美麗なる舞姫
街の広場にウェアウルフの叫声が上がる
ブギーに襲い掛かったものの地に叩きつけられその巨体をもって動きを封じられていたのだ
激しくもがき押しのけようとするも体格差もありそれはかなわず、鋭い爪が虚しく地を引っ掻く
ブギー「犬っころは大人しく伏せてろっての」
引っ切り無しに上げられるけたたましい声に煩わしそうに眉を顰め、更に自身の体重をかける
中身は虫であるものの、その量からしてかなりの重さ
ブギーの全体重を受けウェアウルフは内臓を圧迫され口から次第に泡を吹く
暫くその様子を眺めていたブギーだったが、次第に抵抗が弱まりその動きが止まるのを見届けてようやくウェアウルフの上からその身を離した
ブギー「躾のなってねぇ獣ってのは厄介なもんだよなぁ…うおっ!?」
横から素早く振り下ろされた腕に気付き咄嗟にその身を後方へとそらした
思い切り背をそらした為、少々バランスを崩し数歩後ろへとよろめく
ようやく体制を立て直し何事かと目をやるとそこにはクドラクの姿
目標を失い空を切った腕を見るやすぐに立ち上がり顔のみをブギーへと向ける
ブギー「次から次に…退屈しねぇよなぁ全く」
まだまだ暴れたりねぇとこだしな
クドラクが此方へと駆け出す
ブギーは避ける事無くその場で身構えた
クドラクがブギーへと襲い掛かる光景を目撃したブラムはやめさせようと弟の名を叫んだ
その際にそちらへと注意を向けていたブラムの隙をつくようにフリッツが動きを見せる
上空へと高く飛ぶと勢いをつけ頭上から襲い掛かった
それと同時に左からカシングがブラムを捕らえようと掴みかかる
間一髪のところでその気配に気付いたブラムはその場で身を低め、カシングの伸ばした腕を下方から掴み上げる
続けてカシングの身体を上空へ向け全力で投げ飛ばした
軽々と飛ばされたカシングの身体は上空から襲い掛かるフリッツの身体と激しくぶつかり合い両者共に地面へと墜落する
ブラム「お前達、いい加減にしないか!!」
何度攻撃をしようとも起き上がり襲い掛かる自身の弟達に喝を入れるべく声を荒げる
しかしその声はやはり彼らの耳に届く事はなく、もつれ倒れた2人は身を起こそうとその場でもがくのみ
相手は自身の弟達だ
出来る事ならこれ以上争い傷付くような事はしたくはない
ブラムはタウンホールへと目をやった
中ではジャック達が元凶の女性、フールと対峙しているだろう
ジャックの無事と共にこの状況が早く改善される事を願い、再び向かってくるカシング達に自ら駆け出して行った
光の元へと到達したジャック達はようやく開けた視界に映る光景を見て立ち止まった
そこに見えたのは目的である女性、フールの姿
しかし彼女の隣に見えるもう一つの姿に2人は思わず動揺する
「あら、ジャック…それに町長さんも」
予想外の人物の正体
それはサリーだった
ジャック「さ、サリー?」
何故彼女がここに?
わけがわからずジャックは驚きを露にする
見るとフールとサリーは何やら楽し気に茶菓子を手に会話を楽しんでいたのだ
町長「な、何故彼女がここに…?」
サリー「二人ともどうしたの?凄く驚いてるみたいだけど」
サリーは不思議そうに首を傾げ此方を見つめている
その横に腰掛けているフールはそんなジャック達の表情を見てクスクスと笑い声を漏らした
ジャック「どうして君がここにいるんだい…?」
サリー「フールさんにお茶に誘われたの、彼女の作ってくれたお菓子とっても美味しいのよ、二人も一緒にどうかしら」
そう告げるサリーの手元には皿に盛られたクッキーが見える
それぞれがカボチャや猫などの形を成しており、甘い香りが鼻を掠める
確かに美味しそうだ
町長「確かに美味しそうなクッキーですねぇ……………はっっ!!」
思わず食べてみたいと考えてしまったがメイヤーは慌てて顔を振り何とか冷静を保つ
ジャックはその場にとどまったまま無言で周囲に視線を走らせる
周囲に自身達以外の姿はなく同時に気配も感じない
それを確認するとジャックはようやく口を開いた
ジャック「サリー、今街は大変な状況になってしまっているんだ…ここにいては危ない、だから君は今すぐ研究所に戻って…」
サリー「危ない?どういう事なの?」
フール「ジャックったら一体どうしたのかしら…変な人ね」
フールがまるで此方が可笑しいとでもいうように笑みを浮かべる
それに合わせサリーもクスクスと笑みを浮かべた
ジャック「サリー、笑っている場合じゃないんだ、さぁ早く研究所へ」
歩み寄りサリーの手を掴もうと腕を伸ばした
しかしその指先が触れる瞬間
ジャック「…え」
その手は叩かれ触れる事はなかった
サリーがジャックの手を拒んだのだ
再び予想していなかった出来事にジャックは呆然としてしまう
サリー「ごめんなさいジャック、私フールさんともっと沢山お話していたいの」
そう告げるとサリーは自らフールの手を取り満面の笑顔を浮かべた
フールは満足そうな表情を浮かべると色白の手をサリーの赤い髪へ伸ばし、細い指先で軽くすく
サリーの様子を見てジャックは愕然とした
無事であってほしいと願っていた愛する女性も、皆と同じく彼女の影響を受けてしまっていた
よくよく考えてみれば予想できる事であった
ほとんどの住人は酒場を訪れており、彼女の影響を受けてしまっている
ならばその場にいたサリーも例にもれず影響を受けているかもしれないと
フール「ところでジャック、もしかして私に何か用だったかしら」
平然と語り掛けてくるフールへ徐々に苛立ちが募る
ジャック「今、街が異変に見舞われている…君が原因だという事はわかっている」
フール「私がいつ、何をしたというの?詳しく聞きたいわ…ゆっくりと」
ジャック「残念だけど君とのんびり語り合うつもりはないんだ、とりあえず皆を元にもどしてほしいんだけど………僕が大人しくしているうちに済ませてほしいな」
ジャックの言葉にフールはなんともつまらなそうに溜息を洩らした
寄り添うサリーの肩を軽く押すとその場に立ち上がり、ヒールを鳴らしジャックの前へと歩み寄った
フール「そう、貴方とは色々語り合いたかったけど…残念ね」
町長「ふ、フールさん…否定はしないんですか…」
愕然としていたメイヤーに視線を送ると真っ赤な唇が静かに開く
フール「否定…?だって、彼がいう事は真実だもの、否定なんて必要ないわ」
町長「な、なんて事を…今すぐ皆を元に戻してください!」
メイヤーは声を荒げるとフールの傍へと駆け寄った
自身より背丈のある彼女を見上げ必死に語り掛ける
そんなメイヤーを見下ろしていたフールは身を屈めると彼の頬にそっと手を添える
フール「元に戻す、ねぇ…どうしようかしら………ねぇ、町長さん…どうすればいいかしら」
ジャック「町長!彼女から離れてください!」
2人の接触を阻止するよう咄嗟に駆け寄るとメイヤーの腕を掴み強引に引き寄せた
あらあら怖いわねぇ
尚も楽しそうに声を漏らすフールに鋭い視線を向けるとジャックはソウルラバーを構えた
ジャック「手荒な真似は控えようかと思っていたけど…君がそんな態度なら仕方ない」
フール「女性に暴力?酷い人ね…そう思わない?」
するとフールの言葉と共に何かが素早く動いた