美麗なる舞姫
一方広場では未だに皆が暴れ騒いでいた
小鬼達は住人を転ばして笑い、遠慮なしに頭を叩き、ゴーストやスケルトンをけしかけ追いかけまわす等、とにかく盛大に暴れまわっていた
普段は街中で暴れては大人達に注意されていたが、今はそんなお咎めを受け鬱陶しいと思う事もない
ああ、これが永遠に続けばいいのに!!
3人は当初の目的である住人達の解放、異変の早期解決の事などすっかり忘れてしまっていた
「こ、子供のくせに厄介な奴らだ!」
「何やってるんだお前達!相手はガキ3人だぞ!」
ロック「とろくさい大人になんか捕まるもんか!」
ショック「悔しかったらここまでおいでっ!」
バレル「まぁ無理だろうけどね~っ!」
一座の男達を挑発するよう3人そろって尻を向けペチンペチン
完全になめられている
男達は顔をトマトのように真っ赤に染め怒鳴り声を上げながら小鬼達を追いかけまわした
ブギー「あんな挑発に簡単に乗っちまうとは情けねぇ大人共だよなぁ」
非常に楽しそうな小鬼達を見て満足げに呟きブギーは前方に眼をやる
そこにはクドラクの姿
両者は互いの両腕を各々絡め押しあっていた
所謂力比べ状態だ
力に自身のあるブギーだったがクドラクも勿論負けてなどいない
どちらも相手を押しのける事なくその場で睨み合うのみ
そんな状況をブギーは心底楽しんでいた
彼ら吸血鬼ブラザーズと対峙するのは初めてであったが、彼の予想と反しなかなかに手ごたえを感じる戦いとなっている
流石に吸血鬼なだけはあるな
だがそろそろもっと違った方法で楽しませてもらうとしよう
ブギーは突然クドラクからその手を離し左へと身を避けた
均衡が崩れ支えを失ったクドラクは思わず前方へとよろめく
一撃お見舞いして耐えられるか試してみるとしよう
拳を強く握りしめ徐に彼の顔面めがけて素早く繰り出した
しかしそこで誰も予想していなかった事態が起こる
クドラク「…あ、あれ…ここは一体…」
クドラクが突然喋りだしたのだ
突如起きたその出来事にブギーは気付いたが時すでに遅し
振るった拳は止まる事無くクドラクの顔面に直撃した
攻撃を防ぐ事なく勢いのある拳を受けたクドラクの身体は宙を舞い地へと転がった
ブギー「………不幸な事故だったなぁ」
攻撃を繰り出した本人はどうしたもんかと考えたが、腰に手を当てると悪びれた様子もなくこれは事故だと言い放つ
倒れ込んだクドラクは頭でも打ったのだろうか目を回してしまっており、その言葉を聞く事はなかった
カシング「…こ…ここは…」
フリッツ「一体何をしていたんだろう…」
時を同じくしてブラムと対峙していた彼らもクドラク同様、急に動きを止めたかと思うと言葉を発し周囲を見渡す
更に広場に集まっていた住人達からも同じような反応が見て取れた
皆、元に戻ったのか
身構えていたブラムは殺気だっていた表情を和らげるとタウンホールへと視線を向ける
ジャック
成功したのですね
すっかり安心したのかその場に座り込んでしまうとブラムの口元に自然と笑みがこぼれた
皆が正常を取り戻したその頃
タウンホール内ではジャック、サリー、メイヤーの3人が女性を取り囲むようにして立っている
そこにはフールは力なくへたり込んでしまっていた
ジャック「これで皆、元に戻ったようだね」
サリー「ジャック、ごめんなさい…私ったらなんて事を…」
操られていたとはいえジャックに対し自らが行った行動をようやく理解したサリーは申し訳なさそうに俯く
ジャックは苦笑しそんな彼女の肩にそっと手を重ね優しい声をかける
ジャック「サリー、君は何も悪くないさ…ね?…と、それに町長…手荒な真似をしてしまってすみません、顔は大丈夫ですか?」
見ると壁に盛大にぶつかった町長はどうにも痛む顔を擦りながら何度も頷く
町長「い、いえいえ!これくらいどうという事はないですよ!」
まぁ痛いのは痛いんですけどね…
そんな事を考えながらメイヤーはフールへと視線を送る
ジャックに恐怖しすっかり意気消沈してしまったらしく、座り込んだまま動かない
少々心配に思い声をかけようとするが、途端フールが勢いよく顔をあげジャックへ声を荒げた
フール「おかしいわよ…貴方だけワタシの色香が通じないだなんて…どういう事なのよ!説明してちょうだい!!」
ジャック「うーん…そう言われてもなぁ、僕にもよくわからないよ」
他の者と違いジャックにだけ通じなかった効果
フールは何故と何度も問い詰めるが本人も理解していないため答えようなどなかった
フール「今までワタシに魅了されなかった奴なんていなかったわ!誰もが虜になってワタシに尽くしてきたんだから!」
彼女の言葉に耳を傾けていたジャックはやはりわからないと首を傾げる
サリーも同様に不思議に思い考え込む
町長「あ」
そこで何かわかったのかメイヤーが声をあげた
皆が彼へと視線を向ける
町長「あの、もしかしてなんですけど…ジャックが影響を受けなかった理由、わかったかもしれません」
途端フールが素早くメイヤーに飛び掛かり肩を掴んで必死に声をあげる
続けざまに彼の身体を激しく前後に揺すりだす
フール「本当に?何でなの?はやく教えて!!!」
町長「わ、わかりました話しますから身体を揺さぶらないでくださいぃぃ!」
誰か助けてください!!
メイヤーは揺れる視界の中にジャック達を見て必死に助けを求めた