美麗なる舞姫
ソウルラバーを構えていたジャックだったが、その腕に何かがしがみついた
サリー「ジャックったら女性に暴力なんて駄目じゃない」
ジャック「さ、サリー!?」
右腕にサリーがしがみついたのだ
どうにかして振り払おうと考えたが相手はサリーだ
もし怪我でもさせてしまってはと躊躇してしまう
続けざまに後方から左足に何かが飛びつく
それはメイヤーだった
離すものかと全力でしがみついている
ジャック「町長!?」
こんな時に何してるんですか!!
慌てて声をかけたが彼の顔を見て思わず声を詰まらせる
ゆっくりと此方へ向けられた顔
怪しげな笑みを浮かべたその表情にジャックはしまったと思わず舌打つ
メイヤーもまた
皆同様影響下に陥ってしまっていた
フール「随分と楽しそうね」
そんな光景を眺めフールが目を細め笑む
とにかく二人を離さないと身動きがとりにくい
ジャックは2人ともすまないと内心呟きながら振り払おうと力を込めた
しかし二人は離れるどころかますます力を強めジャックの身体にしがみつく
その強さに驚き狼狽えてしまう
サリーもメイヤーも身体能力は特に高いわけもなく、勿論力も此方よりは劣るはず
しかしこの時、ジャックがいかに腕や足を振るおうとも2人はその手を決して離す事はなかった
ジャック「二人ともしっかりしてくれ!!」
全力で振り払えばいいだけの事ではあるが、それでは2人が負傷してしまう
特にサリーにそんな真似など出来るはずがない
困り果て何とか正気に戻らないものかと必死に声をかけ続ける
随分とお優しい王様ねぇ…
暫しその様子を眺めていたフールはまるで飽きたと言わんばかりに溜息を洩らすとジャックへと一歩ずつ歩み寄る
その気配に気付いたジャックが動きを止め前方へと視線を向けた
ジャック「二人を今すぐ元に戻すんだ!」
フール「それが人にものを頼む態度かしら、礼儀がなってないわ」
此方を見据える顔に手をすべらせる
丸い骸骨の輪郭を指先でなぞり、そっと顔を近付けると耳元で囁いた
フール「けど許してあげる…安心して皆と同じく私のものになって頂戴ね?」
同時にフールの顔に喜色が表れる
しっかりとその骨の感触を確かめるような指の動き
そこでジャックはようやく気付く
彼女の言葉の意味
皆と同じく自身も影響下におちる
暫しの沈黙が流れた
フール「…?」
ジャック「………あれ?」
フールは不思議そうに1人首を傾げた
そんな彼女の反応を見てジャックはきょとんとした表情で数度眼窩を瞬かせる
ジャックを睨みつけると突然その丸い顔を両手でつかんだ
ジャック「え、ちょ…っ」
ペタペタと丸顔をくまなく触り頬をつまんで引っ張る
ジャック「ひょっとひみらにひてるんひゃ!?」
頬を何度も引っ張るフールに抗議するよう喋るもうまく言葉を発する事が出来ず何とも間の抜けた状態になってしまう
するとフールは突然その手を離した
ようやく解放された…
一安心とほっと息つく
しかし今度は胸倉を掴まれ引き寄せられた
まだ何かするつもりなのか!?
抵抗しようと空いている手をフール目掛けて伸ばした
フール「ちょっと貴方!私に何も感じないの!?」
ジャック「……………は?」
彼女の次の行動を警戒したジャックだったが突然の意味のわからない怒声に伸ばした手を止める
フール「私の色香が通じない奴なんていないのよ!?男も女もね…けど貴方は何も変わらない…何でなのよ!」
ジャック「そ、そんな事言われても知らないよ!」
フールはジャックの様子が変わらない事に驚き戸惑いを露にしていた
ジャックは暫しの間をあけ、そういう事かとようやく理解する
どうやら彼女、フールは他者を自身の色香で魅了し自在に操る能力を持っているようだ
その方法は先程のメイヤーのように直に接触する
また視覚的にも効力を発揮するのだろう
それならば住人達のほとんどが影響を受けたのも納得だ
彼らは皆、ショーに訪れていた
あの場で踊るフールの色香を受けたのだ
だがそこでふとある疑問が浮かぶ
それならば何故自分は無事なのだろう
あれだけベタベタと触れられたのならば今毎皆と同じような状況に陥っているはずだ
どれだけ考えてもその謎は解ける事はない
だが…
目の前に視線を向ける
そこには訳が分からないと落ち着きのないフールの姿
そんな光景にしがみついていたサリーとメイヤーは首を傾げている
とにかく彼女自身にもわからないという事だけは理解できる
そしてすっかり狼狽えてしまっており何とも無防備だ
今のうちだ
ジャックは素早く足を後方へと振った
狼狽えるフールの姿を見つめ力の抜けていたメイヤーの身体はいともたやすくその足から引き剥がされ、勢いをつけ床の上を転がっていった
そのまま壁まで転がっていくと顔面から衝突し、ようやく静止する
町長すみません!
心の中で動かなくなったメイヤーに向け謝罪すると今度は腕にしがみつくサリーを離すべく動く
長い足を彼女の足元へと滑り込ませたのだ
そのまま水面を蹴るように足元を刈る
バランスを崩したサリーはその場に尻もちをついてしまう
フール「私に魅了されない奴が存在するだなんて…信じられない、どうなってるのよ…」
1人ブツブツと呟いていたフールだったが突然片腕に何かが触れ弾かれたように顔を上げた
そこにはジャックの姿
手首をつかむ骨の手に力がこめられ痛みに声を漏らす
ジャック「よくわからないけど君のその力は僕には効かないみたいだね、さて……」
どうしてやろうか
近付いてきた骸骨の口元が常より大きく裂け、そこから響く低く全てを凍り付かせるかのような恐ろしい声
その声と共に豹変した顔
心の底からぞっとするような冷徹な笑い顔を見て一気に青ざめた
本能的に危険だと察する
しかし掴まれた手首はどれほど暴れようとも解放される事はなく
フールはその足を震わせ思わずその場に座り込んでしまった