼らは反論などする事はなかった
それが我らが王の出した結論なのだから
ブラム「そうですか…それが貴方の下した決断なのですね」
やはり恐怖の王を名乗るにはお優しい方だ
だがそれこそが彼、ジャック・スケリントンなのだ
ジャックはその場に集う住人達に旅の一座、フールの事を告げると、皆揃って歓迎と言わんばかりの歓声を上げた
皆はこぞって一座の元へ駆け寄ると彼女達へあたたかい言葉をかけていく
そんな予想していなかった歓迎を受けるフール達の表情はとても輝いていた